エクストリームとゼツヤの最高傑作
チート。降臨。
「ここに来たのは久しぶりだな」
ゼツヤは、城塞都市『ヴァルガ二スタ』にいた。
ヴァルガ二スタは、基本的な建物がとても高いのだ。あくまでファンタジー基準なので理不尽な大きさではないが、圧倒的である。
恐ろしいほど町は白い。街の中心には、この町の王(NPC)がいる。
ゼツヤはそんな街を歩いていく。ヴァルガ二スタは物価が高く、さらにクエストもそう難しくないため、プレイヤーの数は少ない。
だが、この町には、『エクストリーム』のギルドホームがある。
この町の建物としてはそう大きくはないものだが、それでも立派な作りの家に入る。因みに、7階建て。
「おーっす。久しぶりー」
中には6人のプレイヤーがいた。全員そろっているな。
エクストリームのギルドカラーはクリムゾンだ。レイフォスの趣味である。
総勢6人と、ワンパーティーにすら到達していないのだが、これでも実力はすごい。
まず、このギルド名『エクストリーム』は、英単語としてはいろいろな意味があるのだが、このギルドを表すなら『極端』だろう。
なんと、初期で設定できる6種類のステータス。それだけにポイントを振り続け、100レベルに到達した『大馬鹿者』達である。
まず、マスターであるレイフォス。顔はイケメンに至るかいたらぬか、と言った感じだが、全く怒らなさそうな雰囲気をまとっている。クリムゾンのロングコートを羽織っており、腰のあたりでまとめてベルトで縛ってある。コート以外は黒で統一されている。また、背中には『大太刀』を背負っていた。
極振りしたステータスは『STR』であり、物理的な攻撃力は計り知れないものである。
身長はゼツヤよりも高い。因みに、21歳である。
次に、『ユフィ』。もう圧倒的なまでに美少女である。腰まで流れる黒い髪、ぱっちりとした目。卵顔。容姿はかなりいい。体格もスレンダーで、中学2年生にはそぐわない胸をしている(アバターは身長と胸の大きさは変更できない)。だが、少々身長が低いので、妹キャラにされがちであるが、それはいいとしよう。まあ、この中では最年少なのだがな。14歳の中学2年生。
真っ白いシャツに、クリムゾンの外着を重ね着していて、丈の短いホットパンツである。足は大胆に露出している。
極振りしたステータスは『AGI』であり。普通にはやい。そりゃもう見えないくらいに。
両腰にダガーをそれぞれ装備しているので、その点だけ言えばミラルドと同じだが、ダガーの長さはミラルドのものよりやや短く、軽そうである。
次に、サーガ。顔はいいのだがボサボサ頭。シャツもジャケットもノースリープである。基本的な色の配色はレイフォスとそう変わらない。
ゼツヤと同じ16歳である。
背中には巨大な弓を背負っていた。
極振りしたステータスは『DEX』であり、百発百中である。しかも全部クリティカル。掠りたくないな。
次に、セルファ。全身鎧で全身クリムゾンである。年は30後半。まあ、そう言うことである。
右手には巨大な盾を持っているが、左手には何も持っていない。
極振りしたステータスは『VIT』であり、その防御力はまさに城壁である。
次にシャリオ。やたらと好戦的な雰囲気があった。ややローブを装備していることと、アクセサリーの装備数が多い。
武器の類は持っていないが、両腕に、腕輪とはまた別に、金色のリングがある。
ちなみに20歳である。
極振りしたステータスは『INT』であり、魔法攻撃力は圧倒的なまでの数値を誇る。あと、MPが恐ろしく多い。最大値は『14000』である。
最後にクラリス、かなり活発な雰囲気のある女性だ。長くて赤い髪はとてもきれいで、容姿端的、頭脳明快。運動神経抜群。スレンダーでやや背が高く。胸も大きい。と言うハイスペックな女性。杖を武器としているが、こちらは物理攻撃力もそれなりにありそうである。
ちなみに、サーガの姉である。19歳。
極振りしたステータスは『MND』である。低ランクの回復魔法でも、かなりの数値の回復が可能。さらに、『邪眼』系と言う、まあ所謂『バッドステータスにならない程度の呪い』の状態異常にをなることで、『デスヒール』と言う、ヒールとは逆のダメージを与えるという汎用性の高さを持っている。
この6人が、エクストリームのメンバーである。
「さて、ゼツヤも来たことだし……」
「俺が来たことだし?」
「メンテ宜しく!」
「いきなりいうんじゃねえよ……」
まあ確かに、装備のランクが最高峰になると、メンテナンスするだけでもバカみたいな金額を請求される。こまめにやるのは遠慮したいくらいだ。
さらに言うなら、NWOの装備の修復と言うのは他のゲームとは少々異なる。
普通、アイテムの耐久値を回復させようと思ったら、それに関するアイテムを使えばいいと思うだろう。だが、NWOは違う。その道具も必要なのだが、『その武器を制作した時の素材』が必要になるのだ。仮に超レアドロップであっても、鑑定すれば何が必要なのかは表示されるので、困ることはない。
