歯車の欠片
竜一は道也と買い物をしていた。
いや、現在は店に向かっていた。
主に食料品である。
……まあ、最近は通販でも普通に買えるし、自宅だけで金を稼げるのなら家から一歩も出ずに死ぬまで過ごすことも可能なのだが、それは置いておくとして。
「道也、さっきからきょろきょろしてどうしたんだ?」
「いや、待ち合わせをしていてな」
「誰とだ?」
「転校する前の学校の同級生だ」
「そうか……」
ミチヤって友達いたんだな。
まあ、竜一よりは友達作りはうまいだろう。
「ついでにNWOプレイヤーでもあるからな。お前とつながりがあった方が、プレイ中にいろいろと楽だ」
「オラシオンをおもいっきり利用する気なんだな……」
竜一はげんなりしていた。
まあ確かに、十年レベルでプレイしているので、工房としても、素材生産場所としても、オラシオンは全組織中トップだ。多分。
そんなプレイヤーとリアルで直接的なつながりがあれば、まあいろいろと変わって来るだろう。
存在そのものが準備万端みたいなものだからな。
「お、いた」
「同級生って……え……」
裏道にいたのはとんでもない美少女だった。
いや、可愛いと言うより美人と言った感じだが。
長い黒髪で、身長はちょっと高めだ。胸もシエルほど大きいわけではないが(あれは人が持つ胸の大きさではない)、体全体のバランスととてもあっている。
大和撫子って言えばいいのか?まあ顔立ちはそんな感じだ。
Tシャツにミニスカートで、周りの視線をくぎ付けにしていた。
……はずだが、チャラそうな不良に絡まれていた。七人くらいに。
本人はものすごく余裕そうだが。
「まずいな……」
「ああ、確かに。空手二段に柔道三段に合気道二段だからな。剣道は七段だが今は関係ないか。最悪、不良全員が病院送りになるぞ」
「あ、そっち?すさまじいな……うん」
最近、か弱い女性にあっていない気がする。
ん?メールが……。
『竜一君。今変なこと考えてなかった?』
返信で『そんなことないよ』と送っておいたが、勘のいい彼女なので、次会うときがちょっと不安だったりする。
さて、現実逃避はこのぐらいでいいとしよう。
「どうするんだ?」
「彼女が動き出す前に、俺達が入って不良を適度にボコるぞ」
「お前も過激派だなぁ……。ていうか、彼女を助けているのか、不良を保護しているのか、そのあたりがいまいちわからんな……」
というわけで……。
「おい、そこのちゃらそうなモブども」
いきなりメタ発言を不良に吹っかける道也。
ちなみにポケットに手を突っ込んでいる。
「あ?なんだテメエら」
そんな道也にあからさまに反応する時代遅れな不良たち。
「俺の連れなんだ。どいてもらうぞ」
「は?正義ごっこか。バーカ。おい、目にもの見せてやれ」
不良の内一人が鉄パイプを取り出し……え、そんなものもってたの?今いるの、一応裏道だけどさ。ついでに言うと監視カメラの類もないけど。
鉄パイプを持った不良は走って来ると道也に向かって振り下ろす。
いや、振り下ろそうとして構えたが、道也の蹴りの方が早かった。
腹にモロに直撃し、不良はうめき声を上げてちょっと飛んだ。
NWOなら数メートル飛んでいるだろうが、リアルなのでそんなことはない。
残った不良は動揺した。
「おい、全員で行け!」
不良のリーダーが大声を出すと、五人全員が来た。
「ま、適用にやるか」
「面倒なことになったなぁ」
ちょっとだけ黄昏たあと、竜一も行った。
結果、なんか普通に圧勝。
リアルでも最近動くようになったからな。プレイヤースキルも日々磨いているし、もとより、リアルでもスキルを使えるのが俺たちである。
そんじゃそこらの不良なんて敵ではない。
捨て台詞とともに不良は去っていった。
さて、問題はないな。
「で、千秋、なに言われたんだ?」
「色々と順序が違う気がするのだけれど、それは私の気のせいかしら?」
千秋って言うのか。
あと、俺も同感だ。
「まあ予想はできるからいいか」
「普段からあることなのか?」
「会うときに、三回に一回はこうなってるな」
