遺跡探索。
ゼツヤ、ミズハ、サターナの三人は遺跡の探索を開始した。
「しかし、今までの『遺跡』って、変に罠が多かったり、壁画があったりするだけだったよな」
「モンスターもそこまで強くはなかったよね」
遺跡マニアや探求マニアのプレイヤーなど……まあ、デュリオ率いる『NWO研究部』にも遺跡探索班はあるらしいが、それはいいとして、そういったプレイヤーはこういった遺跡や図書館みたいなダンジョンに潜ったりするのだが、彼らによると、NWOの世界独自のバックストーリーは存在するらしい。
……部長であるデュリオがそこまで興味がないのが残念だが。
ただ、歴史書と呼べるものではなく、日記みたいなものなのだそうだ。
まあ、日記も解読し、繋ぎあわせれば記録になるので歴史書と全く言えないわけではないが。
ただ、モンスターは強くないので、脳筋プレイヤーには戦いやすいが、面白くはないらしい。
「遺跡のような要素が追加されているとアップデートでは書かれていたがな」
サターナは呟く。
いや、本当なのだろう。
サターナによれば、今いる『パルントル遺跡』には前にも来たことがあるらしい。
その時は暇潰しで来たので、マップ完成率は『100%』にしたらしいが、今現在、『75%』なのだそうだ。
「簡単に言えば、遺跡が三割くらい広くなってるってことか」
「そういうことになる。そしてもうひとつ。こんな中級ダンジョンですら三割広くなっているんだ。地味に見えるが、かなり大きなアップデートだと俺は思う」
サターナの言う通りだろう。
ダンジョン関連のアップデートはこれまでにもあったが、その多くは、新参プレイヤーが、初期ダンジョンを作業ゲーみたいに挑んでいて、そんなプレイヤーにいじわるするためだったり、後半の、強くしすぎたダンジョンボスの上方修正だったり、とまあ、なんともプレイヤーのストレスを加速させるものが多かった。
今回はかなりまともである。
「なんか暗号でも出てくるってことか?」
「可能性は高いな。ただ、マップのブランクは、遺跡の奥にしか存在しない。いまはまだ、アップデートの範囲内ではないぞ」
「それを先にいえ。俺はこの遺跡には来たことがないんだ」
いちいち考えるのがバカらしくなったので、サクサク進んでいくことにした。
「む、扉の奥に索敵が……遺跡のボスは復活しているようだな」
サターナがいった。
「ああ、俺にも索敵できた」
「うーん。そこまで強さは感じないね」
「それなら特に準備はいらないな」
サターナの即断即決により、挑むことになった。
何があったかって?ミズハが『ミリオンレイン』で蜂の巣にしただけだ。
同情しよう。
さて、スフィンクスもどきがいたわけだが、ドロップアイテムには目もくれずに、ゼツヤたちは奥を見た。
「なんか通路があるな」
「ああ、あんな通路はなかったはずだ」
「……サターナ君が来たのってどれくらい前なの?」
「……四年ほど前だ」
正確な情報なのか判断不明である。
が、マップのブランク部分に相当する場所らしいので、いくことになった。
モンスターの強さは変わらなかった。
「ん?ドアが十三個と、あとは部屋の中央に緑色のプレートがあるな」
思えば扉の数がすごいな。
「プレートには……いや、これなんて書いているんだ?」
プレートの文字が知らない文字だった。
「解読スキルがないと読めない設定なのだろう」
ゼツヤは持っていない。
「……ミズハ、分かるか?」
「うーん……『王様にお願いをされたら、ウインナーを出してあげましょう』かな」
「すごいな。完全正解だ」
サターナが呆れ半分、苦笑半分で呟いた。
ていうか、サターナ。解読スキル持ってたんだ。
「王様のところにまずいく必要があるな」
ただ……もう骨になっている気がしないわけでもないが……だって遺跡だもん。
骨じゃなかったとしても地縛霊である。
「三つの扉の壁画を見ようか。王の扉がどれか分からないと話にならない」
サターナの言う通りなのだが……。
「扉の数が十三個って言う時点で、なんかオチが読めるんだよな……」
「同感だ」
サターナも頷きながら賛成してくれた。
「どう言うこと?」
ミズハは分かっていなかったが。
「トランプだよ」
「トランプ?そうか。『K』ってことね」
「そういうことだ。要するに、『13』もしくは『王』を表す壁画が書かれているところが正解ってことだ」
十三個の扉のうち、それに該当しているのは、『聖剣』であった。
『聖剣』→『エクスカリバー』→『アーサー王』である。
こじつけだが、他が明らかに違うので仕方がない。
チャンピオンベルトなどもあったが、これは『一位』ということで『1』とさせてもらった。
これを当てはめないと、他があまり説明できなかったのである。
「問題なのは……ウインナーだよな」
「ウインナーをつくって出せばいいのかな。ゼツヤ君。ウインナー持ってる?」
「持ってはいない。今すぐにでも作れるけどな」
「「……」」
「なんだその目は」
「いやー……なんていうかな」
「簡単の言えば、謎なんだよ。ゼツヤの用意には」
