新規の鉱石が思ったより多かった
「えー、今のVRMMOのための電子パルスを含めた技術は、そのほとんどが『レルクスプログラム』によって設計されている」
大学のオープンキャンパス。
そこでは、一つのモデル授業が行われていた。
オープンキャンパスに行ったという記録がほしいのか、竜一の姿もあるが、半分寝ている感じである。
「このレルクスプログラムだが、サーバー内でほぼ自由に引っ張って来ることが可能。簡単に言ってしまえば『全ての人間が利用可能なVRMMOの基本フォーマット』とでも呼ぶべきものだ。21世紀初頭からこのプログラムは使われている」
三十後半のおっさんがいろいろとしゃべっているのだが、すでに基本知識だと本人も思っているのか、はっきり言ってそこまで熱があるわけでもなかった。
「26世紀である現在、ナノレベルのコンピュータは基本的に市販されていることすらない。極少単位の製品が絡む場合、それ以上小さいものが市販されている。現代の極少単位を扱う技術者が、工具を自分の手から作りだし、それによってコンピュータを作れるかどうかと言う実験も行われたが、実はもうこれは100年前に達成されている事実だ。ただし、ナノレベルよりも小さなものを扱うのには、まだ人間の脳味噌では足りないのだがね」
竜一の隣にいる道也は、隣を見ながら『こいつなら一からPCくらい自分の手で作れるだろうな』と思っていた。
「レルクスプログラムは、当時、VRに乗りだろうとしていた企業に提供された外部からの提供資料のようなものだったが、要求されるサーバーの細さのわりに、行われているはずの計算が極小まで軽減されている。そうだな、私の個人的な意見としては、このレルクスプログラムは、『この世界をVRMMOというジャンルにおいて発展させようとする意図をもって提供されたのではないか』と考えているよ。まあ、私だけではないが」
レルクスプログラムが、この世界をVRMMOで染めるために、か……。
道也は半分寝ている竜一を見ながら、そんなことをいろいろと考えていた。
★
「いやー、何言ってるかほとんどよく分からなかったな」
「お前半分寝てただろ」
「まあそれもそうなんだが、でも分からんぞ。本気使ってないし」
「そりゃお前があの教室で本気なんて出したらいきなり暴れかねないだろ」
「さすがにそこまで非常識じゃないけどな」
帰りの電車の中。
といっても、個室型が主流で外に音が漏れないので特に周りに対して影響もないのだが。
「そう言えば、竜一は一からPCを作れるのか?」
「材料さえあればな。工具はその材料の中から自分で作るから、基本的に一人でできるだろ」
「……そうか。それで、オープンキャンパス。来た意味あったか?」
「何かをすることが目的じゃない。来ることが最大の目的だ」
道也は溜息を吐いた。
「で、NWOの方での研究は進んでいるのか?」
「鉱石の新規がかなり多かったな。色々なプログラムが混ぜ込まれていて研究するのは面白かったぞ。今持っている分はすべて研究したが、まだ入手していないものもあるだろうな」
「そこまで言うのか」
「ああ。新規の鉱石。十や二十では済まないだろうぜ」
そう言ってジュースを飲む竜一。
「だが、すべて研究するんだろ?」
「手に入った分に関してはすべてやるさ。今までになかったプログラムが介入されるってことは、今まで出来なかった組み合わせとかいろいろ出来るからな」
「生産職、しかもすべてが可能となるとそう言うことになるんだな」
「料理しかできない道也とはちょっと違うぞ」
「だろうな。ただ、忙しくなるんじゃないか?」
「別にならんよ。多くのプレイヤーは、鉱石を使うところまでは行けるだろうけど、使いこなすのは無理だし」
「できるのはお前の弟子たちくらいか」
「それは知らん。ただ、思ったより複雑だ。良いところまで行って不完全燃焼だろうな」
道也は溜息を吐いた。
「それもそれで嫌な話だな」
「諦めることと放棄することは違う。さて、多くのプレイヤーはどうするんだろうね」
積み上げてきたものをどうするか。
結局、するのは人間なのだ。技術が発展したとしても、それは変わらない。