「なれている感じがしたが、それはこういうことだったんだな……」
さて、買い物である。そもそもの目的はそれだ。
「そちらの方は……」
「糸瀬竜一、友人だ。ゼツヤって言えばいいのか?」
「よくわかったわ」
「こういう……なんていうか、清楚な感じの人と会うのって久しぶりだな、いつもなんか皆豪快なんだもん。女性陣含めて」
ん?メールが…。
『竜一君。今変なこと考えなかった?』
返信で『そんなことないよ』と送っておいた。
明日大丈夫かな。俺。
「で、そっちは……」
「神無月千秋です。よろしくお願いします」
手を揃え、目を伏せ、礼儀作法のお手本のようなお辞儀だった。
……なんか新鮮である。
まあ、道也の回りの人間なんてだいたいよくわからんやつばかりだからな。
……自分も入っているだろうな。ていうか、人のこと言えない。
でまあ、普通の買い物をして、喋って、帰路についた。
「俺混ざってよかったのか?」
九割ほど蚊帳の外だった竜一が呟く。
「まあ問題ないだろ」
「ていう感じには見えないんだよなぁ……」
端から見ているとイチャイチャしているようにしか見えないのだ。
千秋の方から一方的にだが。
お互いにほぼいつも通りの表情みたいなのでちょっと分かりにくいのだがな。
ていうか、なんか俺、いつの間にか荷物持ちになっているし……。
まあ、帰る道は違うので、途中で分かれた。
「同級生だったのか。なんていうか、しっかりしてる感じだったな」
「そうだな。俺が通っていた学校でも人気者だ。なぜか俺は変な目で……というか、殺意のこもった目で見られるんだが……」
「そう言うものなのかね?」
ちなみに、この事を桜に報告した結果。
『道也君ってそういう意味でも竜一君のライバルなんだね』
と返信された。
どういうことだ?
まあそれは今はいいとして、竜一の家でさっそくNWOにダイブする。
「さて、今日はどこにいく?」
「ちょっと待っててくれ」
「ああ、うん。なんか展開わかった」
数分後、千秋がやって来た。
こっちでも顔一緒なんだ……。
かなり和風だな。上半身は白くて下半身は赤い感じの色である。武器は刀で純白だ。
……装備がすべてオラシオンシリーズなのだが、まあそれはいいとしよう。
「お待たせしました。あ、こちらでは『チアキ』と名乗っています」
一緒かい!
珍しいタイプだな。だがまあ、いないわけではない。
「武器は刀なんだな」
「はい、オラシオンシリーズを使っています」
「サターナとお揃いか」
「そうだな。なんか最初からこんな感じだった」
ほう。まあいいけど。
「で、どこにいくんだ?」
「それは……」
サターナが行き先を言おうとした瞬間であった。
「ストオオオオップ!私もいくよ!」
ミズハ登場……勘がいいな。
で、結果的に四人パーティーとなって、『アメロッパ遺跡』にいくことになった。
安直な感じがする……アメリカとヨーロッパを混ぜたな……。
名前には妙なものを感じるが、ダンジョンとしてはかなり広い。
とはいえ、中身は『ザ・遺跡』である。
「あ、なんかある」
門に四つのプレートをはめれそうな穴がある。
横には、なんか石板があった。
「あれを嵌め込むのか」
プレートも穴の数と同じで四枚だった。
刻まれている絵から察するに、『目』『鼻』『耳』『口』である。
顔のパーツか。
「これってどういう仕掛けなんだろうね?」
ミズハが首を傾げる。
「たぶん、一から試してくださいって感じだな」
「面倒だからさっさと進むぞ」
サターナが『耳』と『口』の石板を嵌め込んで、決定ボタンを押すと、門が開いた。
「なぬっ!?」
「え、どういうこと?」
サターナは呟くように答えた。
「漢字だ」
……ああ、なるほど。
「漢字なら、『門』には『耳』と『口』しか入らないってことか」
『聞』と『問』の話である。目と鼻は入らないのだ。
一発でいくのもいいけどさ。もうちょっと考えさせてほしかった。うん。
どんどん進んでいくが、なんか進んだ感じがしない。
「広いな」
「確かに……ん?どうしたんだ、ミズハ。さっきから沈んでるけど」
「出番がほしい……」
