現状確認と周辺戦力
NWOには、『誰もが目標とする何かしらの目的』があるわけではない。
分かりやすくいうなら、例えとして、『この巨大な塔を最上階までクリアする』と言ったものや、『この秘宝を○種類集める』と言ったようなものだが、それらのシナリオは全く存在しない。
すべて、『運営が設定するイベント』によってそれは発生する。しかも、それらのほとんどには、『時間制限』があるものがかなり多く、いつそれらのイベントが発生してもいいように準備をしているギルドもある。
……勘違いしないでほしいのは、ゼツヤの『オラシオンシリーズ』のオークションは、そう言ったもの達の手助けでもなければ、金銭的な余裕を崩すために行っているわけではない。完全にゼツヤの趣味である。
様々なイベントがあった。
ボスに挑むイベントもあれば、大規模のクエストもあった。
本に例えるなら、前者は短編小説。後者は長編小説である。
そう言ったイベントが、かなりの頻度で行われており、それも、NWOプレイヤーが減らない原因の一つである。
共通点があるとするなら、初心者にはあまり向いていない。と言うことなのだが、まあ、臨時パーティーもよく見かけるし、そういった場で自分を売り込んでいる人もいるので、難易度に不満があったことは今のところは無いようである。
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「さて、今回のイベントは『街の防衛』だ」
円卓にレイフォスの声が流れる。
レイフォス → ユフィ → サーガ → クラリス → セルファ → シャリオ → ゼツヤ。の順に円の形で座っている。
「町規模の護衛かぁ。2年くらい前にもあったけど、そのときはたしか……ロミュナスであったんだよね」
ユフィが呟いた。
たしかに、2年前、運営からの防衛イベント発生時、ロミュナスにそれが出現していた。
あの時は全員でやりまくったものだったな。
「別に関係ない。殲滅するだけだ」
「サーガ。そう言うこと言わないの」
サーガとクラリスが意見を言う。
「私としては……防御のみだからな。長期戦であっても問題はないが、誰か一人は付けてほしいところだ」
セルファが本音を言った。
たしかに、2年前の時は、モンスターのステータスもなかなかだった。
レベル100であっても、VITに極振りしているセルファではなかなかダメージを与えられないだろう。魔法は論外で、スクロールも強力なものは使用できないし、盾での攻撃も、『ATK0』では、もともとのSTRのないセルファではつらいものがある。
「まあいいんじゃねえの?最近大暴れしてないからな」
「ゴブリンの軍勢が出ていた時に何してたんだ?」
「リアルのベッドで爆睡してた」
シャリオの愚痴にレイフォスが突っ込む。
返答に関しては、全員が「まあそうだよな(ね)。シャリオだもん」と言いたそうな顔をしている。
だが、集団を相手にする際の一番の殲滅力があるのはシャリオであることも事実である。
起きていたら、ゴブリン殲滅の最速タイムを叩きだすのはシャリオだろう。
そりゃ、一体を相手にする際の指定時間内の攻撃力ならレイフォスの方が圧倒的に上だし、例え集団相手でも空を飛んでいるモンスターが相手であれば、サーガの方が殲滅力は上だ。だが、こうした特定状況下におけるシャリオの戦力は、エクストリームの中でも群を抜いている(それでもギルマスはレイフォスである)。
まあ、MPが『14000』もあるので、もし町の建物が破壊可能なら、まとめて吹っ飛ばすことも別に不可能ではないしな……。
「街の防衛……今回は『ロードキャッスルの城下町』と『ロードキャッスル』だな」
レイフォスが呟く。
NWO最大都市。と言っても過言ではない。
上級プレイヤーが普通に歩いているような場所である。
