水の都
「ゼツヤ君。また水上に町が出来たみたいだよ」
「……うん?」
潜水艦で岩を砕き進んで鉱石を採取していたゼツヤは、ミズハの言葉に首をかしげる。
「どういうことだ?水上に街って」
「すごく人工的な場所だよ」
「へぇ……町かぁ……」
なるほど、多分『良い中継地点がない?なら自分たちで作ろうぜ!』といった感じなのだろう。
生産能力と言う意味では高いのがNWOの特徴だ。
プレイヤーが持つ自由性がかなり高いので、バカみたいなことを言う奴がいた方が盛り上がる。
「ゼツヤ君は町って作れるの?」
「作れるよ。というか、ジョブの『創造神』を手に入れる過程で家とか作りまくったしな。オラシオンの一部にそういった場所があって、もうもはや都市と言っていい規模になってるよ」
「……それを聞くと手遅れな感じがするね」
「手遅れってどういう意味だ?」
「だって……ねぇ」
まあ、言いたいことは分かるが。
「水の都かぁ……水路とか多いのかな。ほら、ボートで移動する。みたいな」
「まあ、フィクションで水の都って聞くとそういうイメージがあるのは分かるが……」
ゼツヤの中ではある種の予想があった。
「まあ、行ってみれば分かるだろ。採取も終わったし、行ってみるか」
「そうだね」
と言うわけで、潜水艦『採取が速くなってる君』の進路をその水の都があるという座標に向けて進めていく。あくまでも元々の目的が採取の潜水艦なので若干遅いが、まあ仕方がない。というかそもそも誤差の範囲か……。
「どんな町なんだろうね」
「……」
ゼツヤは何も言わない。
そして、二十四分後、到着した。
「お、あれが水の都……あれ?なんか雰囲気がおかしいような……」
ミズハが想定していたのは、海に浮かぶ町で、水路が多く存在し、噴水のような水を象徴するモニュメントがある。と言うものだった。
「……なんか、超巨大な鉄板をここまで引っ張ってきて、その上に街を作ったような感じだな」
土やらレンガでごまかしているようだが、ゼツヤの目はごまかせない。
多分、鉄板は新たに増設可能なのだろう。
そして、鉄板の下にいかりを付けて、流されるのを防いでいるのだ。
存在目的が『都合のいい中継地点』なので、流されないことをイメージしたものと思われる。
「……」
ミズハの眼からハイライトが消えた。
まあ、町、完璧に平面だからな。
水の都なので、昔漫画でやっていた『水門エレベーター』のようなものとかもあると思ったのだろう。
そうなれば段差も存在するだろうが、そんなでかいものを作っても、浮力的な問題を考えると邪魔だ。
ただ、地盤として使っている鉄板の構造にもよるが、地下はあるかもしれない。
とはいえ、あったとしても……と言う話である。
「なんか。思ってたのと違う」
「ミズハが思っているようなものは作るのが難しいからな……」
まず、どう考えても設計図を引く人間が必要だし、増設する際、必ず守る必要がある規定のようなものもできるだろう。
実のところ、バラエティ豊富なものになるだろうが、そうしたものはなかなか作るのも難しく、いろいろなところがいろいろな増設計画を練るので、この規定をしっかりしていないと何も機能しない。
というより、増設された地区は、増設された地区だけでシステムが独立する。
まあ、あえてそういうふうに作ることも考えられるが、それはそれで別のマニュアルが必要になるのだ。
都市設計の事務所的なギルドも存在するといえばするのだが、どちらかと言えばアトラクション的な要素になる。
そう考えるとすっごくめんどくさいのだ。
もし、そう言った規定を考えずにするとどうなるのか、リアルにおける例で言うと、コンテナの大きさをバラバラにするようなものだ。
コンテナは、あの一つの大きさが明確に決定していることで、『トラックorトレーラー』→『貨物列車』→『飛行機or貨物船』→『貨物列車』→『トラックorトレーラー』という流れになる。
もちろん、駅だったり港だったり、そういったものは途中に存在するが、これらはコンテナの大きさが決まっているからこそだ。
もし決まっていないと、積んだときにいびつなものになるし、極端になると、コンテナを軸にして設計・製造されたトラックやトレーラー、貨物列車に積むことはできないだろう。
リアルにおける掲示板を含めて、情報の流出を取り仕切っている『情報ギルド』がフル活動していないとどう考えても回らない。
のだが、そんなまとまった組織はNWOにはない。
一度規定を出せばいいのでは?と思うかもしれないが、今回の場合は地盤のようなものだ。多くのプレイヤーが利用するし、かかわって来る。
しかも利権的に見てもいろいろうるさいのだ。
そう言う意味で、責任重大なので誰もやりたがらないのだ。
「ミズハが言う水の都の場合、最初から最後まで一人のプレイヤーが一貫工事する必要があるからな」
ある意味、一人の人間の偏見が詰まったものになるが、一人である故に誤差も少ない。
無論、出てしまう誤差も、連結段階で工夫することは可能だからだ。
これがヤバいくらいにめちゃくちゃだと、どう考えても許容できないものになる。
「……ゼツヤ君。作って」
「……はい?」
「作って、水の都。もうすぐ私の誕生日だし」
「……」
ゼツヤは少々焦っていた。
ミズハの誕生日が11月25日だということを皆さんは覚えているだろうか。
大体六十話くらいに存在する『ゼツヤからのバースデープレゼント』という話をクリックしてすぐに確認できるのだが、その日なのだ。
で、何故焦っているのかと言うと……。
メタい話になるのだが、最近多くなってきている『毎週土曜更新』だが、重なるのだ。
いや、ゼツヤ達が生きている年代で言うと本当に重なるのかは計算するのが面倒なので実際は知らないが、少なくとも、レルクスが生きている年、2017年の11月25日は、『土曜日』なのである。
ぶっちゃけると……外せないのだ。
ミズハの誕生日に更新する必要があるからな。
しかも、期間は二週間くらいしかない。
オマケに、ただの張りぼてではオラシオンの名がなく。
いや、超速スピードにおける設計と言うと、リオが書いた図面で宮殿を作ったが、あれはNWOと言うシステムにおいて作りやすく、まさに『NWOにおける宮殿設計において完璧なレシピ』のようなものだったのだ。シャリオに聞きまくってたから計算楽だったし。
今回は違う。何もない。しかも、この時期ってリオもシュライン(←覚えてるか?ジョーカー所属のあのバカ属性の建築士だ)も忙しい。ついでに言うとゼツヤも忙しいのだ。
え、何か用事があるのかって?俺高3だぞ!普通に受験があるわ!
しかも、なんか母さんが『竜ちゃんは父さんと同じで集中力あるから偏差値高くて専門的な学校でも大丈夫よね』とか最近呟くようになったのだ。父さん?仕事に逃げやがったよあの男の娘。どんだけ母さんのこと怖いんだ全く。いやまあ、俺もこういうときは結構怖いんだけど。
と言うわけなのだ。いや、画面の前のお友達からすれば笑い話だろうが、こちらとしては死活問題だ。
だって、リオみたいに『運がいいから情報を入手できた』みたいなレベルではなく『何となくで真実が分かる』女と交際中の身である。
分かるのだ。全部。しかも対抗手段が存在しない。
だってな。『勘』だぞ。『勘』なのだ。一体どうやって対抗しろと言うのだ。多分電極ぶっ刺して記憶いじっても意味ないぞ。
そういうわけだ。
……これは重労働の始まりだなぁ。しっかりやってくれよ。NWOプレイヤー達……。




