相棒の本気
さて、着々と進んでいるわけだが……。
で、ゼツヤの顔から表情が抜け切ったのだが……。
大きな扉を見た瞬間、ゼツヤの目に活力が戻った。
「師匠ってわかりやすいよね」
「昔からだがな……」
アルモとサターナは妙な表情になったが、すぐに扉を見た。
「今ってマップでどれくらいなんだ?」
「今で半分くらいだね。ハーフエリアってところだと思うよ」
あまり説明をしてこなかったというより、する必要があるほど強くなかったのだが、ダンジョンにおいて、半分だとか四分の一と言うのは、特別な意味を持つものである。
倒した場合にどれくらいの強さのアイテムが出るのかと言われると、それは一概にこれと言うことはできない。
理由は簡単で、そのあたりもバラバラだからである。
とにかく、本来のダンジョンのブランクを超えたダンジョンのハーフだ。弱いものが出るはずはない。
「で、どうする?」
「臨機応変にだね。このメンバーだし」
まあそうなるよなぁ……。
ゼツヤは剣を構えて、サターナは刀を構えて、アルモは棒を構える。
そして、扉を開けた。
中は……かなり広い。
「なあ、この広さって、レイド規模じゃね?」
「うん。そうだね」
ダンジョンのボス部屋の広さによって決まるが、ソロ規模、パーティー規模、レイド規模で変わって来るのだ。
ソロ規模は無論。一人でも行ける規模。
パーティーになると、七人で行ける規模。
レイド規模となると、パーティー七つで行ける規模。
となるのだ。
簡単に言えば、ゼツヤ達は、最大でも49人で来るような場所に三人で来ているのである。
「さて、どんなボスが……」
……ヤマタノオロチだ。
なんか緑っぽい感じの色で、八つの頭を持つ。
ちょっと天井に雲があるな。なんで部屋の中なのに雲があるのかどうかは知らないが、まあいいとしよう。
「モンスターの名前は?」
「俺の鑑定には、『ヤマタノオロチ・原種』ってあるけど」
「うーん……ちょっとヤバいかもね」
NWOには法則がいくつかあるが、神話や伝説のをモチーフにしたモンスターはかなり強い傾向にある。
そして、モチーフは愚か、そのまま名前を使っている場合、ちょっと遠慮したいレベルになると気があったりもするのだ。
『逆なでのコットン』が存在する『オーディンの庭』の奥にある『居城ヴァルハラ』には、クエスト関係で『主神オーディン』が出現するが、こいつの強さと言うか、槍がチートだったりする。人のこと言えないけど。
「しかし、原種か。戦うのは久しぶりだな」
「一方的に戦うのはちょっと無理っぽい感じもするね」
「だが、面白くなってきた。俺もそろそろ本気出そうか」
サターナはコートの内ポケットから銀縁眼鏡を取り出してかけた。
「何かのマジックアイテムなのかい?」
「いや、システム的にはただのオシャレアイテムだ。そんじゃそこらの細工師が1500レイクで売ってるようなもの。言ってしまえばルーティンだ」
まあ、ゼツヤは無論知っている。
さて、始めるか。
三人いっぺんに突撃する。
これに間違いはない。
なんせ、全員が近接職だ。
マスターブレスレットやスクロールを持っているゼツヤは、一応魔法は使えるものの、決定打にはならないのであまり使わない。
サターナは刀一本だし、アルモも大体は棒でどうにかするだろう。
ヤマタノオロチのすべての首がこちらに向いた。
そして、全て異なる属性のブレスを放出してくる。
無論、当たるようなメンバーでもないので、それぞれ回避した。
「しかし、ブレス太いね……多くのヤマタノオロチはこんなんじゃないのに……」
「原種だからな。神話に一番近い存在と言うことになるから、強さもそうなるんだろ。まあ、ブレスはしてこないと思うがな」
「……」
サターナは何も言わない。
「しかし、サターナは、一体どうなっているんだい?なんというか、静かな獣っぽいけど」
「うーん……まあ見てればわかる」
次の瞬間。サターナが突撃した。
それぞれの首から弾丸の雨が降ってきているが、サターナはお構いなしに進んで行く。
時々当たりそうになるものはすべて斬り散らす。
全く意に介していない。突き進んで行く。
「うーん……直感っぽい感じもするけど……なんかレベルが違うね」
「まあな」
「……」
さて、俺達も混ざるか。
「で、どうするんだい?」
「正面はサターナに任せればいい。というか、そもそもがレイドボスだからな。俺も本気で行く必要がありそうだ」
オーバーライド『神速』起動。
次の瞬間。ゼツヤはトップスピードでヤマタノオロチに突撃する。
「うーわ……モンスターにも追えない速度みたいだね。あんな速度、ゲームで出せるものなのかな……まあ、師匠のオーバーライドは、前提を混ぜるから、今は『神速』を生み出すことだけに集中している感じか」
アルモにも一応奥の手はあるが、アルモのそれは指揮官として効果を発揮するものだ。
今回においては特に影響はなさそうなので、いつも通り混ざる方がいいだろう。
しかし……。
「サターナの今の状態。多分、本能がむき出しになっているな」
闘争本能、危険感知と言った部分の精度が、何と言うか、DNAレベルでどうすればいいのかを知っているかのように動いている。
ゼツヤの方は先天性集中力過剰症なので、圧倒的な集中力で思考速度がかなり上昇している。言うならば完全なまでに理性的な感じだ。
サターナの方は、本能をむき出しにしているので、完全なまでに獣を追求したと言っていいだろう。
「うーん……二人でこうも違うものなのかな……まあそれはそれで面白いけどね。ん?」
ヤマタノオロチがこちらを向いた。
で、ブレスを使って来た。
「無駄無駄」
アルモは棒を旋回させる。
棒がエフェクトに包まれて、ブレスはほぼ完璧に無効化された。
「さて、そもそもHPは……うわ、レイドボス相手に、ほぼ二人でもう一割削ってる」
武器の攻撃力が高すぎるし、連撃数が多すぎるのだ。
レイドボスなので防御力もかなり高いはずなのだが、この二人にはあまり関係がないように感じる。
いや、関係はあるのだろうが、それが苦戦する理由にならないのだ。
「いつも通りで行けば話は変わるんだろうけど、二人とも本気だしね。片方はデュエルカップ優勝者。そして、もう一方はその相棒。簡単に終わるようなメンツじゃないね」
忘れがちだが、ゼツヤは去年、デュエルカップで優勝している。
「理性と本能か……まあ、僕には届かない領域の話だ」
アルモも棒を構えなおした。
ヤマタノオロチは、自動でHPが回復するようだ。減っていない。
二人だけでは無理だろう。
「本気を出す気はないけど……まあ、僕もやろうか」




