相棒ってもうちょっと前に出てくるべきだと思う
「今日から転校生がこのクラスにくるぞ」
五月にはいってすぐだった。
SHRで、二年三組担任、数学担当教師である田中太郎はそういった。
そういうことってもうちょっと早く言うべきだよね。と何回思ったことか……。
「入ってくれ」
その時、竜一は徹夜でオラオクに出すアイテムを作っていたので寝不足であった。
オラオクとは、『オラシオンオークション』の略である。
言わずもがな、ゼツヤが『製作工房 オラシオン』の名でだすあれだ。
桜とデートして走り回ったあとでの生産で根本的に着かれている状態だったので眠い。
入ってきたのは男。身長は……竜一と同じ174センチか。
「それじゃ、自己紹介宜しく」
「茅宮道也です。一年間宜しく」
竜一は思考が停止した。
ん……道也?
「みんな仲良くするようにな、席は……糸瀬の前だな」
目があった。
道也は何も言わなかった。
「よ、久しぶり」
「ああ、そうだな」
話しかけてもそんなに返してくれなかった。まあいいけど。
「ん?糸瀬、知り合いか?」
「はい。小学五年生くらいまでは大体いつも一緒に遊んでましたね。ゲームで」
「そうか……まあ仲のいい生徒がクラスにいるのは良いことだ。まだなれない部分もあるだろうからサポートしてやれよ。先生も高校二年生の時に転校したけど、モブっぽいっていう理由で全然話してくれなかった」
いっちゃ悪いけど名前が田中太郎だもんね。
「一応分かりました」
「よし、じゃあ連絡事項な」
田中先生が色々と言っているのを聞いて、SHRは終了した。
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「メールもここ二年くらいしてなかったからな。本当に久しぶりだ」
「竜一君って他に友達いたんだ」
「NWOにはいるんです。リアルではあまりいないけど」
悲しい現実である。
桜と話していると、質問攻めから解放された道也がこっちにきた。
なお、もう放課後で、デュリオと冬香は部室にいった。
「転校生というのは苦労するものだな……」
「そりゃそうだ」
沖野宮高校は転校生や留学生が来るが、そもそも今の時代、幼児から高齢者まで普通にネットに触れているので、転校する意味ってあまりないのだ。
簡単に言えば珍しいのである。
「ところで……」
道也は桜を見た。
「私は桐谷桜。竜一君の彼女をしています。宜しくね」
道也の顔が驚愕に染まる。
そして、その目のまま竜一を見た。
「竜一……彼女ができたんだな」
「そこまで驚くことかね?」
「いや、俺よりも先に彼女が出来るとは思ってもいなかった」
「失礼だな」
「竜一の場合……苦労すると思ったからな」
そこまで!?
「まあいい。ただ、NWOにかぶり付きになって体力はごみレベルになっているかと思ったが、案外きたえていたんだな」
「高校に入ってから、リアルでもNWOでも濃いことがたくさんあったからな」
マラソン大会は男子で二位だった。一位はデュリオだ。
「しかし、道也、あいかわらず運動神経は凄まじいな。本気の俺とデュリオをまとめて抜いたあとにメテオジャムって……」
「しかも、コートの端からシュートして入っちゃうもんね」
「まあ、ジャンプボールの時からおかしかったが……」
「しかも、ナイスパス連発……」
簡単に言うなら、某バスケ漫画の火○と緑○と赤○の集合体なのである。
勝てるかこんな化け物。
「バスケ部に勧誘されたな。断ったが」
「勧誘されるのは当たり前だ」
部活には入っていないだろうからね。
……竜一も入っていないが。
「そう言えば、道也君もNWOをやっているの?」
「ああ、やっている。レベルは100。職業は『大将軍』だ。メイン武器は刀」
大将軍とは、自分を含め、パーティーメンバーのステータス上昇に繋がるスキルを多く入手できる職業だ。
結構面倒だがな。
「メンバーって……」
「俺のやり方は知っているだろう。全員NPCソルジャーだ」
そういやそうだったな。と竜一は思った。
「けっこう面倒な職業を取ったもんだな」
「風の噂では、竜一は『創造神』だろう。一体どれほど作ったらそうなるんだ?」
「『武器職人』『防具職人』『アクセサリー職人』『道具職人』『装飾職人』『書物職人』『調合師』『料理人』『船職人』『家職人』『宮殿職人』『城職人』『教会職人』『神殿職人』『塔職人』『ダンジョンクリエイター』『魔物職人』『植物管理者』『魔法構築者』『ガーデニングエンジニア』……だったかな。他にもまだあったかもしれないが、これらの職業をマスターすれば出来るぞ」
「もはや病気だな……」
自覚している。というかそもそも先天的精神疾患だが……。
「ははは……そう言えば、道也君って、あまり聞かないけど、どれくらい強いの?」
「まあ、竜一と同じくらいじゃないか?」
「お互いに本気ならちょっと分からんが……まあそんなところだろう」
「つ、強いね」
仮にもゼツヤはデュエルカップ一位だからね。
「黎明期は一緒にいたな。レイフォスと知り合った辺りから一緒にやらなくなったが」
「その時の素材集めは俺がやっていたな。懐かしいな」
「ひょっとして……相棒的な感じだったりする?」
「「言えなくもないな」」
これは相棒だな。と桜は確信した。
「今日会うか?」
「そうだな。最近アップデートで、遺跡に色々な要素が追加されたらしい。行ってみるとしよう」




