水中での剣技とかマジで無理
ブックマーク。ありがとうございます。評価人数が少ない今、それだけが頼りです。いや本当に。
【地下3階】
今度は……海。
……そう、海なのだ。
目をこする。見る。海だ。目をこする。見る。海だ。
「……」
ホラーエリアをかいくぐり、骨の騎士をぶっ倒して、森に出て来る野生動物たちを倒し続けてきた12人のプレイヤーは、現実であるなら誰もが目にし、場合によっては行ったことがある物を目にして、絶句してしまったのである。
「何だろう……これ」
「海だろ」
槍使いのレイオが呟き、42レベルで初級ギルドと言うちょっとよくわからないギルドに所属しているリオンが答える。
改めて見る。フィールド全体を覆うように見ずがなみなみとあり、今立っているところから半径十数メートルのところ以外、このフロアには大地がないのだ。
「あの、陸が見えませんけど……」
「水中にあるんじゃないか?地下への道」
ゼツヤには少なくともそうとしか考えられない。
「可能なんですか?」
「可能だ」
会話が進まない。
「どうやるんですか?」
「『像』のアイテムには、『ガーデニング』とか『観賞用オブジェクト』みたいなアイテムもある。リアルの広場にある噴水みたいなものだ。置いておくだけで、永遠に水が出てくる」
「どれくらいのスピードで出てくるんですか?」
「……1秒で……10リットルかな?」
会話が止まった。
「どうやって行くんですか?NWOって、水中でもダメージは発生しませんけど、『酸素ゲージ』が無くなったら、数十秒で死に戻りですよね」
レイオが言った。
『酸素ゲージ』が無くなっても、HPが減少するのではなく、時間経過で死に戻りする。
「その通りだ。酸素ゲージが無くなれば、プレイヤーは例外なく30秒で『死亡判定』が発生する」
酸素ゲージそのものが保つのは……10分くらいだろうか。
「……行けるんですか?これ」
行く方法は無いわけではない。というか、ある種類のアイテムを使えば誰にでも行ける。無論。『速度制限』は発生するだろうが。
「ある種のアイテムやそう言った『エンチャント』さえあればだれにでも可能だ。あと、水中は地上と違って、『AGI』よりも『STR』がある方が、速度は出やすい。走るということはしないし、水をかき分けるということの方が重要だからな」
「で、誰かそう言ったアイテム持ってるか?」
レイオがみんなに聞くが、全員が首を横に振った。
「ゼツヤさんは……」
「『エンチャント』だな。俺の場合。『エンチャント ウォータートレジャー』」
水中での活動を可能にするものだ。
言いなおそう。酸素ゲージを突破するためのものだ。
「効果時間は1時間だ。まあ、行くか」
ということで、潜った。
冷たいな。
水中にもモンスターは普通に出現する。それに、何回も言うが『速度制限』を受ける。
しかも、声が届かないので連携がうまくできない。
ただ、ゼツヤは水中の動きにはなれている。
理由は簡単で、『水中にしか出現しないモンスター』は……まあ、軽く2万種類くらいいるのだ。わざわざそんなことのためにプレイヤーを雇うとか、ゼツヤ本人にとってはあほなことである。
無論。水中を専門とするプレイヤーもいる。空中を専門とするプレイヤーはいないが、3次元的な戦闘を得意とするものもいる。
声が出せないわけではないので魔法は使えるし、スクロールも使用可能だ。魔法使いにとっては良い処置である。
ただ、魔法使いは水をかき分けるほどの筋力がないので、『最高速度』においては、ややほかのプレイヤーを下回る。というか、STRに振っていないプレイヤーはみんなそんな感じだ。
あと、『他のメンバーに全く指示ができない』と言うのは少々つらかった。メッセージが使えるのは、『フレンド』だけなのである。
あと、さっきから魔法使い云々といているが、剣士たちはどうなのか。
魔法使いには魔法があるように、アタッカーには技……アクションスキルがある。
これはほかのVRMMOにはないことだが、『全ての技は自分で作る』または『作っている人からコピーデータをもらう』と言うものである。
作成手順は簡単で、
①武器スキル(または素手スキル)の熟練度を100にする。
②ウィンドウを操作して、『アクションスキル作成』を選択する。
③選択して3秒後に武器や素手が光りだすので、体を動かして動作を決める。
④動かないまま3秒いると、その3秒分を引いた動作が技となる。
⑤技名を決定する。
⑥登録
と言った手順である。
少々、和風の街に行けば、道場を開いているプレイヤーもいる。
流儀と言うのかどうかはよくわからないが、技1つで流儀と言えるのなら、流儀の数は2000くらいはあると思う。
そんなクリエイト&厨二魂にニトロをぶち込んだような設計だが、水中での扱いを想定している訳ではない。
なお、水中でもウィンドウの操作は可能なので、水中で実際にアクションスキルを作ることも可能だ。だが、これはそうそういない。
既存の技が存在しないので何かを例にすることはできない。攻略サイトを見ればいいだけのことかもしれないが。
ただ、このシステム、技の動作がほとんど一緒だったとしても、登録したプレイヤーが違えばその分技名は違ってくるので、種類は多いといえるのかどうかは不明である。大剣なんて、同じ動きで、予測だが500種類は軽く超えるだろう。と言うか、大剣なら振り下ろすだけで技になるのだから。
ゼツヤ本人はなれているが、他の全員はなれていないようで、かなり動きが遅い。
ん?なんかポリゴンが集まっているな。
と思ったらサメが出現した。
(いや、ちょっと待てって)
水中戦闘は久しぶりなのに、いきなりサメかよ。
無論。待ってくれるはずはないし、そもそもこちらを殺す気満々のようなので、相手をしなければいけない。ああもう。こんな設計にしたやつ誰だ!
