頭の構造が違うと俺は思った
セトナに『オラシオン・タブレット』を二百個ほど渡したゼツヤだが、はっきり言って何に使うのかがさっぱりわからなかった。
というか、何か小さなことをするにしては多いし、イベントを開くにしては少なすぎる。
まあ、作成手順は面倒だが、倉庫の空きを作る程度には処分できたとも言えるのだが……。
「ゼツヤさん」
「……なんだ」
最近セトナに振り回されているゼツヤは、笑顔で話しかけてくるセトナにどう対応すべきか迷っていた。
何を考えているのかが分からないというのはいつも通りと言えるが、それはそれで困るのだ。
「一つ頼みがあります」
「そういってくる人が頼んできたとき、一つだけだったためしがないと思うんだけどな」
「よくわかっているではありませんか」
……。
「で、なんだ?」
「私が住む国。セリュアル王国に来てください」
「……え?」
普通に考えれば冗談だと思うだろう。
あ、ちなみに今は夏休みに入っている。
メタなことを言えば、そう言う設定にしておいた方が時間的都合がいいと言うことなのだが、さて、どうしたものか。
「なぜセリュアル王国に?」
「どうしてもです」
その頼み方が一番困るということを知らんのか?ていうか知ったうえで言ってるでしょこの人。
「あのね。人にものを頼むときは事情を説明したうえで頼むってことを知らないか君」
「そうですね」
自分で言うな。
「ちなみに、両親の許可は得ていますよ」
「本人の許可が最後なのかよ!ていうか、一体どういうことだ?」
「いえ、『NWOPCP』のためです」
「何?そのNWOPCPって」
「『Neighbor world online precious code project』の略です」
「意味が分からん」
「セリュアル王国のローカルサーバーに存在する、NWOのデータを所有している場合のみダイブできる場所のことです」
「そんなサーバーがなぜセリュアル王国に?」
「入れば分かります」
なんだろうな。この外堀を埋められているような感じ。
「ちなみに拒否権は?」
「ゼツヤさんの両親を説得出きれば問題はありません」
「はい行きましょう」
即答したゼツヤである。
「……大変ですね」
「誰が原因なのか知らんが、一体どういうことなんだ?」
「生産能力が認められたということですよ。私のお父様から」
それって国王じゃん。
「認められた?」
「今いるサーバーにおける最高の生産能力を持っているのはゼツヤさんです。これは間違いありませんが、その特殊サーバーには、こちらのサーバーのプレイヤーを見下す傾向にあるのです。言ってしまえば、一度完璧に叩き潰すことが必要なのです。戦闘においては私一人でも問題はないのですが、生産に関していうと私では対応できないのです」
「なるほど、まあ簡単に言えば、白羽の矢が立ったってところか」
「そのようなところです。現在、セリュアル王国唯一のプロワールドですから、その分すさまじいことになっています。参加できる人数が極端に少ないことによる処理能力も高く、様々な分野において研究といえる部分が多いのです」
プロワールドか……。
簡単に言えば、ゲームで金を稼ぐことが出来るのだ。
日本でもいくつかそう言うタイトルはあるのだが、ゼツヤはそういうゲームはやっていない。
というか、NWO以外をするつもりがないとも言えるのだが。
「……まあ、そういうことなら俺のところに来るのは分かったが……他にも目的があるんじゃないのか?」
「それは私の知るところではありません」
……嘘だな。教えるつもりもないようだが。
「パスポートだとか、いろいろいるんじゃないのか?あれって確か、今の時代でも電子データでは無理なんだろ?」
国境の問題に関しては厳重になる必要が多い。
なので、パスポートに関しては実際にそう言う物体が必要になるのだ。
面倒と言えば面倒だが。
「問題はありません。すでにこちらで準備しています」
「用意がいいのか……それとも、君たちの想定通りに進んでいるのか……」
こちらに面倒なことが無いというのなら、それはいいことではあるのだろう。
しかし、一度叩き潰す必要がある……か。
「まあ、そこまで話が進んでいるのなら仕方がないか。で、サターナ。見てるんなら声くらいかけろよ」
「すまないな。入りこめる雰囲気じゃなかった」
サターナが工房に入ってきた。
「サターナさんですね。すみませんが、間のいいメンバーを除いて、秘密にしてもらえると助かります」
「別に構わない。俺が気にすることじゃないしな」
サターナは変なところで物分かりがいいからな。
「ま、行くとするか。ただし……自重も妥協もしないから、覚悟しておけ」
「楽しみにしていますよ」
そういって微笑むセトナ。
それに対して、ゼツヤは獰猛な笑みを浮かべた。
そして、工房から出ていった。
壁にもたれかかったサターナは、呟く。
「あいつが、自重も妥協もしない……か」
「何か気になることでも?」
「いや……叩き潰す程度で済めばいいと思っただけだ」
「それほどすごいのですか?」
「すごい。っていうか……勝ち目がないって言うか……まあとにかく、本気にさせてはいけない相手って言うのはそこそこいるもんだ。俺が入っているかどうかは知らんし、興味もないけどな」
サターナは壁から離れると、セトナに背を向ける。
「俺たち『エッセンススキル』の所有者は、少なからずリオから制御方法と倫理観を植え付けられている。それ以前の時代、一番ひどかったのは、ゼツヤ自身だ」
「え……」
「天才って言うのはいるんだよ。そう言ったやつらは、痛感するだろうな。何を見ることになるのかは、文字通り、『見れば分かる』から、楽しみにしているといい。ただ……ゼツヤの目が赤い時は、気を付けることだ。心の奥に封じているヤツが起きているかもしれないからな」
サターナはそう言うと、工房を出ていった。




