アップデートは誰かの強化フラグ
エルザは釣りが好きだ。
まあ、理由が必要と言うより、今も釣りをしているということが重要なのである。
「……そう言えば、趣味スキルにもアップデートが出てるって言ってたな」
そんなことを考えた時、浮きがピクリを振るえた。
獲物がかかったようだ。
エルザは竿を引っ張り……どんな表情をすればいいのかわからなくなった。
「……金魚?」
金魚だ。
ただし、表面がテカッテカに光っている、正真正銘の金魚である。
試しに持ってみると重かった。
包丁で突いてみると金属音がする。
「……どういうことだろうか」
鑑定。
『純金魚』
釣りスキルに寄って釣れる魚。
皮膚、身、内臓、そのすべてが金でできており、資源である。
NPCに売ると20000ゼル。
エルザは思う。
皮膚、身、内臓、そのすべてが金でできている。
それはもうもはや何と言うか……魚と言うよりただの金なのではないか?と。
突っ込むのもバカらしく感じたので、もう続けることにした。
ただ、小遣い稼ぎにはなったと思っておいた。
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とあるミュージックホール。
タクトを振っているアーネストは、何とも言えない気配を感じていた。
(……経験値が発生している)
そう、今までは本当の意味で『趣味』であった音楽関係のものだが、音楽そのものにも効果が発生するようになった。
いいのか悪いのかと聞かれると、アーネストとしてはどうでもいいのだが、客としては違うだろう。
内心、溜息を吐いていた。
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「と言う感じになっているけど、ゼツヤ君はどう思う?」
オラシオンの工房で、ゼツヤはミズハと話していた。
「まあ、別に珍しいわけではないと思うぞ」
ゼツヤがそう言った時、ショートケーキが完成した。
因みに、これを食べると空腹ゲージが完全に回復し、さらに10分間の間。攻撃力上昇とMP自動回復を促進させるという、なんとも殺意溢れる性能になっている。
「でもそうだね。料理スキルとか釣りスキルは分かりにくいけど、音楽スキルで影響するって言う効果は他のゲームでも結構あることだから」
「だな」
音楽と言うより、アイテムとして角笛を吹いて効果が発生する。と言うものならゼツヤも作れるが、そういったものがなかったことも事実である。
「趣味スキルでもこういった効果が発生するって言うのは、実はVRMMORPGとしても、初期の方からあることだ」
「そうなの?」
「ああ。確か、2021年に正式サービスが開始した『REPLICA』というVRMMOでも、確かそんな機能があったはずだ」
「そう思うと、かなり昔からあったんだね」
「そうだな」
まあ、そんな話はいいとして。
「話を戻すか。趣味スキルが少なからず影響を及ぼすのは珍しいわけではないが、今まで実装されていなかった」
「ここまで来てだそうと思った理由って何だろうね」
「わからん。ただ、これからのゲーム攻略に音楽系統が本格的に混ざって来るのは間違いないだろうし、趣味の範囲でやっていたことが、本当にダンジョン攻略に影響することも少なくはない。どうなるかはわからないが……」
セカイが、どんな意図をもってこのシステムを実装したのかはわからない。
ただ……趣味スキルは攻略にほとんどかかわる要素ではなかったのに、それがかかわるように成るということは、趣味スキルの持ち主たちの中でも、少なからず格差が生じるのは免れないだろう。
「趣味スキルがかかわって来る……か」
「あ……」
ミズハが何かに気付いた。
「どうした?」
「思ったんだけど、趣味スキルが影響してくるんだよね」
「そうだろうな」
「それは要するに、使用する楽器や竿、調理器具とか、要するに使う道具がよかったら、少なくともいいものになるよね」
確かにそうだろう。
作者も部活で全国クラスの大会に行くことになった時、使用する物が値段的にすごいことになったものだ。
「それは要するに……オラシオンに制作を依頼する人が増えるってことなんじゃ」
次の瞬間、カラーンと音が鳴った。
ゼツヤの皿にフォークが落ちたのである。
「……そうだった。ていうか、絶対そうなるだろ」
「頑張ってね。ゼツヤ君」
いざと言うときは……弟子を巻き込むとしよう。
ゼツヤはそんなことを考えていた。




