新兵器の名は『水圧切断機』
水圧切断機、いや、たぶん『ウォータージェット』という方が正しいと思うが、そういった切断する機械がある。
ブリュゲールの兵器開発部(謎)の部長(?)となったエルドは、これをみて感動したらしい。
……本当に日本最高峰である天恵大学に通うほどの頭脳があるのかどうか心配、いや、この場合心配なのはエルドを合格にした試験担当の教師だが、まあそれはいいだろう。
まあそんなことはいいとして、ウォータージェットだが、簡単に言えば、マッハ3に到達する速度で、水をものすごく細い菅から放出、レーザーのようなやり方で切断する。
水、ほかには研磨材くらいしか使わないので環境に優しく、レーザーのように融解することもないので、それによる形状変化もない。
威力的に見ればレーザーの方がよかったかもしれないが、さすがにそこまでシステムを誤魔化すのは無理であった。
ただし、ウォータージェットだってなめてはいけないのだ。
「ヘリオス。ということで最強のウォータージェットを作るぞ」
「兄さんってVR関係以外ではボンクラなのによくやるよね」
ヘリオスとしても厄介なのが兄だった。
「なに、ちょっと調べてみたが、この技術は500年も前から実装されていることなのだ。まだしっかり調べていないが、金属くらい今の技術なら斬れるだろ」
「いや、500年前でもチタンくらい普通に斬れるけど……」
まあ、何はともあれ、調べることに。
ヘリオスは調べていて思うが、ウォータージェットは切断対象から離れるにつれて切断効果は減少する。
これは当然である。
まあ、マッハ3(平均的には秒速500~800メートルくらい)になるので避けるのは少々無理があるかもしれないが、それでも見れるやつは見れるはずだ。
ヘリオスたちは無論知らないことだが、ユフィは普通に反応できる。いや、視認できるだけだが。
まあ、さすがに水だけでは金属は斬れない。
だが、布は斬れる。
「ふむ、水だけでも布くらいは斬れるか。しかも、最近の技術なら遠隔でも切断可能か。そう言えばウォータージェット、所持するだけで凄かったからな、特に維持費が」
ヘリオスとしては切断性能ではなく維持費を調べていたエルドの順序が変だと思ったが、あえて言わなかった。まあ、維持費が高い理由なんぞ、技術の進歩があるからに決まっている。
「布を切断し、プレイヤーの多くの装備に対して金属を強制させ、その後は鉄鋼弾で貫けばいいか」
安直な考え方だが、シンプルは大切である。
まあ、その、ウォータージェットの開発と、そもそも、遠隔切断が可能なのかどうかによるのだが。
そして、NWOというゲームの世界で、鉄鋼弾を十分な速度で発車させることができるのか、そして、想定される速度を出したとして、本当に満足のいく結果が出るのかどうか。
まあ簡単に言えば、こちらの用意する攻撃力と、向こうの防御力がどういう傾きになるのかが不明なのである。不安要素第一位はオラシオンシリーズだ。
黎明期の時点で伝説はかなり多いが、鉄鋼弾くらい防いでしまいそうな伝説が多い。
しかも、布装備(多くの場合はコートやローブ)にしても、ものによってはウォータージェットくらい防いでしまいそうな雰囲気なのである。
「要求されるポテンシャルがすさまじいと思うが……」
「なに、問題ない」
その闇雲な自信の根拠はなんだ?
何回考えたのかさっぱり分からない。
いや、ヘリオスは無論エルドがどのような人間なのかは知っている。
メンタルは中途半端な金属レベルなのでそこまで強いとは言えない。
が、形状記憶合金なので、処置をすれば簡単に戻るのである。
不屈なのではない。ゾンビなのだ。
それがエルドだ。政治家になったら大成功か大失敗のどちらかである。
「ふむ、設計に関してはどうするか……」
まず致命的な話だが、NWOにおいて、マッハ3。いや、要求される速度ははっきりいってそれ以上になるだろうその『動力』を生み出し、その運動を持続させることができるかどうかという問題である。
水は魔法があるので現地調達……ちょっと違うな。まあとにかく問題はない。
鉄鋼弾に関してだが、これに関しては無論機関銃のように数を求めはするがそうでもないので、まあ、そこそこ集まるだろう。
あとは、鉄鋼弾を打ち出す銃をまた考えることだ。
……サブマシンガンでいいかな。どうせウォータージェットの有効範囲なんてたかが知れてるだろうし。いや、ヘリオス自身がウォータージェットをなめているのもあるが。
「……」
要するに前途多難なのだ。
それだけをいうなら、仕掛ける方も仕掛けられる方も関係ないのである。