「悪かったな」
さて、考え直そう。
ウインナーねぇ。
「王様、ウインナーを食べれなかったのかな?アレルギーで」
「そういうもんだいではないと思う。というか、アレルギー持ってる人に実物だすとか鬼畜すぎるだろ」
「それもそうだね」
ミズハは勘はいいのだがなぁ。
逆に言うなら、働いていないときは天然娘である。
「ゼツヤはどう思うんだ?」
「いやー……どうにかして変換すればいいと思っているんだが、全然わからない」
「サターナ君はどう思っているの?」
「……本当に分からないのか?」
「ああ、全然」
「私も全く」
「ヒント、イソップ童話だ」
イソップ童話……。
「あ、『三つの願い』か」
森の妖精の大切な木を切らない代わりに、三つのお願いを叶えると言われた木こり夫婦の話である。
まず、お婆さんが『大きなウインナーを食べたい』と言ってしまって、大きなウインナーもどきが現出、おこったじいさんが、『こんなもの、お前の鼻にくっついてしまえ!』と言って、お婆さんの鼻に接続され、何をやっても離れなかったので、三つ目に『ウインナーが離れるように』と願うしかなく、結果的に、一本の大きなウインナーを手に入れただけという話である。
ゼツヤとしては、何をやっても取れないとかそれ以前に、そのままでもいいから食えばいいじゃん。と思ったりするものだが、まあそれは一部の人間が考えていればいいだけの話だ。
「で、プレートには、ウインナーを出してやれって書いてたよね」
「そうだな」
「三つのうちの、『ウインナーが食べたい』に該当するから……ええと」
「その王様から、三つのお願いをされるから、ひとつ目のお願いを達成しろ。ってことか」
「そういうことになるだろう。と言うわけで、行ってみるか」
聖剣の扉を開いて、奥に進んでいく。
あ……椅子に骸骨が……。
王冠を被っている。多分、王だ。
「おお、客人とは珍しいのう」
普通に会話ができる相手だったか。流石にモンスターではなくNPCのようだ。
どうやって喋っているのか……そもそも声なのかどうかがよくわからないのだが……まあそれは野暮と言うものである。
「ほれ、お茶でもどうじゃ?」
湯飲みが三つ滑り出てきた。
湯飲みのなかを見る。
凄いな。茶としての全ての物質が粉となって沈殿している。いったいどれ程の年月がたっている設定なのだろうか。
「遠慮します……純粋に」
逆にお茶を出してやりたい気分になったが、あえてやらない。
「ほっほっほ。そうか、まあそれはよいのじゃ」
「いいのかよ」
「些細なことじゃ。すまぬが、旅人よ。わしには叶えてほしい願いが三つあるのじゃよ」
おお、いきなりなのかどうかよくわからないが本題だ。
「ええと……なんじゃったかの」
おい!
「ええと、この紙に書いてあるのじゃ。ほれ」
骸骨は王冠をちょっとあげると、そこから四つ折りになっている紙を渡してきた。
ゼツヤは開いた。
ええとすまない。ちょっと個人的な事情で、二つ目、三つ目、一つ目の順番で言わせてもらう。
二つ目。
『北にある城から、昔、振るっていた剣を取り戻して来てほしい』
北にある城。
いまいる遺跡から北はアンデッドエリアだ。完璧に廃城である。
三つ目。
『娘に会いたい』
無茶を言うな。普通に天国にいるって。
で、一つ目。
『ウインナーを食べたい』
「死ね」
ゼツヤは反射的にそう言って、サターナに紙を投げ渡したあと、部屋のはしっこにいってウインナーを作り始めた。
『簡易料理』に設定すれば、かなり時間短縮ができるので、それを利用する。
まあ、それでも不味く作るつもりは毛頭ない。
完成する。
出来たてほやほやのウインナーの完成である。
「ほら、食え」
皿に盛って、フォークと一緒に出してやった。
なお、ウインナーにはすでに、特性ソースをかけている。
「おお、何億年待ちわびたことか」
億!?
「それでは早速、いただきまあっつーーーーーーーーーーーー!」
バカだこいつ。
「でも、出来たてほやほやでとても美味しいのじゃ。感謝するぞい。若者よ」
「ああ、はい、どうも」
骸骨はガツガツとウインナーを食べていく。
……フードの内側では何が起こっているのかは気にしない。
というか、舌もないのによくそんなに食べられるものだと感心する。
「ふう、満足なのじゃ。これで成仏できるぞい」
剣と娘の話はどこにいった!
内心絶叫する。
「お礼にこれをやろう」
骸骨が再び王冠をちょっとあげて、拳より二まわりくらいの大きさの鉱石を出してきた。
あの王冠どうなってんだ?
「それでは旅人よ。さらばじゃ」
骸骨は動かなくなった。
「……クリア……なのか?」
「多分そうだね」
「終始よくわからなかった」
うーん……よくわからない。
「で、ゼツヤ、その鉱石は一体なんだ?」
「『デモンズシルバー』だな。鉱石に見えるが実は金属だ」
「……まだ鑑定してないよね」
「そりゃあ……三万個くらい持ってるからな」
……。
「帰るか」
「そうだね」
「同感だ」
ゼツヤたちは道を引き返した。




