アルテマウェポン
と言うわけで、ボス部屋の前に全員がそろった。
なかなか爽快なメンバーである。
で、リオが指揮をとっている。
「まあ、勝とうぜ」
「軽いわ!」
リオなのでいつもこんな感じだけどな。
ということで、乗り込んだ。
……え。
ちょっと大きな何かを想定していたのだが、三メートルくらいだった。思ったより大きくはない。
「さて、始めるか」
ゼツヤは剣を構えなおした。
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セカイは戸惑っていた。
(いや、ちょっとこれはメンバーが豪華すぎるだろ)
とまあ、そんな感じに。
全員がオラシオンシリーズを所持しており、レベルは最大で職業も最上級職。
しかも、ほとんどがハイエスト・レベルに至っているメンバーだ。
(これは気を引き締めないと本気でヤバいかもしれん。リオ一人くらいなら何とかなったかもしれんが、ここまで多いと訳が分からん。僕はサーガやクラリスではないんだぞまったく)
GMに似合わない器であった。
とにかく、やるか。
右手を出して、魔法を同時に数個発動する。
とはいっても、その規模はかなり大きい……
「『ファントム・グラトニア』」
……はずだったのだが、ユフィとエルザが消えたと思ったら全部消えてなくなっていた。
なかなか理不尽な光景である。
(仕方がない。ちょっと早いが……いや、はっきり言って早すぎるが『死の閃光』!)
右手を怪しく光らせて、一気に解き放つ。
せめて時間稼ぎをしようと思ったのだが……。
カオルが剣を構えて前に出てきた。
そして、一閃。
閃光が砕け散った。
何故だ!
……ん?あ、そうか。
全ての閃光系の技は、完全な中心点を捕らえることで消滅させることが出来る。
だが、死の閃光は直線形ではなく、雷のようにジグザグに進むのだ。
それを捕らえるって、どんな集中力をしてるんだこの男の娘。
……あ、そう言えばゼツヤの父親か。
(め、面倒だな)
仕方がない。もうこうなったら、最初から最後までクライマックスである。
魔法を同時に50個ほど起動した。
全てが乱射形である。
これでしばらくは大丈夫……
「『ミリオンレイン』!」
ではなかった。
うおおお!矢が魔法を貫いてこっちまで来た。
ていうか、ちょこまかと他のプレイヤーもウザいな。
というか、全ステータスが十万あるのに、まだ誰もHPを散らさないというのはどういうことだ?
「なあ、思ったんだが、あのボス、ひょっとして人が動かしていないか?」
誰かがそういった。というかレイフォスなんだけどね。
全員が、ああそう言われれば、と言う顔をした。
え、何か分かるようなヒントがあったの?
「まあ、一つ調べるとしようか」
サーガがクッキーを一つ取り出した。
……それは一体何かな?
ちょっと背中から汗が噴き出てきたような気配がするんだけど。
「ユフィ。これをアイツの口の中にブッこんで来い」
「分かりました」
え、ちょっと待って!一体何!?
セカイは超高速で跳んでくるユフィに対して魔法を使いまくるが、動体視力が高すぎて全然当たらない。
そして、クッキーが世界の口に投入された。
次の瞬間、世界は自分が生まれた日のことを思い出した。
何を血迷ったのか、自分のことを『世界』と名付けた親の顔も浮かんでくる。
VRを生み出す才能にあふれていた自分は、幼いことからそう言ったことをいろいろと作っていた。
小学校四年生だったか。
ネイバーワールド・オンラインが完成し、リオにベータテスターになってもらったな。
それからすぐに正式サービスを開始して、途中で矢次を部下にしていろいろと運営していたのだ。
そして、自分が最強のボスを演じてみたい。ということを思いついて、今回、ORACLE・ZEUSを設定、数々の挑戦者を待ち望んだのだ。
セカイはこの瞬間、この世界に生まれてからの26年を、完全に思いだしていた。
良かったことや悪かったこと、成功や失敗、挫折と達成。
巡り巡って今の自分があることを認識した。
そして……。
人はそれを走馬燈と呼ぶのだ。
(ハッ!危ない。冥界への扉を一瞬開いていた。しかも完全に)
しかも……HPが半分減ってる。
うお、やばいやばい。
しかし、クッキー一枚でこうなるとは思わなかったが……あれは一体何だ?
いや、思いだしてはいけない。また走馬燈を見ることになる。しかも、見渡す限りの花畑の中で、死んだおばあちゃんが小川の向こうで手を振っているのが見えた。あれはダメだ。
★
解説しよう。
先ほどのクッキー。
作ったのが誰なのかは分かりやすいだろう。クラリスだ。
クッキーの作り方を簡単にまとめよう。
・材料
薄力粉
サラダ油
卵
砂糖
マーガリン
1 ボウルに卵、砂糖、サラダ油を混ぜる。
2 溶かしておいたマーガリンと薄力粉を1に混ぜる。
3 トースターの鉄板にアルミをひいてその上に型抜きした生地を並べる。
4 アルミをかぶせてトースターで750w/7分
→1000w/2分裏返して750w/2分
これで、まあシンプルなクッキーが出来上がり。アレンジも可能である。
そして、今回クラリスが作ったクッキー。
正式名称『PANDORA・COOKIE』の作り方。
・材料
薄力粉
サラダ油
卵
砂糖
マーガリン
シュールストレミングス
キャロライナ・リーパー
タウチマン
ドリアン
凝固剤(食用) ←ゼツヤ作成
染色剤(食用) ←ゼツヤ作成
超絶無臭剤(多分食用) ←ゼツヤ作成
クラリス流の作り方。
1 全部混ぜる。
2 型に取る。
3 焼く。→完成
そもそもなぜクッキーの形になってくれるのかが分からん。
ある意味、これに耐えたセカイは、たぶんこの先の人生で何でも食えるだろう。
とにかくまあそんな感じで、ORACLE・ZEUS戦は開始した。
……オェ。