まあ、その疑問は後々解決するのだが、今は置いておく。
サメは一直線にゼツヤに向かって突進!いや、この場合って突進って言っていいのかよくわからなかったのだが、それは今はいいとして、剣を構えなおす。
そして、剣を光らせる。
大上段に振りかぶり、サメに向かって振り下ろした。そのまま一刀両断し、ゼツヤ自身もくるっと一回転する。
そのままサメは消滅した。
ちなみに、このアクションスキル『ダイブスラッシュ』は、友好的な関係を築いているギルド団員からもらったものである。
これを作ったやつはかなり器用だと思う。
そもそも、なぜ水中での戦闘はやりにくいのか。答えは簡単で、『足腰が機能しないから』である。
現実における様々なスポーツは、大概は足腰が重要である。
NWOでの戦闘も同じで、足腰は重要だ。踏ん張るにせよ、ためを作るにせよ、そう言った部分が機能しないと話にならない。動きにくいというより、『動けない』のだ。
ゼツヤは確かになれてはいるが、足腰の効かない水中で、STRがアクセサリーで強化されているにしてもそこまで強くはないので、水中で全力を出せるプレイヤーには判定されない。
それ専用のアクセサリーや防具を装備すれば何とかなるだろうが、現実で海の幸をとるために日々潜っている人(●ったどー!と言っている芸能人)と比べたらその差は歴然である。ゼツヤがコテンパンのフルボッコにされるだろう。……たぶん。
しかし、この階層も深いな。いや、深く無かったら逆になんなんだよそれって話になるんだけど、何メートルあるのだろうか。
しばらくすると、底が見えた。
と同時に、近くのでかい穴から何かが出てこようしていた。
果てしなくいやな予感がした。
そして、その予感は的中する。
まさしく、『大海竜』と言っても過言ではない竜が現れたのだ。
全長50メートルはあるであろうそれは、禍々しいという雰囲気がぴったりだった。この深い場所で、何を血迷ったか、群青色って……一体何が目的なのだろう。
ただ、これほどのモンスターを生み出すには、膨大な経験値が必要だろう。一定以上の大きさを持つ召喚獣は、MPでは出せないのだ。これはシステム的にそうである。
ゼツヤですら、MPでこれほどでかいモンスターを生み出すためのアイテムを作ることができていないのだ。作ったやつがいるのなら、それこそ称賛に値する。
だが今現在。戦うのは危険すぎる。何がいけないのかって、単純に火力の問題である。
今回のパーティーはアタッカーが多く、そのアタッカーが十分に動けないのだ。そりゃさすがにいろいろと奥の手はあるのだが、まだ隠しておきたい。
さらに、魔法職も、『火』と『光』で、2人ともそれほど熟練度が高くなさそうだ。
あと、戦う必要はないのだ。
ホームの設計における鉄則だが、奥に行くための空間は、『必ず存在しなければならない』と言うことと、『隠すことはできても、消去はできない』のだ。別に、守護しているモンスターは無視してもいいのである。
素通りするのが一番いい。倒せば達成感はあるだろうが、まじめにやってたら半数以上が『死亡判定』になって町に戻るだろう。それは避けたい。
全員を見ると、こちらを見ている。
レイオが海竜に剣を向けて何か言いたそうにしている。戦うってことか?
ゼツヤは首を横に振った。レイオが首をかしげている。
……言葉が届かないってもどかしいな。『素通りする』のハンドサインくらい作っておくべきだった。いい勉強になった、大概ソロだったもんでね……。
数分かけてどうにか全員に理解してもらった。まあ、女性陣は全員数秒で分かったようなそぶりを見せていたのだが……。
……まあ、これからは俺も気を付けるか。こんなことが何回もあったらそれはそれでいやである。
閃光魔法を何回もかけて、目くらまししながら進む。
全員が扉の前に来たところで、ゼツヤが蹴り飛ばした。
水圧で全員が通路に放りだされる。
数秒後に扉はもとに戻った。
「ふう。やっと着いたか」
「そうですね」
「あ、ちょうど、エンチャント切れた」
それは良かった。エンチャントは途中で一回かけ直したのである。と言うことは……2時間は水の中にいたんだな……。
「まあいいさ。今日は疲れた……」
「あの、どうします?」
「交代で仮眠しよう。それに……」
【地下4階】
「今度は……図書館か」
「そう言うことだ」
ま、試しに本をとってみたら表紙も中身も真っ白だったけどな。
「……まあ、ここで終了と言うわけにもいかないだろう。だが、あれほど動いたんだ。疲れているに決まっている」
いったん休憩である。
その言葉に、全員が頷いた。
多くてこのくらいですかね?容量。内容によってはこれ以上にもなりますが。




