ブリュゲールの装備の秘密
【地下5階】
今までは『ダンジョンです』見たいな外見だったが、一変して宮殿みたいなものになっていた。
基本的には青い銀色だ。ブリュゲールのギルドカラーと同じ色である。
シャンデリアまで色が統一されているので、なんともこだわった印象がある。
ただ……あのシャンデリア。何かで見たような……。
「ガラッと変わったな」
このセリフ何回目だろう……。
「まあいいか。さて……」
目の前には扉がある。とても高い。5メートルくらい身長があっても通れそうだ。
「明らかにこの向こうにはプレイヤーがいるな」
「そうですね。どうしますか?」
「正面突破以外に何かができると思うか?」
「思えませんね」
と言うわけで。
「全員にポーション渡すから、とりあえず、HPとMPを全回復させておいてくれ」
全員に渡した。
ちなみに、NWOのポーションは、回復系の場合『最大値の何%』と言った回復量なのだが、HPを回復する魔法は、数値が固定されている。MNDが上がれば回復量は増えていくが、その法則は変わらない。何故なのかはわからないが。まあ、ランク10には『全回復魔法』があるので、トッププレイヤーには固定された数値とか『よほどのことが無ければ』関係ないけど。
「さてと……」
ゼツヤはウィンドウを操作して、左の中指に装備されている指輪を変更した。因みに、右手の中指には『エクスライト・リング』が装備されている。
「あの、その左手の指輪って……」
ミラルドが聞いてきた。
「ああ、この指輪は『アンテュルー・リング』っていう指輪でな。『装備者以外のパーティーメンバーの性別と身長、武器の外見以外の全てを偽装する』って言う効果がある。簡単に言うなら、俺以外の容姿が、パーティーメンバー以外の奴から見ると本来のものとは違うように映るって訳だ」
武器を貸したのは、この指輪を装備した際に、本人の武器だとだとされないようにするためでもある。
「でもそれだと、ゼツヤさんは……」
「俺は問題ないよ。本来なら、今いるトップギルドのギルドマスターですら踏み込まないようなフィールドに普段いるような奴だからな。それに、君たちの外見の変更は確実に必要だ。あと、自らのギルドホームであっても、侵入者が何人いるかはわかっても、どんなステータスなのか、どんな外見をしているのかはまでは確認できない。だが、この扉の奥から向こうは、おそらくプレイヤーがいるはずだ。だから、このタイミングでしただけだよ」
かなり捏造設定があるのだが、それは追及しないでもらいたい。
「途中でプレイヤーが来たらどうするつもりだったんですか?」
「もともとその可能性は限りなく低いと分かっていたからな。事前情報で。まあ確信はなかったけどな。あ、今自分たちがどんな姿で見られるのかは、パーティーウィンドウで全員分確認できるから、一応見ておいてくれ」
ちなみに、先ほどまで装備していた左手の指輪は、エンチャントの効果時間を延長する効果があったため、外そうにも外せなかったのだ。
「さ、行くぞ」
扉を開けた。
中には『これでもか!』と言うほどのプレイヤーがいた。
持っている武器は様々である。青めの銀色と言うカラーは変わらないが。
あと、この瞬間、ゼツヤはあることを理解した。
ブリュゲールのメンバーは圧倒的に多い。これはどのサイトにも載っていることだ。
だが、その圧倒的なメンバーのほぼ全員が同じ装備で(多少ランクの違いはある)、なおかつ、同じ色の装備をしている。
ここまでの数をそろえようと思ったら、かなりの努力が必要である。
一度生産することが出来れば、その作り方を知ったも同然なので、所謂『設計図』を手に入れたと言う状況にはなる。
だがしかし、NWOに『量産システム』は存在しない。
圧倒的なまでの羊を飼うことで大量の毛皮を手に入れると言った『生物や植物を利用した素材大量入手』の方法はあっても、『製品の量産』と言うシステムはないのだ。これはゼツヤも同じである。
人数がいるから道具をそろえて大人数でやればいい。と言う意見もあるだろう。
別に、『鎧の作成』であるならば、それもまあ可能である。
だが、ブリュゲールのギルドメンバーの装備には、かなりの光沢がある。