補足すると、耐久値無限の武器や防具には、必要な素材自体記入されない。必要ないからである。
なお、魔法使いが使用する杖も、メンテナンスが必要だ。その際は、『エンチャント レギュレート』による魔力操作によって修復するのである。ただし、ランクが高ければ難易度は跳ね上がるのだがな。
「……一応聞くけど、防具まで俺がやるのか?」
「いや、防具は武器と比べるとかなり性能が下なんでな。NPCに任せておいた。このNPCって腹立つよなぁ……一回で『20%』しか耐久値を回復してくれないんだからよ……」
まあそれも考えどころである。
「まあ、武器よこせ、完全回復してやるから」
「ほんと助かる。防具ならまだしも、武器まで頼んでたら確実にレイクが吹っ飛ぶからな」
「ほいほい」
ちょっと隅の方にメンテナンス用の道具があるので、そこに行った。
6人がメインの装備を持ってきた。
なんともまあ爽快である。ちなみに、これらを制作する際、クラリスに頼んで強力なエンチャントをバカみたいに施して作り上げたので、再度生産はほぼ不可能である。
まず、回復担当であるクラリスの杖。
先端に青色の宝玉があり、棒の方は全て鉄でできている。
鑑定。
【深淵の極法杖 サイレント・アビス
『制作工房 オラシオン』
ATK500
耐久値30% 魔法修復
・常時発動効果
『MND増加(極高)』
『回復魔法のクーリングタイム短縮(極高)』
『デス化状態時、MND×(-1)』】
一般的な武器からしたら十分化け物である。
なお、デス化状態と言うのは、プラスとマイナスが逆転した状態異常のことである。
この状態異常にかかっているときに物理攻撃すると、全ての場合において相手は回復し、ヒールをかければダメージになる。ただし、MNDのマイナス値によってデスヒールのダメージ量が変わって来るので、この武器を持っていると恐ろしいことになるのだ。
あと、ATK500と言うのは……回復職が持つものではない。
まあ、やることは変わらない。レギュレートを自分に使って、修復していく。
次、シャリオのリング。
腕輪のような大きいイメージはないが、その分装飾は完璧だ。
【神聖魔道王の腕輪
『制作工房 オラシオン』
ATK0
耐久値8% 魔法修復
・常時発動効果
『INT増加(極高)』
『攻撃魔法のクーリングタイム短縮(極高)』
『ポーション使用時クーリングタイム短縮(極高)』
『MP最大値増加(極高)』】
全魔法職が喉から手が出るほど欲しい一品である。
ピュアファイターであっても、これを付けるだけで上級の新米を名乗れるくらいのステータスを得ることが出来るのだ。
こちらも魔法修復品なので、レギュレートで治していく。
……ていうか、どれだけ使ったら耐久値が8%になるんだ?想像したくない。
次、セルファの盾。
きれいな銀色である。どちらかと言えば青っぽい。シンプルかつ、細かい装飾が縁にびっしりとついている。
鑑定。
【聖堂の超越盾 カセドラル・ブレイヴ
『制作工房 オラシオン』
ATK0 DFE1000
耐久値40% 修復必要素材『マッドネス・オリハルコン』
・常時発動効果
『VIT増加(極高)』×2
『全属性耐性(極高)』
『腐食耐性(極高)』】
恐ろしくシンプルな効果だが、その分果てしないほどの防御力である。
ていうか、この盾の耐久値を40%にするって、どんだけハードな攻撃を何回受けきったんだ?『VIT増加(極高)』×2だぞ?
『マッドネス・オリハルコン』は圧倒的なレア素材だが、錬金に錬金を重ねることで、制作可能だ。ゼツヤですら、1か月1個が限界である。それくらいめんどくさい。
まあ、仮に『マッドネス・オリハルコン』で作ったとしても、この盾を超えることは無理なのだが。
さて、次、サーガの弓。
全てが完成された弓である。ただ、竹で作られていないので邪道なのかどうか、ちょっと判断しかねる一品でもある。
鑑定。
【彩色の霊弓 レインボー・サンクチュアリ
『制作工房 オラシオン』
耐久値10% 修復必要素材『レインボー・ユグドラシル』
ATK650
・常時発動効果
『DEX増加(極高)』
『クリティカル発生確率20%上昇』
『弓矢創造・MP不要』】
何も言えないな。因みにこの弓は、放った際に、矢が直進するのではなく、7本の線が出現して、微調整した本来の着弾地点に7本が集まると言う設定になっている。もちろん。飛んでいく7本の起動だって設定可能だ。だが、かなりピーキーな設定のため、サーガにしか使えないだろう。
ちなみに、『レインボー・ユグドラシル』は、ゼツヤのホームの地下23階に、一定のペースで少量生えてくる。というか、この木のためにその部屋を作ったのだ。
つぎ、ユフィのダガー。
かなり細く、そして短い。重さを感じさせないくらい軽いが、見ただけでくらってはいけないのだということが分かるほど鋭い。
鑑定。
【瞬斬の天性双剣 シャドウ・アサシン
『制作工房 オラシオン』
ATK1
耐久値23% 修復必要素材『月光石』
・常時発動効果
『AGI増加(極高)』×3
『ガードピアース』】
