ミズハの誕生日
「す、すごい」
ミズハはゼツヤが作った町『ミラクル・バース』の港について、第一にそういった。
まあ、そう思うのも無理はない。
エレベーターもそうだが、どういう原理で発生しているのか謎だが、『水が逆流するエスカレータ』も存在する。
「ねえ。この水路ってどうやって進むの?」
「あれ」
死んだような目をしたゼツヤが指差す方向には、『ボートレンタル』と書かれたATMみたいなものがある。
「あれを使ってモーターボートを借りるんだ。システム的に町の外には出られないようになっているし、強奪も不可能だから盗もうとしても無駄です」
「モーターボートってことは……ほぼ自動なのかい?」
リオが呟く。
ゼツヤは頷く。
「乗った時に出現するマップウィンドウで場所を指定すればそこに自動的に進んでくれる。まあ、オールをもって進むことも可能だから、そのあたりは好みでどうぞ」
「へぇ……どれくらいの数があるんだ?」
「三億」
空気が凍った。
「さ……三億?」
「といっても、一個作ったらあとは増殖可能だから、そこまで鬼畜と言うわけでもなかったがな」
材料の確保は必要だが。
「どれくらい広いんだ?」
「……USJの五倍くらいだな。パーク面積で」
いろいろなメンバーに招待状を出しているのだが、リオだけがブフッと吹いた。
彼だけは仕事の一環で行くことがあるからである。
「それにしても、全てに水路があるっていうのに、中央になるにつれて高くなっているようにみえるけど……」
「水門エレベータとか逆流エスカレータとかつけまくったら、もっと上に行けそうだったからやりました。他意はない」
「ていうか、よくこんなに大量に作れるほどの在庫が合ったな」
「オラシオンをなめるな」
「でも、僕たちの宮殿は作れなかったよな」
「あれはノーカン」
あれは鬼だった。
ていうか、よく数時間で作れたものだ。あれもあれで。
……いや、隠れて本体を出していたから当然といえば当然か。
「ただまあ……それ相応の倉庫に打撃はあったがな」
「ここまで出来るなんてすごいね」
「まあ、とりあえず入ろうぜ」
なお、このアトラクション『ミラクル・バース』は、個人、カップル、ファミリー、団体、全てに対応しております。
と言うわけなので、みんな好きな感じに乗っている。
ゼツヤはミズハと乗っていた。
「すごいものを作ったね。ゼツヤ君」
「これくらいしないと『他の誰かが作れる』からな」
誰かにできることは誰にでもできる。
NWOと言うのはそう言う世界だ。
そのため、生半可なものを作ると勝手にそれ以上のものを作って来る。
もちろん、掲げるのは『オラシオン打倒』である。
今回の場合、広さもそうだが、システムに関しても簡単には越えられない。
「そう言えば、ゼツヤ君は全部のアトラクションを楽しんでるの?」
「試運転で体験済みです」
「そっか」
まあ、作った本人としても地獄のように怖いアトラクションも中にはあるけどな。
と思った時だった。
「い、イヤアアアアアアアアア!!!!!」
「「……」」
ユフィの悲鳴が聞こえた。
あの迷子少女。大丈夫なのだろうか。
「なに、今の悲鳴」
「原因が多すぎて分からんが、ユフィの絶叫であることは分かった」
「なんでそんなもの作ったの?」
「いや、怖いもの見たさでホラー系に入りたいって言う人って一定数いるからな」
作っておいて損はない。
……のだが、限界ギリギリになった時に、疲労の末、ハイになって作ったものも中にはあるので、ちょっとヤバいかもしれないが。
「……あ。ここは商店街なんだね」
進んでいると、売店が並んでいる。
だが、中にはシャッターが下りているものもあった。
まあ『貸し物件』とかかれた張り紙もあるので、察したようだが。
「ここに他のプレイヤーが店を出したりするんだね」
「まあ、そんな感じだ」
「あの貸し物件、どれくらいの値段なの?」
「それはミズハが決めることだ」
「……え?」
ミズハがすっとぼけたような声を出した。
「これはミズハの誕生日プレゼントだからな。ちなみに、ここに来た人には招待券だしただろ。あれな。まだ一般開放されていないこの町の入場券でもあるんだ」
「要するに、全部を私が決めるってことだね」
「簡単に言うとそうなります」
この町は誕生日プレゼントなのだ。
はっきり言って頭がおかしいだろうが、『頼み』であり、『可能』だったので結果的にこうなってしまったと言う感じである。
「なるほどなるほど、これは私の人気上昇に一役使えそうだね」
黒い笑みを浮かべるミズハ。
まあ、アイドルでもあるからなぁ。
高校卒業とともにアイドルをやめると公言しているので、あと数か月の活動期間だ。
最後の最後に爆弾を投入する気なのかこの青髪少女。
「ゼツヤ君」
「どうした」
「さっきから死んだ目をしているけど、大丈夫なの?」
「いや、全然。と言うことでお休み」
そのままぐったりと沈んだゼツヤ。
その元凶は、フフッと笑っていた。
二人を乗せたボートは、出来たばかりの町を進んで行く。