かなりの光沢を生み出すには、『生産の時点でレア素材を使う』と言う方法と『生産した装備アイテムにコーティングを施す』と言う方法がある。無論だが、前者は大量にすることは不可能だ。レア素材と言うのは、それ相応のダンジョンに行かなければ手に入らないからだ。
コーティングを大量にすることは可能なのか。これはまあ不可能ではないが、その手段がかなり面倒だ。
コーティング素材は、比較的狩りやすく、弱いモンスターから入手することが出来るのだが、その確率はかなり低い。手に入れれば問題ないが、それまでの手段が面倒なのである。
さて、そもそもの話だが、『ブリュゲールのマスタースミスは圧倒的に少ない』のだ。
いろいろブリュゲールの発見報告は掲示板に乗るのだが、『メンテナンスですら鍛冶屋のNPCに任せている』と言う情報がとても多い。その情報から、マスタースミス。鍛冶スキルをマスターした者はかなり少ないと予測されている。メンテも、一度に大量にすることはできない。
と言ったように、本来あり得ないほどの充実した装備をそろえている。
どうしてこんなことが可能なのか、実はいろんなギルドが思考に思考を重ね、議論しているが、こうして乗り込んでみてよ~く分かった。
こいつらの装備。ほぼ全部『課金アイテム』だ。ゼツヤの課金回数は0だが、課金アイテムのリストは完全網羅している。ちなみに全ての課金アイテムを作成可能だ。
そう考えれば、全ての問題が解決する。
課金アイテムを購入する際、例えば装備を買うとして、気にいったものを選択する際、追加料金を支払えば、コーティングやカラーリング、簡単な装飾をいろいろと設定できる。要か現実で金さえ持っていれば、充実した装備を手に入れることが出来るのだ。
しかも、ランク7までであると言う条件付きだが、『魔法エンチャント済みのスクロール』すら購入できる。
本棚だってもちろん買える。噴水だって買える。
今にして思えば、あのシャンデリアも、『カラーが変更されているだけの課金アイテム』だった。
「なるほど……」
さて、1人納得できたところで、現実に戻ろうか。
戦力が足りるのか。結論を言うと、『全く足りていない』のだ。いや、攻撃力は良いにしても、防御性能が低すぎる。
あらかじめ考えていたパターンになってしまうな。これは……。
ギリギリハッピーエンドを迎えることが出来る感じになっているが……まあそのあたりは後で考えよう。
「この階層まで踏み込んできたのは貴様たちが初めてだ」
玉座(課金アイテム)に座っているプレイヤーがいた。
装備のグレードはこの中では見た感じ最高級である。あいつがギルドマスターか。
「私の名は『ヘリオス』だ。何が目的だ?」
ヘリオス『原始太陽』か。何でギルドカラーを青っぽくしたのかわからん。普通赤だろ。まあいいけど。
「目的は一つ。『サタニック・ダガー』の奪還だ」
「ほう、それだけのためにここに来たということか。その努力は認めよう。だが、この部屋に入ったからには、ただで帰れると思うなよ?」
「そんなことは最初から思っていないさ」
「たかが12人で何ができる」
「できる範囲でいろいろやるさ」
いや、マジで本当に。
「フンッ」
ヘリオスはウィンドウを操作して、『サタニック・ダガー』を右手に出現させた。腰に装備されず、鞘ごと右手に出現しているということは……装備状態ではないということか。
「このダガーは渡せないな。オラシオンシリーズの武器。さらに言うなら、歴代のオラシオンシリーズの中でも、かなりの性能を持っている。私が使うにふさわしいものだ」
別にそんなこと考えて作ったわけではない。ていうか、あんた完璧にアタッカーだろ。ダガーなんて使うのか?本当に。
あと、性能が高い理由は簡単、『ゼツヤ本人が、緊急用のサブ武器として使っている』ものなのだ。強くて当然である。
まあ、オラシオンシリーズには、もっと理不尽な装備がたくさんあるのだがな。そのダガーはゼツヤ本人にとってはあくまで逃走用、またはサブ武器にしかならない。本命はもっと別にある。言わないけど。
「ま、御託はいいさ。さっさと取り返させてもらうぜ」
ゼツヤが剣を構える。そして、パーティーメンバーも全員武器を構えた。
「身の程を知れ。お前たち、生け捕りにしろ。武器は奪ってやれ」
戦闘開始。
金があるっていいですよね。まあ、NWOでは本物の職人にはかないませんが。




