ヘリオスの素顔
富里矢次。
もしかしたらもうみんな忘れているかもしれないが、ヘリオスのリアルネームだ。
その矢次は、とあるマンションにはいる。
その様子はかなり社会を理解していると言うか、いつもの自分中心天動説といった部分はない。
むしろ、子供にしては異常に落ち着いた雰囲気だった。
ビルに入ってほぼ最上階に行き、少ない扉の前にたつとカードを入力した。
26世紀である現在はほぼすべてのシステムがVRを利用したものであり、本来ならカードすらも不要なのだが、厳重さや、電子データであるがゆえのハッキングを避けるための紙の資料は使われている。
まあ、それでも、VRゲームが普通にある現状、インテリアショップに行かなければ部屋の中は殺風景だろう。
まあそれはいいが、カードを入力すると、自動的にドアが開いた。
「お、来たな。矢次」
キーボードウィンドウを叩きまくっている男性が反応した。
年齢は25歳。リオと同じくらいだろう。
最近散髪にいったのが分かりやすい髪型で、Tシャツにジーパンのラフな格好だった。
顔はそこそこいい方だろう。
彼の名は林道世界。NWOのたった一人の運営者である。
※世界という名前をだしすぎると混乱するので、ここからは基本的にセカイと書きます。
「ああ、というか呼び出しだったからな」
「たまにヘリオスとしての君のログを見るけど、本当に違うよね」
「それはそうだろう。それが僕のスキルなんだから」
「それもそうだね。さて、今日もぱぱっとよろしく」
「分かってる」
矢次はそばにあったベッドに寝そべって、VRギアを被った。
その後仮想世界に入ったが、現実時間で五分後に矢次は起き上がった。
「ん。で、今日はなんだ?」
一瞬ここがどこなのかわかっていないような様子だったが、セカイを見て把握できたような感じだった。
「ま、今回、ダンジョン作成をアップデートしたわけじゃん」
「ああ、ヘリオスとして似たようなものはホームに作ったが、かなり強引だったからな」
「あれはあれですごかったね。ま、そんなこんなでみんなもつくって挑み始めた。ただまあ、皆さんゲーム脳が素晴らしいのか、直ぐに営利目的の利用方法を見つけている」
「そういう風に作ったようにも見えるが」
「否定はしない。ただ、いろんな意味でこれが一番バランスがいいからね」
矢次はゲームの運営などしたことはないので分からないが、セカイにとってはそう言うものなのだろう。
「ヘリオスとしては楽しんでいるかい?」
「ああ、まあ楽しめてはいる。というか、あれはそう言うものだ」
自分のことなのに他人のことを評価しているようなしゃべり方だが、これには理由がある。
富里矢次のスキル『自己価値観設定』である。
簡単に言えば、自分の可能な範囲で、自分の思考の構成要素を設定できる。というものだ。
優秀さを見せることも、バカだと思わせることも、野心家を振る舞うことも、本人の持つ限度、例えば、シャリオの頭脳だとかは無理だが、そういった部分を設定することができる。
無論、実力もだ。
しかも、相手に会わせて選択できるのだから、実質的に出来ることはものすごく多い。
言い換えるなら、ロールプレイングの境地である。
ヘリオスの思考回路は、まあ、ぶっちゃけて言えば自由奔放である。
なお、本人の家は裕福なのも事実だが、それでも限度を越えているような課金ができるのは、そもそも運営が味方だからである。
「なんだかんだ言って、この一年でかわったね。NWOは」
「運営としてはどう思うんだ?」
「別に不満はないよ。変化があるのはそこまで悪い話ではないしね。ただ、君に会わせたくない人材が出てきたと言うところかな」
「キャラネームではミズハか」
「そう、彼女は自分に関係あろうとなかろうと、勘で不自然だと思うことができる。しかも、回りにいるゼツヤ含めた様々なプレイヤーが、彼女の勘に疑問を持たないし、食いついてくるかもしれないからね。だからと言って警戒されたところで不都合はないが、君の場合はクラスメイトがサーガだからね」
「まあそうだな」
「しかも矢次は感ずかれていることに気付かないほどバカじゃないし……まあヘリオスとして動いているときは気付かないだろうけど」
それは確かに気付かないだろうな。とは次も思う。
ミズハの勘は何度見ても凄まじいものだ。いや、はっきりと見たのはデュエルカップのトーナメントの時だけだが、あれはなかなかすさまじい勘の良さだった。
「しかも、彼女はリオの摂理の中心地点を無効化する手段まで持っているしね。まあだからなんだという話でもあるけれど、彼女は注意しないとね、僕のことまでたどり着きそうだ」
「あり得ないはなしではないな」
「だからこそだね」
面倒になったものだ。と矢次は思う。
ヘリオスとして楽しんでいるいっぽうで、別のアカウントと思考で様々な暗躍をセカイの命令で行ってきているが、それにしたって変なメンバーが増えた。
そして、その中心にいるのは……。
「ゼツヤ。君はいったい……」
いろんな意味で一番不確定な存在であるゼツヤ。
サタニック・ダガーの回収でホームに来たことがあって見ているが、なかなか他とは違った雰囲気だったように感じる。
前途多難である。本当に。




