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ネイバーワールド・オンライン  作者: レルクス
仮想の沙汰も金次第
208/218

レイク・インフレーション

「ゼツヤ君!」


 工房のドアが開かれて、ミズハが入ってきた。


「どうした?」

「昨日、オークションをやってたよね」

「ああ。完全にNPC任せだったが」

「何か聞いてない?」

「俺はなにも」

「実は……」


 ミズハの言い分に、ゼツヤは少し驚いた。


「出品したオラシオンシリーズ、それも後半部分は全て落札したのか」

「うん。白いメッシュを入れた黒髪のプレイヤーだったかな。後半の重要なところは全部買って行ったんだよ」


 こんなことが出来るのは……まあ、やっぱりあいつだよな。


「プレイヤーネームは?」

「ダムアっていうプレイヤーだよ」

「……」


 初耳だが、ほぼ確定だな。


「ま、どこかの商業ギルドの人間だろうな」

「でも、そんな大量にオラシオンシリーズを所持してたら、チームを組んだ瞬間に狙われるんじゃ……」

「その程度のデメリットは織り込み済みなんじゃないか?第一、落札できるほどの資金を持っているだけで目を付けられるだろうしな」

「じゃあ、このまま放置するの?」

「俺の私情で誰かに渡すのならともかく、オラシオンシリーズの流通原点は俺が開催するオークションであるということは昔からだ。少なくとも五、六年くらいはそれが続いている。そういう習慣とルールを俺が作ったんだから、そのルールを利用する権利は誰にでもあるからな」


 ルールがあるのだ。違反さえしなければ何をしようと別に介入しようとは思わない。


「そういうものかな」

「そういうものだ」

「でも、このままだとオラシオンシリーズが独占されちゃうんじゃ……」

「作れるのは俺だけなんだから、俺がちょっと動くだけで独占なんてできないよ。それくらいは分かっているだろうし、それに、おそらく、そいつは手に持ったまま、なんてことはしないよ」

「どうしてわかるの?」


 どうしてと聞かれても困るのは事実だが……どう説明したものかな。


「そもそも。どうやって集めたと思う?その資金」

「……どうやったんだろうね」


 分かれば苦労しない。


「おそらく、『交渉』のスキルだ」

「あの、一割だけメリットがあるアレ?」

「そうだ」

「でも、あれだけで稼げるとは思えないんだけど……」


 まあ、これはゲームである故なのだが……。


「今、NWOで一番経済的に高い水準……いや、難しい言い方は止めようか。もっとも金が動いている場所ってどこだと思う?」

「それは……ロードキャッスル城下町にあるバスタードマーケットだと思うけど」

「俺もそう思うし、実質その通りだろうな」


 いつでも転移出来るというのがゲームの特徴なのだ。

 いや、いつでも、というとゼツヤくらいしかできないが、少なくとも、町にいれば他の町に行くことができることを前提とすれば、広い場所があればそのまま市場ができる。

 バスタードマーケットは、それに適応した場所なのだ。

 ロードキャッスルは到達難易度はそこそこ高いのだが、到達するまでの道はかなりシンプルなので、比較的たどり着くのは容易だ。

 そのような場所なので、人が集まる。

 物件も、マップ的に後半部分にある町としては値段もそこそこと言った程度なので、かなり人が集まる。


「で、そのバスタードマーケットで、商人がプレイヤーから買い取るアイテムの最低金額は決まっているんだ」

「そうなの?」

「ああ。というか聞けば一発で分かる話だが、NPCって言う存在がいるからだよ」


 ミズハもわかったようだ。


「そっか。NPCにアイテムを売った場合の値段設定は変更されないから、必然的に、NPCに設定されている金額が最低ラインなんだね」

「それ以上買い取り価格を下げようとすれば、プレイヤーからすればNPCに売ればいいって言う話になるからな。だから、アイテムにもよるが、その金額から……そうだな。軽いレアアイテムなら10から100っていう差でいろいろ金額を設定しているって言うのがNWOの価格設定だ」

「へぇ……」


 まだ分かってないのか?