そう言えば、さっきからミズハは一発目に弓矢を放つだけで、そこから先はほとんどなにもしていなかったな。
まあ、本当になにも出番がないよりはマシだが。
「む、壁画だな」
サターナの言う通り、先程から壁画が時々見えるようになってきている。
インゴットを釜のなかに入れている壁画だった。
「アイテム作成の壁画なのか?」
「だとしたら、先に進んだら続きがあるかもな」
やる気出てきた。
進んでいるが、なにやら剣の作成方法のようである。
「あ、完成一歩手前で途切れた」
「ということは……」
目の前には巨大な扉がある。
「この向こうには最後があるってことか」
「明らかにボス戦だな」
「ランクはどう思う?」
「経験則だが、武器のランクは物凄く高そうだ」
ボスの戦闘力も高くなるだろう。
さて、行くか。
扉の先にいたのは、一本の巨大な木だった。
というより、大樹だが。
「あれがボスってことか」
「植物系が遺跡のボスって言うのも珍しいがな」
さて、行くか。
なんかツルを使って攻撃してくる。
まあ、問題はないのだ。
……本当に。
……ツルの先端に目がついており、しつこいくらいにミズハのミニスカートの中やチアキの袴の中を覗こうとしていること以外はな。
何かあったのか?過去に。
「なんかいろんな意味で不安なんだが……」
「同感だ」
次の瞬間であった。
二人の背後から忍び寄ったツルが、今までとは違う、まるでプロのような(どんな感じだ?)動きでミズハのスカートを持ち上げ、チアキの袴の紐をほどいて、邪魔な部分をずらしたのだ!
ちなみに二人とも黒であった。
……男性陣二人はどちらとも前を向いていたので大樹のいいとこ取りであったが。
その数秒後、ゼツヤとサターナは背後から濃縮された殺意を感じて、後ろを見た。
そこには、二人の般若がいた。
恐ろしい速度で今まで以上にきっちりした格好……というか、ひもの縛り方がきつい気がするが、まあそんな状態のチアキが突撃し、赤面したミズハがミリオンレインを放つ。
ゼツヤとサターナは横に回避。さすがにミリオンレインに巻き込まれたら洒落にならない。
チアキは……なんと、後ろから来るミリオンレインをかわしながら切り刻んでいる。
二人とも、なんだろう。すごく怖い。
「な……何かあったのか?」
「さ、さあ……」
サターナに問うが、訳がわからないようだ。
いったい何があったのだろうか。
考えているうちに、大樹はHPを散らした。
「「……」」
終わっても二人とも無言だったので、スゴく不安。
と思った次の瞬間、二人とも笑顔でこっちに来た。
「さて、最後の壁画を確認しましょう」
「そうだね。早くいこうよ!」
以心伝心といったなにかを感じる。
まあいいか。というか、考えない方がいい気がする。
とりあえず手に入れたアイテムを確認。
あまり入手していなかったアイテムがいくつかある。来て損はなかったな。
「あ、何かの写真データがある」
「俺もだ」
次の瞬間。ミズハがゼツヤの、チアキがサターナの手をつかんで動かして、画像データをゴミ箱マークに叩き込んだ。
「え、どうした!?」
「な、なんだ一体……」
困惑したが、ミズハがとてもいい笑顔だったので、追求しないことにした。
サターナも同様だったようである。
変な空気だったが、取り敢えず進むことにした。
最後の壁画を確認した。
「ゼツヤ、どうだ?」
「やったことのないレシピだった。だが、そもそも材料が揃っていない。作るのはまだ先だな」
「材料が揃っていないと言うのは珍しいな」
「普段は、今ある材料でどうするか考えていくからな。まずレシピを発見するのはなかったことだ」
「お前の場合はそうだろうな」
「まあな。今日はもう帰るか」
「そうだな」
遺跡から帰る間も、ミズハとチアキはガールズトークで花を咲かせていたが、今一つよく分からないゼツヤとサターナであった。
今日の五時頃、いきなり木曜日がAO入試の試験日だと宣告された。
……なんでこんないきなり……もうちょっとこちらのメンタルについて考えてほしかった。うん。




