王女の思考はパンピーには理解不能である
フィクションにおける王女というものは、登場人物と遭遇する場合、威厳やら風格はあったとしても、何かしら、年相応、性別相応のものを見せるものだ。
*←これとか、落第しちゃった主人公が出てくる作品はその代表例である。
セトナ、という名前は本名であろうが、日本産のVRMMOではキャラネームとしても使えるだろう。
ホテルに来た王女も、金髪碧眼の美少女で胸も大きかったが、セトナは本名であった。
とはいっても、何か困ることがあるわけではなく、竜一としても、頼まれた以上手を抜く気は一切ない。
国王は来ないのかと一瞬思ったが、修曰く来ないらしい。
で、その王女様だが、恐ろしいほどの威厳と風格があった。
英才教育というのが露骨に感じるほどだ。そんなものとは無縁だった修が太刀打ちできるような相手には見えなかったのだが、まあそこは爆運による抜群のスペックを誇る男。問題はないらしい。
「一つ。質問してもよろしいでしょうか」
必要最低限のボディーガードが並ぶ中(あ、サングラスをかけたルナードもいます。ちょっと疲れたような表情をしているけど)、セトナは向かい側に座るリオに話しかける。
「ええ。もちろん」
「とあるゲームのプレイヤーなのですが、ゼツヤ。という名前をご存知ですわよね」
質問というより確認だな。
なんていうかばれているな。だからと言ってどうなのかという話だが。
リオとルナードは若干驚いているようだ。
「なぜそう思ったのかを話しましょうか。この部屋にあるすべての調度品。そしてこの料理。すべて同じ人間が作ったものだと思ったからです」
根拠という言葉を辞書で調べてから話してほしいものである。
「あなたが言った通りです」
お前もお前で折れるのが早いわ。
「そうですか……後で、ゲームであってみるのも面白いかもしれませんね」
面倒な女だ。
「勘が鋭いんですね」
「ええ、もちろん。王女としては必須ですから」
そんなことはないと思う。
「いいことも悪いこともいろいろありますが、気づくことができるということはいいことですよ」
「そういうものですかね」
「ええ、いろいろと有利ですから」
それに関しては同意せざるを得ないというか……まあ、たぶんリオも同じことを考えていると思うがな。
面倒な人と知り合っていたものである。
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「なあ、性格が悪いって言われないか?あんた」
「よく言われますわ。それと同時に、警戒されるほどの人間でいたほうが都合がいい時もありますので」
有言実行といえばいいのか、即断即決というのか、それははっきり言ってわからないが、とにかく、ゼツヤはセトナに会っていた。
ホテルで見たときは白いドレスを着ており、気品差もあったが、今は銀色の軽鎧に盾と剣の姿であり、凛々しさ全開である。
「それにしても、王女だとは思わなかった」
ゼツヤがNWOを始めたのは6歳だが、最初のフレンドができたのは8歳の時だった。
それがセトナなのだが、ほぼほぼ強引である。
まあ、威圧的というより、なんというか、ある種のカリスマを若干感じるこの雰囲気が相変わらずだ。
「聞きました。一度、この世界の頂点に立ったみたいですね」
「一年限りだ」
「それでも、数億人ものプレイヤーがいるこの世界の頂点に立ったことがあるということ自体、すごいことでしょう。それに、上には上がいる。などということを、今更確認するまでもなく知っていたはず。ならば、一度でも立ったことを誇るべきなのでは?」
「まあ、一度戦ってみればわかるっていうのが一番いいと思うんだけどな」
いってもわからない性格をしているだろう。
ある意味。リオよりもたちが悪いといえるからな。
セトナのエッセンス・スキルは、ゼツヤが少々荷が重い。
リオも、少々面倒な感じだろう。
「なんていうか、面倒だな」
「私のエッセンス・スキルの話でしょうか」
「ああ。そうだ」
セトナは微笑んでいた。
彼女のスキルは『絶対的な風格』
その効果は、『自らを恐怖した者のプレイヤースキルの一時的な機能不全』である。
セトナは圧倒的なカリスマを内蔵しているとともに、非情なことでもやり抜くのではないかと『思わせる』雰囲気を持っている。
もちろん、本当にするわけではない。
だが、そう思わせる雰囲気を本人が持っているのだ。
なお、機能不全というが、厳密には、100%を出すことができない。ということである。
使えるという部分に不完全さがあるように感じるが、実のところ、全く使えないわけではないからこそ、人は混乱するのだ。
いざという時に出す眼力は恐ろしいという言葉に尽きる。
最高のパフォーマンスができるはずもなく、戦えなくなる場合もある。
まあ……馬鹿には聞かないけどな。あえて言うなら弱点はそこだ。
強いバカには勝てないというのが彼女のスキルである。
さて、面倒なことになったものだ。
彼女に再開することになるとは、ゼツヤは想像していなかったからである。




