クライアント発見作戦前の交渉
NPCの集団とはいうが、そう言った世界は普通に存在しているといっていい。
AIキューブのようなものを用意、それらを連結させ、後はVRサーバーでいうマップを作り上げることで、放置して置けばシミュレーションとして世界を構築することが出来る。もちろん、あらかじめバックアップをとって、その後イレギュラーを投入することも問題なくできる。
だからこそ、そのような世界が自分たちの世界とつながっていることに関して疑問はあったが、そのような世界が存在することそのものに関してはゼツヤ達は疑問は感じなかった。
VRサーバーにおける基本的なプレイマットは、21世紀に匿名の存在から送られた『レルクスプログラム』と呼ばれるものが採用されており、VRとしては完成に近いといえるそれらを効率化したものが主流として使われている。
そのため、アイテムデータなどの保存方法は違う部分はあるが、保存方法が違うだけであって数字に根本的な違いがあるわけではない。
別の世界であったとしても、使えるということそのものに疑問はないのだ。
ただ、疑問はないからと言って、納得しているかどうかとなると話は別なのだが、それはそれでいいとしよう。
ゼツヤとセトナは老人の前で話をしていた。
老人がグレイアという者だ。オラシオンシリーズの確保に関しては彼が動いているということらしい。
「ふむ。そのクライアントを探しだし、砕いて言えば制裁を加えたいということじゃな」
「まあ、そんなところだ」
「それで、その情報提供と、そのクライアントの殲滅を行い、達成すれば、報酬があると」
「報酬に関しては俺が直々に作ろう」
妥協はさせてもらうし、予防線も張るが。
「ふむ、一見すると悪いものでは無いのう。じゃが、そうするメリットは何じゃ?普段からこの世界にいなかったというのであれば、別に気になるほどのものでもなかろう」
「まあそうなんだが、こっちの連中は、俺達の世界の方の生産技術に関してもバカにしていたという情報もある。それと、偽金貨が出回っているって言うのが俺には許せないところだ。他にもいろいろたくらんでいるだろうし。まあ簡単に言えば、俺個人の事情だな」
「そのためにこのロスト・エンドを巻き込むというのもなかなかの度胸じゃな……」
そう言うものである。
まあ、無茶苦茶なことを言っているということは分かっている。
だが、それを入れても、と言うことだ。
もちろん、報酬をいいものを出すというのは本当だ。
オラシオンの名にかけてそれはまもる。
(とはいえ、基本的に、全否定をまず考えるものではないはずだ。人手がほしいだけで、別に能力を求めてはいない)
ゼツヤは圧倒的な生産能力を持っているが、そもそもNWOにおいて、高い性能を持つアイテムを生み出すことは、言い換えればパズルを解くようなものなのだ。
それらをすでに『先天性集中力過剰症』による圧倒的な演算力で達成しているからこそ、オラシオンという形で伝説を作っている。
超高性能のアイテムを、幅広い範囲で生み出すことが出来る利点はかなり大きい。
一番の理由は、NWOというゲームは、装備制限が存在しないからだ。
ガチガチに固められた例外法則が作用する装備。例えるならリオに渡した剣のようなものでもない限り、プレイヤーによって装備できないと言う状況にはほとんどならない。
つまり、新米であろうとベテランであろうと、少なくとも装備の性能による補正が発生し、それによって部隊における戦力の最低ラインが劇的に向上する。
もちろん、渡さなければその効果は発揮されたないので、前金……いや、前物だろうか。ともかく報酬の前渡しをする必要はあるが、勿論それくらいはする。
「ふむ。まあいいじゃろう。ワシの任務はオラシオンシリーズの調達だけじゃ。ロスト・エンドの保有戦力その物も、別に悪いというものではないからのう。制作者本人が高い性能を持つアイテムを作ってくれるというのなら、それに越したことはないわい」
「いろいろと面倒なことにはなると思うぞ」
「お前さんに人手がいるということはワシにもわかっとる。諜報部隊も出そう。ただ、必要物資はいくらか作ってもらうぞ」
「協力関係を作るんだ。それくらいはな」
「なら、契約完了じゃな。短い時間になるとは思うが、よろしく頼むぞ」
「こちらこそ」
グレイアと握手をした。
さて、クライアントの連中には悲鳴を上げてもらうとしますか。




