てがかり不足
「うーん……」
ゼツヤは『モルモード』という町にある『プレイヤーホーム』の執務室で、数々の資料を見て、いろんな数字を紙に書きだして、あーでもないこーでもないと唸っていた。
リアルではシャーペンなどはもうほとんど使われておらず、電子ペンになる。暗記するためには書くしかないと考えるものは多いし、それが普通なのだ。余談だが。
……ちなみに、こちらがゼツヤのホームであり、オラシオンは工房である。間違えてはいけない。
あと、ゼツヤの弟子三人が普段いる場所でもある。
……今日は全員いなかったが。まあ、三人が三人、癖の強い性格だし、どこかに行っていても不思議ではないのだ。
「わからんな……暗号解読はそんな好きじゃないんだけど……」
机の上でぐったりした。
その時、サターナが部屋に入ってきた。
「お、サターナ。なんか手掛かりあった?」
「その様子だとずいぶん苦労しているんだな。俺が見ても、生産職じゃないからわからん。いろんなところに行って、壁画の写真を撮ってきた。遺跡マニアのプレイヤーにも遭遇してな。いろいろ渡してくれたよ」
「お前ってそう言う交渉は得意だよなぁ……」
「友達作りでは少なくともお前に負けるつもりはないがな。ところで、一体何が出来あがるはずなんだ?」
「推測では剣だな。まあ、悲しい予測もあるが」
「なんだ?」
「いや、単純な話。作った俺本人が、条件的に装備できない可能性」
「……スキルや職業によって、武器に補正が付くことはあるから、同じ武器を持ったとしても、プレイヤーによって変わることはあるが、装備することすらできないのか」
「そんな感じだ」
推測では、超攻撃特化の剣になると思われる。
ゼツヤの持つ黒い長剣も、攻撃力は高いが、それ以上に生産能力が目立つ。
レイフォスが持っている大太刀が、今のところ、ゼツヤの知る最高攻撃力だが、あの大太刀だって数年前から存在している物だ。それ以上のものがそろそろ出てきてもおかしくはないし、出てきたとしても簡単にでるようなものであってはならない。
NWOにおける全てのアイテムは、レシピが決まっている。
ある程度誤差はあっても問題ない場合もあるにはあるが、そこまで極端なほど攻撃的だと、材料をそろえる段階から骨が折れる。
よほどスキルや職業の分野が違わない限り、『自分にできることは誰にもできる』というのが、NWOである。情報ギルドも多数存在しているのだが、払わなければならないレイクは高いものもある。
「創造神の本来の目的は作ることだ。生産職が剣を持ってはいけないということなのではなく、剣を持つべき人間が別にいる。と言うことなのだろう。きらびやかな剣を握るより、スミスハンマーを握っている方が普通だと思うのも、無理はない」
そう言うものなのである。剣と魔法の両方を極めようとするのとはわけが違うのだ。
畑違いというか……まあ、店舗を持って接客なども含めた商売を行う生産者もいるが、いつ来るか分からないもの達を待つのよりも、工房にさっさと引っ込んで槌を振るう方が生産者らしい。
ゼツヤみたいなのが異常なのである。
NWOには、よくファンタジーである『冒険者ギルド』のようなものは存在しない。
と言うより、ブリュゲールのような湯水のように金を使える連中でもない限り、圧倒的に資金が足りなくなるのは明白である。
完全無償と言うわけにはいかないと思うが、格安奉仕なんぞ、やっていても無駄だ。
「俺は大将軍だからな……」
「装備することはできそうだが……ちょっと不安もあるかな。剣と言うより、槍や刀だろ」
「俺もそう思う」
恰好は、鎖を巻き付けた黒いコートだ。魔王じゃあるまいし。
「さて、どうするべきか……」
「ちなみに、剣以外には何か別のものはできるのか?」
「これが思った以上にたくさんありそうなんだよなぁ」
運営のどういう意図があってこんなものを設定したのかはわからない。
そもそも、NWOにおいて、店売り以外は、もとより最初は存在しないのだ。
素材や手順をたくさん試していって、出来上がったものを、あるプログラムを介することで、それを武器として認識する。それがNWOのシステムだからだ。
剣にしても、他のものができるにしても、これからの生産に大きく影響するだろう。
ただ、強いアイテムであればあるほど、プログラムにあらかじめ組み込まれた例外法則が存在したりするので、いまいちよく分からないが。
あと、壁画には、文字が一つもなかった。それが今現在うなっている原因でもある。
「どんなものができるのかはわからん。が、出来たとしても……現状、一つが原因だろうな」
「一つが出来たから次も連続してできるということはないのか?」
「例外法則がめんどくさいんです。本当に……」
深いよなぁ……NWO。いや本当に。




