ミズハの運営力
「……」
ゲームの中で遊園地が存在すると言う状況だが、これはあってもなくても、余った金額をどうにかする程度のものだ。
小銭を持っていても仕方がないということもあるからな。
国際空港のガチャガチャは儲かるようだがそういう理由である。
無論、リアルのようにガチャは……ゲーム内ならあるかもしれないが、ゲームの中にアトラクションを作ってもあまり意味はない。むなしい人にとってはむなしいからな。
で、VRMMOであることを考慮すれば、存在意義はかなりある。
リアルの物理法則を、『魔法』というシステムを利用することで突破できるので、そう言う部分を利用することで、本来はあり得ない動きをすることも可能だ。
ゼツヤは、実のところ、大きなものを作ることはない。
建物を作ることも多くはなく、基本的には手にもてる範囲の大きさのものを作る。
保管が簡単と言うこともあるのだが、それは置いておくとして。
「ミズハ、本格的にアトラクションをして運営しているみたいだな……まあ、値段設定は平均的なプレイヤーの収入と、リアルにおける金銭や前例を考慮すればいいだけの話だから問題がないといえば問題はないんだけど……」
ゼツヤは工房で掲示板を読んでいた。
隣ではサターナがプランターの植物に実っている果物を食べている。
「ゼツヤ。この世界でアトラクションって儲かるのか?」
「回収はほぼ不可能って言うのが前例だな。客の回転率にもよるが」
作るのに本当に時間がかかるのが普通であり、製作コストもバカにならない。
それをまず回収して、その上でどうするのかと言う話になる。
ゼツヤが全て作ったのでミズハの損害は0である。
ただし、ミズハが最後の人気向上のために運営しているという現状だと、それ相応の客は欲しいだろう。
別に無料で遊んでもらうのもいいだろうが、どこからどう見ても作るのに金のかかった遊園地なので、無料開放してしまうと怪しくなって出てこないのだ。
ある程度に値段設定は必要である。
一応、ある程度のイベントを開ける程度のネタは用意しているが、一人では当然限界が来る。
「まあ、広場もそこそこ多いし、ミズハが呼ぶのか、誰かが場所を借りに来るのかは知らんが、何かあるだろう」
「最近、エンタメサモナーも増えてるしな」
「レインがいろいろと布教しているようだな。まあそれもあるし、もともと、スキルを使ったネタって言うのは多いから、することには困らないと思う」
「勘がいいのもあるだろうな。原因を調査せずに知ることができるって言うのは相当な運営だぞ」
「だな……」
あれほどの巨大なアトラクションだ。
ほとんどがシステムとして自動になっているとはいえ、一人で回すのは困難だ。
いや、困難というより、一人の人間に寄って様々なニーズを満たすというのが不可能なのである。
「それにしても、とんでもないものを作ったもんだな……」
「九割くらいは勢いだ。いろんな商業ギルドが入ってきているみたいだし、そこそこ熱気はあるだろう。少なくとも、短期的に見れば、と言う条件付きだが」
ゼツヤは溜息を吐きながら言う。
「ゼツヤは、あのアトラクションの熱気はいつまで続くと思う?」
「悪くはない回転率だし、同じものを並べているところもあるから通常の遊園地より客の回転速度はある。オマケに、借金も土地代もないからな」
製作コストはゼツヤ持ちだし、海の上なのですべての土地代金が関係ないのだ。
「ただ、安定した顧客はできると思うが、一つの遊園地が抱えきれる客の数には当然限界がある。ミズハも勘で分かっているだろうし、すでに実感している可能性もあるがな」
「それと……ミズハ本人がアトラクションを作ったわけではないからな」
「ミズハが持っている生産スキルは、おそらく細工スキル程度のものだ。職業だって『アルテミス』で、生産系ではない。自動で治るようにはなっているが、今以下にならない代わりに、今以上にならないというのが現状だろう」
さらに言えば、あのアトラクションは広げることも別に不可能ではない。
だが、ミズハにそのスキルもノウハウもない以上、その広げるのはミズハではない誰かだ。
「ところでサターナ。ミズハの勘の構造を知ってるか?」
