ジョブの存在って忘れやすいよね(偏見)
システム。
さまざまな状況で使われる言葉だが、ゲームではこれはどういう意味なのか。
簡潔に言うと、これは『制限』である。
覆すことのできないルールとも言える。
だからこそ、カードゲームはしっかり考えられたものでないと全く面白くないのだ。手札がよければ一方的になってしまうじゃんけんゲームみたいになってしまうのだから(え、ルールがしっかりしていてもそれは変わらないって?禁句ですよそれは)。
「いやー、今年度は早々に暴れてきているな」
竜一は二年三組の教室で、NWOに関する書き込みを見ながら呟いた。
そばにいるのは桜である。
「そうだね。なんていうか、ロマン兵器って言うのかな。それを作るなんて思わなかったよ」
「去年は戦艦とか戦車とか作ってたんだよ」
「NWOでする意味ってあるのかな」
それは作っている本人に聞くしかないがな。
「まあいいかな。でも、こんな兵器を作ることなんてできるの?」
「『武器』としては存在できないな。『並べられたオブジェクト』という認識を保たせている。でなければ、システムが発見して消滅設定が起動するからな」
「うわ、そんなシステムがあったんだ……」
「というかな、そもそもこんな消去システムなんていらないんだよ。さっき桜が言った通り、NWOでする意味がないんだからな。NWOは世界設定がファンタジーだから、銃器をそもそも前提とされていない」
「やれる範囲でとことんやっていくのがゲームだもんね」
そう言うものである。
「だましだましで一応『保っている』ようなものだからな。これを計画したプレイヤーは、楽しむためにやっているのではなく、日本では最大級に莫大なデータ量を持つこのNWOという世界を自分の武力で思い通りにすることが目的なんだよ」
「そうしたことが去年もあったんだよね。その時はどうだったの?」
「俺が計画を根本から粉々にした」
桜は予想していたようで、特に驚くことはなかった。
「それにしても、パイルバンカーなんて使おうと思う人いたんだね」
「まあ、本来は杭で穴を開ける大型の建築機材だが、射出目的であるなら、NWOでは『槍』を代わりに使える。まあ、形状は限られてくるし、耐久力の問題もあるだろうけどな」
「竜一君はこのギルドが使っている槍がなんなのか分かっているの?」
「コメントを見た限りでは、『グラニア』って言う槍だな。『銀』系統の金属でしか作れない槍で、耐久力はこの作戦においては本当に必要最低限だろう。職業が『銀術師』であれば、『鍛冶』スキルがなくても作れる物だ。まあ、銀術師で作れる最大の槍がこれなんだけどな」
「ちなみに攻撃力は?」
「俺が片手間に作る槍より低いぞ」
参考にならない例えの代表格である。
「……他に例えってある?」
桜が頭を抱えたあとに言う。
「うーん……クシルっていうプレイヤーがいるんだけどな。レベル100の『鍛冶』スキルマスターのベテランプレイヤーなんだが、そのプレイヤーの本気の七割くらいかな」
そんな情報で、NWOプレイ歴約半年の桜にどう解釈させろと言うのだろうか。
いろんな意味で例えるのはうまいはずなのだが、アイテム関連となると本人が凄すぎて逆に例えが全然わからない。
なんとも変な構造である。
「まあ要するに、思うほど弱い槍じゃないのね」
「銀術師が作る場合は素材によるな。武器にしては珍しく、銀系統の金属であれば、ルートさえ間違えなければ作成可能だ」
多くの武器は素材が決まっているなかで、グラニアはインゴットが銀であれば作ることができる武器だ。
他にも、素材の系統や作成方法によって決まっている武器も存在する。そうした武器があることで、NWOの作成システムのプログラムの解読に役立つのだ。闇雲にやっても強い武器は作れないのである。全くできないわけではないが。
無論、職業そのものに練度が決まっていないのがNWOの現状なので、素材のランクによってグラニアの性能は変わってくる。
あくまで、コメントにあった情報から引き出したグラニアの素材から計算した結果が、先ほど例に出した武器のポテンシャルであると言うだけに過ぎない。素材が違えば性能も例え方も変わってくる。
「今回のパイルバンカーに使われているグラニアの素材は『アンラスターシルバー』。生産職では『無光沢金属』っていうジャンルに分類させる物なんだが、これのランクはかなり高い。需要もかなりあるんだ」
「光沢が無いのに人気があるんだね」
「女の子には需要は少ないよ。でも、無光沢、言うならば、光による見た目の影響を受けないから、暗殺スタイルのプレイヤーは好んでいるな。まあ、さっきも言ったようにランクは高いんだけど」
「へぇ、どうやって手に入れているんだろうね」
「錬金で作れない物でもないしな。方法は無数にあるよ」
「そっか。でもさ。こういったロマン兵器。『創造神』としてはどう思うの?」
「別に気にするものでもないぞ。やろうと思えば俺の方が性能は良いものが作れるし」
「そういうものなのかな?」
「『創造神』だからな。ていうか、俺、自分がその職業なんだってこと、完璧に忘れてたよ」
「ああ、ハイエスト・レベルのプレイヤーが回りに多くて、ついつい本人のポテンシャルに目が行きがちだからね」
生産を主とする竜一なら、その職業との関係は深いはずなのだが、まあ、そう言うものである。
「みんなはどうするんだろうね」
「分からないが、一つ、わかっていることはある」
「何なの?」
「多分、長くは続かないだろうな」
「……そうだね」