ヴァルガ二スタもかなりの規模があるのだが、ロードキャッスルには到底及ばない規模であり、クエスト数。周辺モンスターのランク。街の中にある最上級ギルドの数。どれもこれも圧倒的である。どうでもいいが、裏道や路地の数も圧倒的である。
「かなりの規模になるだろうな。あそこは街をぐるりと一周するだけで、歩いたら普通に1日かかるだろう。騎乗アイテムなしでは生き抜けない町。とまで言われているからな。その代わり、街の中ならどこでもログアウトできるんだけどよ」
本来なら、ホームを利用するか、あとは宿屋に行ってそこでログアウトするのが一般的な『安全なログアウト』の方法である。
だが、圧倒的な広さを誇る『ロードキャッスル城下町』はそんなことを言っていてはどうにもならないほど広さが理不尽なので(面積は東京が収まるくらい)、街のどこでもログアウトは可能である。あ、でも、指定地点に他のプレイヤーがログアウトに使っていたら、そこでは安全にはログアウトはできないが。
「でも、町と外を行き来するための門は3つしかない。まあ、巨大だけどね」
クラリスが思いだしたかのようにつぶやいた。
圧倒的な広さと、圧倒的なまでの外出手段の少なさが売りである。後者はいらん。
「飛行モンスターや、まだプレイヤーには不可能だが『壁をすり抜けるモンスター』がいない場合なら、そこさえ守ればいいってことにはなる。だが、やることは変わらない」
サーガ、言いたいことは分かるが、もうちょっとオブラートに包め。
「それで、レイフォス。今回のイベントでは、どういった感じにことを進めるつもりだ?いつものことだ。他のギルドと話しあったりと言ったことはしていないのだろう」
大丈夫なのか少々疑問に思うだろうが、もともと『エクストリーム』と言うギルドは『ぶっつけ本番』『適材適所』で成り立っているのだ。本来ならこんな方法ではギルドの運営などできないが、少数ギルドであるということと(ワンパーティー最大が7人なのにギルメンが6人しかいない)、あとはレイフォス自身のカリスマだろう。
無論。個々の戦闘能力が高いことも事実なのだが。
「ま、今回はかなりの規模になるだろうから、『UFR』の連中と話しておこうかなって思っているよ。まだ行ってないけど」
UFR。『アンフィニッシュドレギオン』の略称で、『終わらぬ集団』の意味を持つ。
ギルドの規模はブリュゲールとまではいかないが、それでも、3000人はいるだろうとされている。そして、新米を除くほぼ全員が実力者だ。
それだけなら他にも似たようなギルドはあるかもしれない。
NWOプレイヤーは、海外のプレイヤーを含めれば5億に達すると言われているのだから。
そもそも、誰もが知っているギルドと言うのは、『強い』のはそれはそれとして注目すべきなのは『特徴』である。
補足すると、『エクストリーム』はNWOで『最強』のギルドとも言われているが、その理由は、『最小人数』のギルドで、『全員がレベル100』で、『持っている装備のすべてがオラシオンシリーズ最高峰のもの』と言ったように、いろいろと尾びれがあるのだ。
ちなみにブリュゲールは、NWOの中で『最大』のギルドとされている。圧倒的なリアルの資金から来る(そこまでは知られていない)数の戦闘力では確かに圧倒的だ。ゼツヤの半年に一度しか使えない手段をもってして向かわないといけないのだから、強いものは強いのである。
『アンフィニッシュドレギオン』は『最高』のギルドと言われている。
巨大であるにしてもないにしても、人数が200を超えれば、普通ならギルマス以外にも運営しているものがいるのは普通だし、二枚岩になっているギルドもある。
アンフィニッシュドレギオンは変わっていて、全ての運営をギルドマスターが行っている。圧倒的なカリスマである。しかも、近年人数が上昇中である。あと、UFRの傘下にいるギルドも少なくはない。
「まあ、話しておくのは問題ないと思うし、あそこはギルマスが賢いからな……」
まあ、時折見せる表情から察するにゼツヤとそう年は変わらないようにも見えるのだが。