「ここで出て来るのが、さっき言った『交渉』の話だ」

「あ。そっか。交渉スキルを使えば、その最低ラインが高くなるんだね」


 例として、NPCに売ると1000レイクのものをプレイヤーが持ってきたとしよう。

 当然、価格の最低ラインは1000レイクになる。この数字は変更されないのでずっとこのままだ。

 そうなると、バスタードマーケットだと1000から1100という相場である。

 もちろん、欲しいアイテムがあるのなら、そのアイテムだけ1200くらいにまでなるかもしれないし、もっと上がる可能性もあるが、その程度で止まる。


 もちろん、バスタードマーケットよりも前の町で取引する場合は若干変わるかもしれないが、NPCに売った場合の値段が変わらないのはどこでも同じだ。


 だが、『交渉』があると違う。

 交渉を持っているプレイヤーだけ、最低ラインが1100になるのだ。

 これはかなり有利になる。

 しかも、相場価格と比較しても漠然とした差があるわけではないのだ。結果的に、そこまで大きく出ることができない代わりに継続できる。


「そのダムアって言うプレイヤーは、交渉スキルを持っているんだね。だから、他の人と比べると有利な価格を設定できる」

「そうだ。こればっかりは、気付いたもの勝ちだろう」

「そうなの?」

「と言うより、交渉が『人が作ったシステム』ではなく、スキルだからだ。熟練度が上がれば、それに応じて交渉で有利になる%が増えるだろう。そう考えると、この価格設定にかなりの影響が出る」

「なるほどね……」


 ゼツヤは数々の作成を行いながら熟練度を確認していた時代があったので、熟練度が上がる感覚は何となく掴めるのだが、オラシオンオークションの後半部分を支配できるとすると……どうだろう、バスタードマーケットで動いている値段を察すると、取引量はすさまじいし、最低でも熟練度は、最大の1000のうち、300くらいはあっても不思議ではない。

 予想できる%は、最初を10%として、熟練度が100上がるたびに4%上昇。熟練度が900になった時にメリットが42%になるので、そこから熟練度がマックスになる時だけ8上がって50%になる。と言ったテンポだろうか。似たような%の動きがあるスキルがいくつかあるのでそれを参考とした数値だが。


「値段設定を他よりも高くできるのなら、当然プレイヤーも来る。まあ、そこそこといったレベルを超えた数が来るだろうから、正確にさばく必要はあるが……まあそれはNPCソルジャーを買えば何とかなるだろう」

「へぇ……ゼツヤ君ってそう言うのは詳しいんだね」

「まあな」

「それにしても、ゼツヤ君ってそういう経済的なこともわかるんだね」

「だからってやろうとは思わないけどな」

「どうして?」

「別に俺は販売だとか営業だとか、そういうセンスがあるわけじゃない。そういう形態にすると、他のコミュニティとの密接な関係も必要になって来る。NWOに株式なんて存在しないから、異なる目的を持つ人間が一つの団体のために出資するのも一苦労だしな。そう言うのは苦手だ。だが、極端に高い生産能力と、後は隠れることができる程度の実力があれば、オークションでも開いておけば文句は言われない。オークションはプレイヤー同士の競争だからな」

「なるほど……」


 知識として知っていることであったとしても、それを活かせるわけではない。

 知識と経験は違うのだ。

 確かに、経済であっても原理や原則はあるだろうから、大局的に見れば当てはまるのだろう。

 だが、日々のやり方に関しては管轄外である。


「経済かぁ……私はアイドル活動でいろいろ聞いてるけど、はっきり言って分からないけどね」

「ミズハって年収どれくらいもらってるんだ?」

「ん?五千万円くらいかな」

「……」


 稼いでるなぁ。

 ていうか、アイドルで五千万円って……多分アイドルの年収のトップテンに入れるぞ。

 あと、そんな風には見えません。


「そのわりに金銭感覚は普通だよな」

「父さんが浪費家でね……借金の利息が……闇金には手を出していないみたいだけど、ギャンブルと課金が……」


 すごく生々しいな。

 っていうか、あったことないけど、ミズハの両親ってどんな人なんだろう。

 ゼツヤの両親もネタには困らないけどな。

 五十路越えの男の娘と、高校三年の息子がいるっていうのに今だ三十路の女性だぜ……。


「……だが、それほど心配もしてないだろ」

「そうだね。いざとなればゼツヤ君に何とかしてもらうし」

「俺任せかよ……」

「ゼツヤ君ならリオさんから仕事紹介してもらえるでしょ」

「ていうかこの前国賓の接待のために作りまくったばっかりだしな」

「どれくらいもらったの?」

「ん?……フフッ」


 ゼツヤは適当にはぐらかした。


「ちょ、教えてよ」

「勘で当ててみろ」

「むむむ……四億二千万」

「なんで分かるの……」


 理不尽な。


「ていうか多すぎない?」

「人件費が俺に一斉集中したからな。後、継承すらされていないような技術をふんだんに使ったから結果的にこうなった。あと、俺の金銭感覚の話じゃなくて、リオの金銭感覚は……ネジが飛んでるって言うより、ネジで止まってないからな……」

「確かにそうだね。ていうか、ゼツヤ君も金持ちなんだね」

「そうなるな」


 だからといって、と言うことになるわけだがな。

 ていうか、リオってどれくらい稼いでるんだろう。

 ちょっと気になった。

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