知らんうちに父親が帰ってた
「竜一。今日はお前の家に行くぞ」
「何故?」
「いや、引越しの手伝いが面倒だからな。それに、お前がいるってことで母さんも納得してくれた」
「OK分かった」
ということで、道也が竜一の家に来ることになった。
二人とも電気自転車である。
竜一はほぼ手ぶらだが、道也はVRギアをかごに入れている。
「おもえば、竜一は今も一人暮らしなのか?」
小学五年生の時までよく二人でいたが、その時から一人暮らしである。
「まあそうだな。とは言っても、ぶっちゃけ勤務時間以外ならいつでも話せるけど」
「それもそうか」
「思えば、道也は引っ越しする感じだからな」
「親が中途半端に過保護でな……特に父さんが」
「俺の父さんは全然そう言うことねえもんな」
「そう言えば、俺は竜一の父さんを見たことが無い気が……」
「俺だって年に一回会うくらいだもんな。話すのだって週一だし」
「大丈夫なのか?それ」
「俺の先天性集中力過剰症は父さん譲りなんだよ。俺以上にすごいもんでな。仕事に没頭するともう他のことを考えられないからなぁ」
まさかの息子を忘れるレベルである。
それでも一週間に一回は話すのだが。
「なかなかすごいんだな」
「まあそうだな」
ゲーセンとかにも入ったりしていたが、時間はちょっと遅くなってまた自宅に向かっている。話しているとついたので、自転車を駐輪場にとめて中に入る。
「ただいまー」
「おかえりー」
ソプラノが響いた。
「……ん?」
初めて聞く声に道也が首をひねる。
竜一はいつも通りにリビングのドアを開けた。
リビングでは、身長152センチで長い白髪でとてもかわいらしい顔立ちの人が、Tシャツ短パンでテレビを見ていた。
「あ、父さん。帰ってたんだ」
「おかえり、お、道也君も一緒か」
「えっ!父さん!?」
道也は見た目美少女と竜一を交互に見た。
「そう言えば道也君にあったことはなかったね。どうも、竜一の父、糸瀬薫だよ」
「名前も女っぽいな……しかし……竜一、お前一体誰のDNAを引き継いで生まれてきたんだ?母親似ではないよな」
「じいちゃんの若いころに似ているって俺はよく言われる」
「……あ、そう」
道也は苦笑した。
「しかし……竜一の父親が、まさか男の娘だったとは……え、何歳ですか?」
「ん?今年で51だけど」
「……え、てことは母親と21歳差?」
「そうなるね」
要するに……。
竜一 17歳
母親 30歳
薫(父) 51歳
と言うことなのである。
……道也としてはなかなか妙なものだった。
「帰ってるなんて珍しいな」
「いやー、なんか最近仕事が少なくてな。父さんもこんなんだから、仕事が終わるのが早かったんだよ」
「一体いつもどんだけ働いているんだ?」
「父さんはブラック企業でもへっちゃらだからなぁ」
「さすがに僕もそこまでは変わってはいないよ」
「ていうか何見てたんだ?」
「ん?歌番組」
「へぇ……あ、桜が歌ってる」
「竜一って桜ちゃんのファンだったか?」
「いや、交際中だ」
「ふーん……お前に彼女!?」
やっぱりこうなるんだな。と道也は思った。
あと、ツッコミどころが違うとも思った。
「父さんもか。なんでそんなに驚くんだ?」
「いやー……なあ。分かるよな。道也君」
「はい」
「え、どういうこと?」
「言っても無駄だから言わん」
なんのこっちゃ。
「しかし、人気アイドルと交際中なんてなぁ。大丈夫なのか?」
雑誌にもよく出てるしね。しかも最近は竜一と交際しているという噂、いや、噂ではなく実際につきあっているのだが、その証拠が『なぜか』見つからない。見つかっても無くなっていたりするのでどうにもならないのだが、まあそのあたりに関しては竜一が気にすることではない。
「いやー、強いんだよね。いろんな意味で」
「勘もよさそうだなぁ」
「実はその通りなんだよな……」
「そうか、まあ苦労するだろうなぁ。父さんも昔……?電話か。はいもしもし。あ……うん。分かった。それじゃあ」
「誰からだった?」
「母さんからだった。余計なことしゃべるなってさ」
道也はちょっと怖くなってきた。
「で、今日はどうした?」
「道也が引っ越してきてばかりで荷解きするの面倒だったから行くぞって感じだ」
「わかった……」
まあ、昔はよく泊めて、そしてよく泊めてもらった関係だ。今更問題ない。
「ふあー……父さんしばらく寝てるから。あ、竜一。晩飯宜しく」
「わかった」
道也は、NWOプレイヤーではゼツヤが家事的なこともできると分かっているし、リアルでもできると知っているが、まさか普通にやっているとはな。
たまには父親の料理を食べるとか、そういった習慣はないらしい。
薫はすやすやと寝始めた。
「しかし……女の子にしか見えないよな」
「それはもう慣れているが、俺としては肌年齢が気になる」
51歳なのだ。普通におっさんである。
が、薫の見た目は15歳ほど、外見年齢で言えば竜一や道也よりも下である。
ひょっとしたら、実際に15歳のユフィよりも下に見えるかもしれない。……さすがにそれはないか。
「アンチエイジングの本を書いたら売れるんじゃないか?」
「知らん」
竜一はバッサリと会話を終了させた。
「しかし、あんな若い母親にこんなかわいらしい父親って……参観日とかどうだったんだ?」
「小学六年生の時に一回来たくらいか。そうだな……みんな同級生か、中学一年生だと思ってたみたいだぞ。先生を含め」
身長において普通はよくわからないが、作者が中学一年生の四月で150ジャストだった。
平均はよくわからないが、同級生に見えなくもないだろう。
「まあ、そう見えるよな……」
「父さんはタバコを吸うし、酒も飲むんだけど、常連になっている店以外では買わないようにしているらしい。まあ、なんとなく分かるが」
「ていうか、自動車に乗っている時点で警察のお世話になるんじゃないか?」
「よく言われるそうだな」
小さいだけならいい。若く見えるというのはそれなりに苦労するということである。
いや、薫の場合は若く見えすぎな気もしないわけではないが。
「まあ、とにかく、NWOやるか」
「そうだな……薫さんはやっているのか?」
「時々やっているらしい。一応レベルは100まで上げたが、まあ、仕事がかなり忙しいみたいだからな」
「ビルドってどんな感じだ?」
「俺も知らん」
まあ、なんだかんだ言って、一日は過ぎた。




