協力関係
「カーティスが一気におとなしくなったな」
ゼツヤは首をかしげていた。
てっきり自爆すると思っていたのだが、予想と大きく外れた。
まあそれだけならば何も問題はないのだが、若干不気味ではある。
「可能性としてはどう思いますか?」
「さあな」
ここまですがすがしくやめる奴だとは思えない。
と言うより……ゼツヤの予測が正しければ、すでに、追放されていると判断できる。
明らかな小物の雰囲気にそぐわない態度だったことからすると、あの偽金貨の鋳造もどこかの誰かの入れ知恵だと推測できなくもない。
今回、ばれたと確信したカーチェスはそのクライアントのもとに行ったはずだ。
だが、もしもカーチェスというプレイヤーがそのクライアントの組織にとっては使い捨ての駒だと決めていた場合、容赦はしないだろう。少なくともゼツヤならしない。表面の方は状況次第だが。
カーチェスが追放されたという前提で話を進めるならば、その組織はこの世界の通貨であるクートの価値が大暴落することを予測で来ているはずなので、アイテムを書き集めるはずだ。
(ゲーム内通貨って言うのは、本来システムによって保存されているという考え方が働くから本位制じゃない。そう言う意味では、これからはアイテムが通貨のかわりになる可能性もある)
どのような形で偽通貨の存在を公表するとしても、混乱は間違いない。
適正価格と言うものが何なのかと言う基準が消滅するのだから当然だ。崩壊する程度なら直せばいいだけだが、消滅するとなると新しく必要になることは間違いない。
「さて、どう動くべきか……」
その時、ノックされた。
誰だろうか。
ゼツヤがドアを開けると、長い銀髪の男性がいた。
好戦的な印象がある。
……どこかで聞いたことがあるような気がする。
「……キリュウ。だったか?」
「あってるぜ」
別空間に所属するNPCによって構成された組織、ロスト・エンド。その幹部クラスの戦闘員だ。
背中に大剣を吊っている。
実際に戦ったのはレイフォスだったが、特徴は聞いていた。
「初対面だが、お前らに接触するのは二年ぶりだな」
「一応そうだな」
二年と言うには二か月ほど足りないような気がしなくもないが、それを言うのは野暮と言うものだろう。
「で、ロスト・エンドのお前がなぜここに?」
「お前らの世界に諜報部隊を送りこむことそのものはそこそこやってるんだ。で、最近お前がどこにいるのかが全く分からなくてな。で、数日前、水色の髪の女から、別の世界にいるって言われたんだ」
「……言われた?」
「アジトを発見されたんだよ。何で見つかったんだろうな」
多分『勘』だ。
とゼツヤとセトナは思ったのだが、ちょっと理不尽な領域の話になるので置いておくことにした。
世の中には知らない方がいいことなどたくさんある。
しかし、あの世界、NPCでも拠点の確保ができるプログラムが存在しているんだな。
まあ、それくらいはあるか。クエストで必要になる時が無きにしも非ずだ。
「話を戻すが、お前がこっちに来ているという話を聞いて、解析して俺ともう一人の幹部を部隊長としてこっちに送りこんできたって訳だ。目的としては……あれだ。オラシオンシリーズだったか?あれを確保することだ。まあ、ちょうど格安販売されていたから大量に確保できたけどな」
そういってサムズアップするキリュウ。
「……ちなみに聞いておくが、この世界で手に入れたアイテム。あの世界でも使えるのか?」
「問題なく使えたぜ」
そのゲーム間を移動するシステムにも興味はあるが、何かと面倒なことになりそうだ。
発信機の中で、最終地点の名前にちらほらと『グレイア』と表記されていたが、おそらくこいつだな。比較的、何科と揃えようとしたようなラインナップだったので、舞台として何かを揃えると言う意味では理にかなっている。
カーティスだけを見ていたゼツヤの失態である。
ちなみに、何故失態と思っているのかと言うと、性能差である。
プレシャスコードの世界で販売したアイテムは全て、本体人格のゼツヤが作り上げたものだ。
そして、本体人格のゼツヤは、本体サーバーで何かを作ったことはない……とは言わないが、少なくともその時作ったものを誰かの手に渡らせたことはない。
当然、漠然とした性能差が存在することになる。隠し玉は用意するが、ラインを決めるとそのラインでものを作り続ける性格だと分かっているが、面倒です。本当に。
容赦をしない性格であることは自分で理解しているが、まさか本体サーバーに持って行くやつがいるということを全く想定していなかった。
というか、自分は本体サーバーで使っていたアイテムを使っているというのに何を寝ぼけたことを言っているのかと言う話だ。クソ恥ずかしい。
ぐぬぬ……こうなったら仕方がない。
「ところで、お前たちは気が付いているのか?」
「ああ。グレイアは妙だって言っていたな。特に物価」
「なるほど」
賢いやつはやっぱりいるものだな。若干爺クサい感じのラインナップだったが……。
……アホ言っとる場合か。
「俺達が持っているそれに関しての情報と、俺の予測を教えよう。で、ちょっと目にものを見せてやりたいと思っている訳だ。報酬は弾む。ちょっと協力関係を結びたい」
協力関係と言う一時的なものなら別にプレシャスにも組めそうな奴はいっぱいいるのだが、できればこの世界に定住しないやつの方がいい。
「まあ、俺の一存では決められないからな」
幹部だよなお前。
「ただ、グレイアには話してみよう。多分いい返事が聞けると思うぜ」
ふう、何とかなった。あとはちょっと回収交渉を考えておかないと。
ここにして、ちょっと面倒になったと同時にやりやすくなったと思うゼツヤだった。