「他にはどこと話しておくつもりだ?」
「いろいろあるけど……『旋律騎士団』とか『オブシディアン海賊団』とか」
どちらもギルドカラー真っ黒である。
旋律騎士団。全員が『演奏』スキルを所持しており、コンサートも開いている(入場料無料)。因みに、使用されている楽器は全て『オラシオンシリーズ』だ。なんでこんなことになったのかと言うと、ゼツヤが趣味で作りまくって、どうやって片づけるか迷った(当時はホームボックスを作るための素材が希少だった)ので、掲示板を見てみると、音楽ギルドを発見し、半ば強引に放りこんだのだ。
その楽器を使用してからは、リアルで演奏に携わっている者たちの間でうわさが広まって、月に500円と言うNWOのプレイ料金の低さもあって、客の数は一気に増えたという。今では自らのコンサートホールを所有しており、様々な演奏がなされる。
ちなみに、500年以上も前である時代に作曲されたものを中心に演奏しているのだが、この理由は不明である。
戦力的には、確かに他のギルドと比べるとやや弱いが、集団戦闘時における連携はすさまじい。
ちなみにだが、NWOの戦闘において音楽センスと言うのは、リズム感が役に立つことはまあよくあるのだが、演奏そのものが役に立つことはない。趣味スキルはあくまで趣味スキルである。街の中での活躍度はすさまじいし、巨大なイベント(今回みたいな感じ)が達成された際は、こういった音楽ギルドは良く呼ばれる。
次、『オブシディアン海賊団』。ギルドカラーは先ほども言ったが黒い。補足するが、『オブシディアン』と言うのは『黒曜石』のことである。
NWOにおける黒曜石の特徴は。
『ややもろい』
『よく斬れる』
『産出量が多い』
『加工しやすい』
と言うことだ。
ややもろいため長期戦に向かないが、よく切れるため長期戦にならない。
メンテに関していうが、この世界のメンテナンスは、『道具』と『素材』が必要である。
NPCに頼めば道具は無視できるが、素材は無視できない。
ちなみに、現実において黒曜石の産地と言うのはかなり少ない。
500年くらい前は日本にもかなり合ったらしいが、その頃でさえ、質のいいものの産地は圧倒的に少なかったのだそうだ。
だが、『NWO』はまだできて15年間である。鉱物が無くなるわけがない。
大量に取れる理由は、圧倒的なまでの年数を誇る古代において、金属に変わって切断手段として主に使われていたことから、大量にとれるように設定しているのではないか?と言うものが多いが、所詮プレイヤー達の中でのうわさであり、運営が答える必要もないし、答えを知る必要もない。
さて、『オブシディアン海賊団』は『海賊』である。
文字通り、海を船で横断するもの達だ。
NWOのすべて陸続きで、やろうと思えばどこにでも行ける。それに、ワープシステムが存在する。
だが、ワープポイントが存在しない陸も存在し、そのさいにかなり長い距離を歩かなければいけないことも多く、その場合はこうした海賊船は大活躍である。
どうでもいいが、船は流石に『木』である。
戦力は高い。黒曜石のため、長時間の戦いは少々考えなくてはいけないが、街の襲撃イベントなので、門のあたりで修理すればいいだけのことだ。今のところ特に問題はない。
ちなみに、船長は女性である。男勝り。と言う言葉が良く似合う。『船長』よりも、『姉御』と呼ばれる方が多い。と言えばわかるだろうか。
「あと、そうだな。『アイテムラボ』と『工場』も動くだろうな。今回」
正式名称は『新アイテム開発研究所』『セイリオス重工業』である。
アイテムラボの方は、『生み出す』ことを優先し、工場の方は、『量産(消費アイテム)』を目的としている。どちらも、掲示板によく顔を出すギルドだが、イベントではよく動くだろう。絶対。
「やること多いな」
「そう言うものだ。さあ、『ロードキャッスル城下町』に行こう」
準備を始めるのだった。




