あの運男。海の上で本気出しやがった。
「よっこいしょ!」
操縦桿を倒して、鉱石をゲット。
相変わらず単純作業の繰り返しである。
飽きないのか。と言う質問に対しては『そんなもんで飽きてたら追及とか無理』と言うことで納得してもらうことにする。
「そう言えば、最近は海上戦闘が多いみたいだね」
ミズハがカフェオレを飲みながらつぶやいた。
「海上戦闘ねぇ。具体的には?」
「さすがにプレイヤー個人の近接戦闘力はあまり意味はないから、パワータイプの人には盾を持ってもらったり、大砲を動かしたり、あと、スピードタイプの人には、メールでは制御しきれない雑用が待ってるって感じかな」
「まあ、船だもんな」
「落ちたら大変だもんね」
「俺らは最初から海の中にいるけどな」
落ちるのが嫌だって?なら最初から下にいろよ。と言わんばかりの言い分だが、要するにそんなもんだ。
「ただ、ジョーカーの船がすごいみたいだね」
「……だってリオが乗ってるんだもんな。大砲とかまず当たらないだろ」
「だよね」
運がすさまじいからな。
「ただ、変な話を聞いたんだよね」
「変な話?」
「近距離でも当たらないって言う話もあるんだよね。まあ、近くに行くのもかなり難しいけど」
「……近距離でも当たらないか……」
どういうことなのだろうか。
遠くから撃つ場合、大砲が持っている調節システムを使用するだろう。
リアルで大砲を撃った人間がいるはずもないし、FPSでも補助機能を使うものはいる。
下手な弾も数撃てば当たる。とはいうが、それはリオだけである。
ただし、補助システムを使うということは、ゲーム性の再現のために確率に縛られるということであり、そうなると、運がいいリオにはまったく当たらない。
これは『節理の中心地点』に使用制限がない、ということを考えると分かるだろう。
ただ、近距離なら、その補助システムなど必要はない。
普通に切ればいいのだ。
だが、それでも当たらないということは……。
「もしかして、本気出しているのかもな」
「え、あれでまだ本気って出したことないの?」
「リオの特性っていうのは知っての通り『運』だが、運って言うのは、基本的には二種類なんだよ」
「そうなの?」
「簡単に言うと、自分だけか、他人も巻き込むか。この二つだけだ。で、エッセンススキルを持っている人間は、大体、自分の中だけで完結するタイプの運を持ってる」
「……?」
まあ、この説明で分かれば苦労はない。
……が。
「エッセンススキルは『自分の特性に気付くための運』ってこと?」
「おおざっぱに言うとそうなる」
勘のいいミズハは、それだけの説明で理解できるのだ。
少なくとも、自分にとっては分かりやすい言葉で。
「リオの場合、その運は他人にも影響する」
「じゃあ、相手の運を下げることができるってこと?」
「逆に上げることもできる」
リオの真骨頂はそこだ。
「だが、普通は他人に対する運の操作を行うことはない。と言うかできない」
「できない?」
「他人が持つ運の固定力はすさまじいみたいだ。だから、かなり近距離なら可能だが、それ以上はできない。そして、そこまでリオに取って融通が効くものでもない」
「そこまで影響力って強くないんだ」
「リオは普段、『自分の成功確率の上昇』を行うが、勝者と敗者って言うのは常にどちらも存在する。普段なら、これだけでいいんだが、チーム戦となると妙なことになるからな」
「チーム戦かぁ……でも、自分のチームの有利になるんでしょ?」
「ならない」
「え、ならないの?」
「チームとしての勝利は、リオは確定できない。勝敗を左右する重要なポジションに立つだけで、リオがいるから勝つという確定はない」
「へぇ……」
運がいいのは確かだが、基本的にはリオ本人のみの話である。
「リオの本気って言うのは、切り札『統括』のことだ。効果としては、『自分が認識した確率を自由に設定できる』のことだよ」
「面倒だよね」
「ああ。あれを使った時のリオは、まさしく最強だぞ」
「戦ったことあるの?」
「俺が本体を出さない理由の一つに、『リオを相手にしないため』って言うのがある。実際には『統括』を相手にしないためっていうのが本音だ」
「もしかして、普段の会社の経営でもそうなの?」
「使っていると思うぞ。世界の金の三割か四割か、どっちか忘れたが、それくらいの資金を集めることができる人間が普通のはずもない」
資金、情報、武力。
この三つがあればかなりの強者といえるが、運が足りなければすぐに崩れる。
よく、裏の支配者とか、そう言った連中がいるが、そういったものは圧倒的な運を持っている。
リオは、それ以上のものをも言ってるのだ。本名はただのモブの癖に。
「でもなんで、本気を出してるのかな」
「出しても影響力が少ない時は使うことは多いぞ。まあ多分、くだらない理由で使ってるんだろうな」
最近は子供も生まれたしな。と、ゼツヤは思っていた。




