動きはいろんなところである。デュエルカップに向けて
さて、超巨大宮殿にて。
覚えているだろうか。攻城戦で、ゼツヤとシュラインがリオに頼まれて(はめられて)作ったあの宮殿を。
もう広すぎて訳が分からないとさんざん言われた。
というか、作った二人もいまいちわかっていないと思うが。
とにかく、そのある会議室で、メンバーが集まっていた。
「さて、今回のデュエルカップが最初の挑戦だな」
「ていうか、リオが出る時点で優勝候補決まるよな」
リオの言葉にシュラインが呟いた。
まあ、頭に来るほど運がいいからな。
ゲームの話ではないが、リオの学生時代の体育の授業のバスケの試合の時であった。
リオは当時、自分の運がいいことは自分でもなんとなく分かっているが、スポーツになるとそれが露骨にでるのだ。いや、勉強でもそうだけど。
相手選手は転びまくるわ、自分はコートの端から適当に投げたらゴールに入るわで、本来なら起こらないような珍プレー連発試合となる。
運が尽きる。という言葉がある。
幸運が続いて、大事な時には不運になっているだろうという、まあ、日本人が考えていそうな言葉だが、リオにはそんなものは通用しない。
終始一貫独壇場である。
「まあ、攻城戦では負けましたけどね」
エルザが魚を料理しながら言った。
……いや、あれは主人公の彼女が悪い。ちなみに、人生で初めてリオが胃薬を飲んだ日である。
リオは自分にそう言い聞かせていた。
「今年もシャリオは出るだろうか……」
相変わらず右腕のみが訳の分からんオーラを放出しているライズである。
在学中の大学がシャリオと同じだから気にしているのだろうか。
まあ、心配せずとも、シャリオは毎年出ているが。
あの魔法バカが出ない年はなかったからな。ここ数年。
「たぶん出ると思うよ~。他にもいろんな人が来るんだろうけどね~」
ザイルがものすごく眠そうな顔で言った。
まあ、トーナメント出場メンバーが毎年ほぼほぼ決まっているとはいえ、多くのプレイヤーが参加しているのは間違いない。
「俺は戦闘中の在庫数が心配だがな……」
攻城戦の最中に社会的にほぼ終わっているドレイクが呟いた。
まあ、ポーション担当ではあるが、その本命は、調合によってモンスターを生み出すことである。
ストレージの容量は、特に何もしない場合は150キログラム。
スキルスロットは、レベルが100なら15個はあるので、ゼツヤのような万能型ではないのでスロットに空きはあるだろう。それ以上でも問題はないし、調合品の多くは軽いのでほぼ問題ないと思われるが……。
「私も久しぶりに思いっきり振れそうですね」
シエルも楽しそうである。
因みに、第一子の男の子を産んだばかりだが、まあ、リオの妻だ。普通でなくとも特に問題はない。
まあ、負けたらリアルの方で息子の相手をするつもりだが。
「さて、このメンバーでどれくらいの人数がトーナメントに行けるんだろうね」
リオの予想は……自分を入れて五人だった。
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その頃、ブリュゲールギルド本部。
ギルドマスターであるヘリオスはいろいろ考えていた。
「セカイさんが言うには、このゲームはサービス期間が20年を迎えた時点で終了すると言っていたからな……そろそろ僕も本気で言った方がいいか?」
ヘリオスと言うキャラで行く場合、彼はそこまで強いといえるものではない。
が、それ以上の実力にならいくらでもできる。
「まあ、一応許可はある。もうそろそろ本気で行くべきか……まあとにかく、トーナメントの出場権利はもらうとしよう」
フッと笑って、ストレージを確認し始めた。
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城塞都市『ヴァルガ二スタ』のエクストリームのギルドホーム。
「さて、今年も頑張るか。で、セルファとクラリスは出るのか?何時も出ていないが……」
「私はMP自動回復のめどが立ったから出場するよ」
クラリスは出場する予定のようである。
「私はあくまで盾役だ。出場はしない。ただ……」
「?」
「レムが出るらしいのだ」
あの子。出るんだ。
メンバー全員の思考は、大体そんな感じだった。
「重量武器使いだったか?」
「うむ、最近は、去年のバスターの大剣四刀流をやろうと頑張っていて、諦めて二本の斧で妥協したようだ」
妥協と言う言葉の使い方が違うような気がしなくもないが、レムなのでどう表現すればいいのかが分からないのだ。
不思議な子だからね。うん。
「レベルは?」
