大海原には危険がいっぱい!
「ゼツヤくーん」
「どうした」
船の竜骨の作成中だったのだが、ミズハが話しかけてきた。
「沈没船が最近増えてるんだよ」
「……どういうことだ?」
「災害と言うか……モンスターが強いというか……そんな感じ」
「まあ、慣れていないということもあると思うが、そこまでヤバいのか?」
「海だからね」
その一言で解決されても困る。
とはいえ、まずは話を聞こう。
「で、さすがにそれだけでは分からんから、詳しく教えてくれないか?」
「巨大なイカとかタコとかクラゲとか……」
「足多くね?」
何その変なまとまり。
「なんていうか、『大きくしたシリーズ』みたいな感じだな。鯨とかもいたのか?」
「大きな鯨って言うか……大きなイルカはいたよ」
「……んん!?」
分類的に言えば、イルカというのは『小さな鯨』と言った感じのカテゴリだったはずだが、イルカをそのまま大きくしてしまったのか。何考えてんだ運営。
「まあそれはいいとして、大きな感じのモンスターがアップデートされているから、使えていた海路が使え無くなったプレイヤーもいるみたいだよ」
「まあその分、造船プレイヤーの需要が高まるんだろうな。で、頑丈さで勝負か……」
「船の頑丈さってどこまで出来るものなの?」
「本気のほうだと……外装から全部『耐久値無限』にすることも可能だな」
「……それはさすがにやりすぎでしょ」
「確かにな」
ゼツヤも、そんな簡単に本体の方を出したりはしない。
もちろん、今回のレベルのアップデートも、今までになかったわけではないからな。その時だって出すことはなかったし。
「そうだな。船の強度か……というか、エンカウント率0%の海路とか、そう言うのはないのか?」
「検証組がいろいろ探しているみたいだけど、まだないみたいだね」
検証組。というのは、まあ、掲示板でいろいろと情報サイトを作って頑張っている人達のことだ。
ゼツヤはほとんどお世話になったことはないが、情報量はすさまじいらしい。
「まあ……発見したとしても、情報ギルドが独占するのがほとんどなんだけどな」
「アルモ君は知ってるかな」
「トレンチコートの素材を探している可能性もあるが……海で取れるのかね。まあ、的をある程度絞っている程度だと思うけどな」
情報屋。そして仮想探偵を名乗るアルモだが、そこまで行けるのかどうかはよくわからない。
「まあ、手探りと言う意味ではカムイの方が早いけど」
「……えーと……誰だっけ」
「弟子の中で一番強いマジックアイテムメイカー。イメージカラーは紫」
「ああ。いたね」
忘れられていたのか。
まあ、とりあえずそれはいいとして。
「で、それはそれとして、師匠特権でいろいろ教えてもらおう。メールで」
「なんだかずるい気がしなくもないね」
「こういうときのための人脈だ」
「ゼツヤ君。そのうち友達なくすよ」
「類は友を呼ぶ。というだろう。俺に似たような奴もいろいろ集まるから結果的にはそんなに問題ない」
めちゃくちゃな理論だが、まあ、世の中そう言うものだ。
「で、海路を探すのは後にするとして、今は強度の話か」
「うん。頑丈。かつ限度を考えたものが好ましいよ」
「結構注文が多いな。まあ、それで作っておくよ」
「よろしくね」
ミズハは工房を出ていった。
一人、ゼツヤは呟く。
「……海には危険が多いんだな。そして……俺は何時になったら海に出られるんだろう……」
船を作ってばかりで海に一回も行っていない。
とはいえ、作らなければ海を見るだけで終わる。
作らなければ始まらないのだ。何とも面倒な話である。