「いや、俺は知らないが……ゼツヤは分かってるのか?」
「ああ。というより、俺も考えた末にわかったものだが……ミズハの勘の構造って言うのは。『受信』と『演算』でできている」
「なんていうか……『未来予知』みたんだな」
「ミズハの場合は無意識にやっている。それと、取捨選択が行われていない。全部、頭の中に入るんだ」
「どういうことだ?」
「意識的なものでないということは、本人の主観が入らないってことだ」
全てを見るというか、見ないものがないというか、そんな感じだ。
「そして、客観的なものでもない。そこにあるものを、そのまま受信している」
「それは……勘って言うのか?」
「そうだな。これだけだとただの『観察眼』だ。演算の方も思っていたより普通だし」
「ほう……」
「ミズハの集中力は平均的なものだ。少なくとも、集中力先天性過剰症である俺と比べると普通としかいえない。だから、結局受信の方法に何かあると思っていたんだが……思ったよりやばかった」
「ん?」
「そもそも、人間の眼と言うのはあるものすべてを見る要にできていない。。普通に考えてパンクするからな。脳が処理しきれない。ミズハの最大の特徴だが、『必要ではなかった情報の整理』が圧倒的に優れている」
サターナは首をかしげる。
「あるものをそのまま認識するミズハだが、ぶっちゃけ、見た情報の中で自分に関係があるものはかなり少ない。だが、ミズハはこの要らなかった情報を全て、キーワード管理して頭の中に保存する」
キーワード整理。
おそらく、これをもとにしたエッセンススキルは他にもあるだろう。
しかし、ミズハにとっては重要な意味がある。
「一度見たものを忘れないのか?」
「というより、記憶能力に対して行われる入力方法が違うと言ったところか。そして、それを引っ張りだすために、受信段階でキーワード整理するようにできている。一度見たものは実際に見たように鮮明に覚えているし、それがどういうものなのかが本人には鮮明に分かる。ただし、まだ脳味噌の方が使いこなせないんだろうな。リオが言うには、少なくとも学生の時点でコントロールできるエッセンススキルはないということらしい」
「ゼツヤの場合は精神疾患だよな」
「俺の場合は、これとの付き合い方の問題だな」
ただでさえ人工的に人格を作って普段から表に出しているくらいだからな。
というか、それが解決手段だったということもあるが、それで解決できるというのも変な話なのである。
「リオでも完全な制御は学生のうちはできなかったようだから確実だな……で。ミズハが本来尻用のない情報を獲得している理由だが、おそらく、今現時点で膨大な受信情報が存在して、それが今も関数レベルで増え続けている。それらをキーワード管理しているからだろう」
「キーワード管理か」
ミズハのエッセンススキル『身近な神託』の本質は『キーワード管理』だ。
ただ、その精度がすごすぎる。
これはおそらく、ミズハ本人が、このエッセンススキルに対して一切の劣等感がないからだ。
自らの才能や体質と言うものに対して疑問を持っていない。
いや、ミズハは、自分のエッセンススキルの構造を勘で分かっているかもしれない。
だが、その上で全く悲観しないのだ。
そのため、運用に対して『支障が出ない』のである。
失敗するとどうなるのかはわからないが、こう言うタイプはほとんど失敗しないのだ。
何科と厄介だが。
「だが、デュエルカップでレムに対して混乱していたように見えるが……」
「人間って言うのは、『あり得ないミス』とか、『文字通りに奇天烈』とか、そういったことを考えるのは難しいようにできているからな。レムに関しては相当なものだったんだろう……」
レムは、母親の天然と父親の決断力を存分に受け継いだ遺伝子なのだ。
……まあ、よくわからないという気持ちが理解できなくもない。
「遊園地の運営すら可能って言うのはすごいけどな……ゼツヤが作ったものだから、本当にどこまでも自動化されているとしても」
「俺がめんどくさがりや見たいな意見だぞ。それ」
「間違いではないだろう」
まあ確かにな。
とはいえ、ミズハが自分の弱点に気が付くのは、一体いつになるのやら。