「一か月ほど前に100になったといって喜んでいた」
「やっぱりなってたか……」
一体……どんな風に接してやればいいのだろう。
オマケにあれはあれでかなり強いし。
「あれから一度、リオにあわせたのだが……」
「何かあったのか?」
「レムは『ハイエスト・レベル』らしい」
「「「「ええええええ!!!!」」」」
サーガと言った本人であるセルファ以外の全員が絶叫した。
クールなはずのサーガだが、頬がぴくぴくしている。
「あ、でもなんか納得できるな。ぶっちぎりの最年少だが」
もとからコメントに困る子なのだ。別にそれくらいは問題ない。
「どんな風に育つんだろうな……」
「その言葉を私の前で言わないでくれ……」
リアルでは日本でも有数のトップクラスの大学の理事長でも、NWOではただの苦悩するおっさんである。
彼の心配が消える日は……作者の気が向かない限りないだろう。
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「お、ここにいたんだ」
アルモはとある丘に来ていた。
アルモの言葉に少年が振り向いた。
身長はゼツヤ達とほぼ変わらない程度で、顔は好みに分かれるが悪くはない。と言った感じだ。
武器は片手剣で、全体的な色は紫色だ。
ただ、目が死んでいる。
「ちょっと素材集めにな」
「まあ、この丘は質が高い石が取れるからね。モンスターのレベルも高いけど」
「そうだな」
「師匠のところには行った?」
「そこそこ行っている」
「まあ、君の場合はそんな感じだろうね」
自分と同じ、ゼツヤの弟子である『カムイ』の言葉に、アルモは頷く。
「マジックアイテムはいいものが出来たのかい?」
カムイの担当である。
「40点と言われた」
「師匠って採点厳しいもんね。でも、40点超えるだけでもすごいんじゃない?」
「それもそうだがな」
カムイは手に入れた青い石を手のひらで転がしている。
「デュエルカップには出るのかい?」
「ああ、今年から出るつもりだ。アルモはどうなんだ?」
「僕も出るつもりだ。まあ、ピクルとホルンとローズの三人は、毎年出ているみたいだけど」
「そう言えばそうだったな」
カムイは三人のことを思い出した。
「で、フィノはどこにいるか知らないかい?僕の情報網にも引っかからないんだけど」
「あのボクっ娘忍びか。俺も見ていないが……」
次の瞬間。二人の中心に人影が……。
忍び装束の女の子だった。
身長は低い方で、細い体つきだ。胸もね。
「呼んだかい?」
「「別に呼んだわけではない」」
二人はハモった。
「で、フィノ。一体どこにいたんだい?」
「いろんなところをうろうろしてた」
迷子か!
「っていうのは冗談で、『居城ヴァルハラ』にいたんだよ」
「『主神オーディン』がいる場所だったか。一体何しに行ってたんだ?」
「新しい冒険だよ!」
……なんもいえねぇ。
「で、いいアイテムは開発出来たのかい?」
弟子は六人いるが、彼女のみ消費アイテムの開発である。
「出来たよ」
「師匠のところには?」
「行った。70点だった」
「高っ!」
一体何を渡したのだろうか……。
それでも100点ではなかったんだな。
「で、フィノは出るのかい?デュエルカップ」
「ボクも出るよ。弟子がみんな出るって言うし、それにもうそろそろ、いろいろ考えるべきだからね」
「まあ、俺達はスピリットアバターだからな」
誰が言いだしたのかは思いだせないが、リアルでは死亡しており、脳のデータをコピーして疑似人格を生み出す技術を用いて作られる存在。
弟子の六人は、全員がリアルではすでに死亡している。
ホルン、ピクル、ローズの三人はシャリオの手に寄って今の状態だが、アルモ、カムイ、フィノはゼツヤに寄って今の状態になっている。
だが、彼らには限界がある。
記憶の保存量と言うことではない。
彼らは、NWOの中だけでしか、生きることはできないのだ。
26世紀である現在、脳のデータのコピーは法的にかなりギリギリの部分であり、彼らは、NWOの中に存在するキャラクターとして存在している。
NPCと言うわけではないが、プレイヤーでもない。
そう言う存在なのだ。
彼らは法的にNWOにしかいることができないため、この世界が終われば、彼ら全員も消える。
そして、無限に続くゲームなど存在しない。
ゲームは20年続けばいい方だとされている。
現在、16年目。今年を入れて残り五年なのだ。
「そろそろ、何か残しておいた方がいいかもしれないね」
「まあ、そう言うことだ」
「大規模ボス攻略とかやってみたいね。まあ、確実にインフレするけど、こっちが」
確かにな。と苦笑した二人だった。