ガードピアースと言うのは、相手が鎧や盾、武器でガードしていても、本来のダメージの値の1割を与えるというものである。
しかし……AGI増加(極高)×3というのは……見えるのか?と言うか、システム的に可能なのか?と最初は思っていたものである。
これを装備した時にユフィの最大速度は、『目に写らない』と言っても過言ではない。
これに対応できるのは……まあそうそういないだろう。いたら困る。
……サーガは狙い撃ちしていたが。喧嘩した時。
まあ、アバターの限界速度は存在するので、それに匹敵するほどの早さを持っている。ただそれだけの品である。まあ、短剣のアクションスキルと言うのはそもそも速さがあれば威力がブーストされるので、ATK1でもかなり恐ろしいのだが。因みに、ゼツヤには、『視認可能』であっても『ぎりぎり反応可能』の領域である。勝率は……高くはないな。
月光石も、『マッドネス・オリハルコン』と同じくらいめんどくさい錬金が必要である。2つ合わせて半年に一回のペースで頼みたい。いや、本当に。
最後、レイフォスの大太刀。
刀身はすべて黒いが、水を張ったように輝いていて、赤い桜が描かれている。
あと、長い。
鑑定。
【純斬大太刀・冥光血桜
『制作工房 オラシオン』
ATK3500
耐久値 2% 修復必要素材『惨劇の桜』
常時発動効果
『ガードピアース』
『STR超絶増加・(極高)』
『腐食耐性(極高)』
『全属性耐性(極高)』
起動効果
『MPを消費する行動を禁止することで、STR1,3倍』】
シンプルである。だが、『ATK3500』は、全てを超える公式チートである。
ちなみに、この武器。しいて言うなら、レイフォスとの付き合いは長い。
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ゼツヤが出会ったのは7年前。まだゼツヤが初めて3年ほどの時である。
当時のゼツヤの生産職としての腕はかなり高かった。と思う。
そんな中、あるクエストが発表された。
クエスト名『惨劇の夜寺』
とてつもなく長い道を進み続けて(今のゼツヤでも休まず動き続けて1日かかる)、まず寺にたどり着き、その寺で発生する襲撃イベントをクリアすることで、ある素材が手に入るのだ。
ちなみに、その襲撃の規模は、3年に一度のあのゴブリンたちのものよりも、強さも数も比べ物にならないほどだ。
たどり着いたものは、当時の廃人(ゼツヤ含む)であったが、クリアできたのはレイフォスのみである。当時のオラシオンシリーズですら、そのクエストを達成できなかったのだ。
そして、そんなハードクエストをクリアしたことで手に入れることが出来た素材がある。
その名は『惨劇の桜』と言うもので、大量の『赤い桜』である。
当時の生産職たちの力では、その素材を扱うことすらできなかった。素材を扱うには、それに見合うだけの熟練度が必要だからだ。『NWOは熟練度マックス、レベルカンストしてからが本番』と言うものもいるが、ゼツヤは納得している。
レイフォスはいろんなところに行ったようだが、ついに発見できず、店で売ろうとした時に、ゼツヤが出稼ぎで武器を制作していたところを発見したのだ。本当にうまくできた偶然である。
幸運なことに、ゼツヤはその必要数値を達成しており、武器を制作した。
ただし、素材である桜そのものを調べてからである。少量を使っていろいろ研究したのち、制作が開始した。
武器は出来上がった。太刀である。その攻撃力と耐久力は、ゼツヤ自身、想像以上だった。
レイフォスはそのクエストで、実は『種』をもらっていたのだ。その桜の種である。
この必要な土地を作るのに本当に苦労したのだ。と言うか、何処で試してもさっぱり咲かなかったのである。春に試すのは当然として、いろんなところに行っては試したが、本当に見つからなかった。
そしていっそのこと、と言うことで、ホームを作り、その中に栽培所を作成、半ば人工的に生み出すことにしたのだ。
1か月かけて成功した。その時はリアルで呼ばれて祝福したものである。いや、本当に。
その時からの付き合いである。7年も一緒にいるのだ。
だが、少々問題はあった。
桜は咲かせることに成功したが、春にしか咲かないうえ、その供給量がやや少ないのである。
ほかの大概の植物なら、気温をいろいろ調節することで成功したのだが、これはこれで調査中だ。
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この6つが、ゼツヤの最高傑作達だ。今ゼツヤが持っているどんな装備を持ってしても、これら一つに及ばない。
というか、そもそもこれらは『運営が認めるほどの正規チート』なのだから。
「終わったぞー」
「速いな」
「そりゃさすがにな」
6人が、耐久値が全回復していることを確認し、頷いた。
「どうだ?」
「完璧だ。ありがとよ」
「ああ、それじゃ、本題に入ろうか」
円卓に座った。
僕自身。プレイ中のゲームでこんなものが敵になったらやってられんな……。




