やっちまったな。あのバカ
「何だろうな。海上にギルド本部を作るギルドとかも出始めたけど、そこまで海の上で戦うやつっていなかったな」
沖野宮高校の教室で、道也が呟いている。
その隣では、竜一が溜息を吐いていた。
「当然だろ。海の上って言うのは何もないからな。足腰も言うことを聞かないし、戦闘に必要は勘が全然違う。船だって最低限のものは必要だからな。初期のころから船で活動することが多かったオブシディアン海賊団も、あそこは移動専門みたいな感じだったし」
それに、ゲームだからこそ、海の方だって待ってはくれない。
ゼツヤがやっていたように潜水艦を作ることが出来れば、海中ではそこまで脅威なものがないというNWOの特徴を活かせるのだが、それができるものは多くはないし、そもそも潜水艦だって数々の抜け道を使って出来たものだ。
まだ余裕が出るのは先である。
「まだ時間がかかるだろうな。まあ、俺は必要なものは手に入れたからしばらくは放置するけど」
「もういいのか?」
「準備に若干時間がかかるだけで、やったら早いからな」
「まあ、それはそれでいいがな」
結局、海のアップデートとは言っても、大した差はない。
というか、ノウハウの蓄積が必要なのだ。面倒な状態である。
そう思った時、教室にデュリオが入ってきた。
「竜一。道也。アップデートがまた出てきたぞ」
「さすが同好会。情報は早いな。で、何かあったか?」
「クエストリワードのスキルが若干追加されたくらいだな。まあ、色々修正は入っているが、そこまでたいしたものではない」
「例えば?」
「使い方がよく分からないスキルがあった。『交渉』というものだったが」
デュリオが言ったスキル名を聞いた瞬間、竜一は苦い顔になった。
「……そのスキルの効果は?」
「気になるか?確か、NPCを相手にアイテムの購入時と売却時、一割有利になると言っていたな」
「確かに交渉だな。だが、その程度のメリットがあっても、俺達にそこまで影響はないだろ」
デュリオの説明に道也はそう言った。
だが、竜一は苦々しい表情をやめなかった。
「竜一、どうした?」
「いや、ちょっとな……」
竜一の頭によぎったのは、白いメッシュを頭に入れた黒髪の少年。
「デュリオ。リトルブレイブスが稼げる一年間のレイクってどれくらいなんだ?」
「何だ急に」
「いや、ちょっと気になった」
「まあいいが……そうだな。大体二千万レイクってところだろ。規模的には中堅ギルドだしな」
「二千万レイクか……」
まあ、そんなもんか。
一月に百六十万レイクだろう。
まあ、ゲームだと思えば納得できる数字である。
「そう言う竜一はどうなんだ?」
「オークションワンセットで一億くらい」
「「ブフッ!」」
流石、生産の最高峰だと褒めたらいいのか、そんなにため込んで何をしているのかと突っ込めばいいのかわからない数字である。
「オークションってどれくらいの頻度だったっけ?」
「月一だな。というか、それ以上の頻度でやると大手のギルドでも資金が集まらないから、そのあたりで止めてるって感じだ」
「それにしても……すごいな」
「だが、納得できる数字でもあるからな……というか、NPCに売っただけでもかなりの儲けになるんじゃないか?さっきの交渉スキルを使って」
「レアリティが一定以上になるとNPCに売れなくなるんだよ。で、俺のは売れません」
「なるほどな……」
まあ、それはそれとして。
「その年間利益だけどな。一回もモンスターを戦わずに俺以上の稼ぎを叩きだすやつが出始めるかもしれないって言うことだ」
「単純計算、年間十二億を普通に出すってことか?」
「そうだ」
「そんなことが可能になるのか……だとしたらすさまじい」
「まあ、コミュニケーション能力はかなり必要になって来るけどな。しかし、運営も何考えているんだか……まあ、今くらいのレベルでプレイヤーがいないとアイツも満足できないかもしれないけど……」
「何か心当たりがあるのか」
「ないわけじゃない」
ただ、あいつが動かない理由がないというだけの話だ。
今までにも動いていても不思議ではないが……。
まあ、本当にいたらの話だがな。
竜一は溜息を吐きながら、どうしたものかと考え始めた。




