ホールで弾幕パーティーは危険である。
シャリオはホールにいた。
機微が最大級の宮殿のホールなので、その大きさもすさまじい。
コンサート会場のような形式なので、発表できそうな感じのステージがあって、その回りに席がたくさんある。天井の高さからすると、八階くらいあるかな。高すぎである。
この少々走りにくい部屋で、シャリオは、アタッカーであり、鞭と剣の両方の機能を持つ剣を握っている右腕のオーラがでかいライズと、眠そうな表情の魔法使いの青年であるザイルを相手にしている。二人がステージにいて、シャリオは観客席を走り回っていた。
「ちぃ、めんどくさい。『アステロイド・レイン』。『ボルテックス・パレード』」
少々大きい隕石の雨と、雷の閃光がいくつも発射される。
「むむ。『ブリザランス・ガトリング』」
ザイルの使用した氷のでかい槍が隕石を貫き、
「ふっ!」
ライズの鞭が雷をすべて防御する。
「やはり分が悪いな」
シャリオは内心舌打ちしていた。
ライズは、リアルではシャリオの先輩であり、『VR極小構造工学科』と呼ばれる超精密作業が求められるものに在籍している。その右腕は、出された課題を全て苦もなく、しかも高速でやり遂げることから『神の右腕』とまで言われているほどの実力だ。シャリオもその精密さには下を巻くほどだ。まあ、ゼツヤと比べるとどうなのかは少々判断がしづらいのだが。
その右腕から放たれる鞭の軌道は全て正確であり、魔法は全て防御されている。
ザイルの実力は最初はわからなかったが、戦っているうちに分かった。
恐らくだが、何らかの手段でこちらの攻撃を『予測』している。
セルファとはまた違ったものだろう。セルファの場合は、自分の圧倒的な決断力と分析能力で、ほぼ確定の予想をして、その逆算から防御している。
ザイルの場合はまだよくわからないが、何らかの形で予測が行われている。眠そうな顔をしてえげつない戦闘力である。
「しかしこまったな。この二人が相手で魔法オンリーで戦うのはキツイ」
ライズはいろんな意味で正確だ。ザイルもこちらが何をしても全て対応してくる。
「うまく戦況を変えないといけないんだがな……」
その次の瞬間であった。
「うえぇぇん。皆さあぁん。どこですか~」
ものすごく泣きそうな声でユフィがシャリオの後ろから登場した。
いや、実際に号泣である。
サーガと一緒に行動していたはずなのでは、サーガがどこにいるのかは不明だが、まあひとつだけ言わせてもらうと、「よくここにたどりついたな」になるのだがな。
「あっ!シャリオさん!」
「ユフィ、ちょっと静かにしろ。今戦闘中だ」
「はい。えーと敵は……ステージに二人ですね」
状況判断能力は早いからな。迷子の常習犯だが。
「ん?誰か来たようだな」
「むにゃ?ここは複雑な通路の先にあるからみんな素通りすると思ってたんだけどね」
どうやら二人もやや驚いているようだ。
まあ、この場面で超高速戦闘が可能なユフィが来て、どうなるのかは……まだ厳密には分からないが、まあ一方的なことにはならないだろう。
ユフィが二人に向かって突撃する。
ライズの鞭が迫るが、簡単に回避し、接近し続ける。
ザイルが魔法を唱えてもほとんど当たらない。全て二本のダガーで叩き落とす。
やはり動体視力は凄まじいな。動体視力だけで言うならシャリオも高いのだが、シャリオは見分けることに特化しすぎていて純粋に早いものをしっかり認識できない。ユフィはその点では素晴らしい。
ライズが鞭を使うのをやめて剣で戦うことにしたようだ。
「なら俺はザイルをやるか。『アセスミリア』+『デモンゲート』。いくぜ、『グングニル』!」
闇のゲートから金色の槍が出現しライズに迫る。
「むにゃ、魔法合成かぁ。『エラーコード』+『ストライクアクア』。いくよ、『パニックスプラッシュ』」
直進する水が狂わされていくつのも水流になり、届く前に槍を完璧に消滅させる。
「やっぱり使えたか」
「当然。遅延発動スキルを使って魔方陣を合わせるだけだもんね。組み合わせは重要だし、失敗だと魔法を発動できないからね。しかし、君いったいどんなセンスしてるの?あんなにためらいなく完璧に合わせられるものなのかな」
魔法合成。その最も重要な操作は、二つの魔方陣を合わせることだ。しかし、魔法合成などと言うスキルが実際にあるわけではなく、合わせるには、遅延中の時間内に二つの魔方陣を完璧に合わせることが必要なのだ。これが本来は、魔方陣が手から離れているがゆえになかなかシビアなのだが、シャリオの場合、自分のプレイヤースキルによる圧倒的な視界内の空間把握能力によって、その操作を完璧に行うことができる。簡単にできそうなのだが、やってみるとかなり難しいことはNWOでもよくあることなのだが、魔法合成はそのよい例なのだ。
シャリオやザイルに限らず、知っているものも使えるものもいるだろう。しかし、戦闘中になんのためらいもなく二つの魔方陣を完璧に、しかも相手を見ながら合わせることができるのはそうそういないのだ。
まあ、リオは初見でやるだろう。ひょっとしたら遅延発動スキルなしでも使ってくるかもしれない。さすがにそこまではシャリオもできないのだ。
「ただ、ユフィが少々押され始めているからな。何とかしないと」
デュエルカップではユフィに勝利してゼツヤに負けたシャリオだが、ユフィの実力は低くはない。圧倒的な動体視力による回避能力や、豪快に動きながら周りの状況を正確に認識するユフィは強者の分類である。まだシャリオもユフィも、自分のプレイヤースキルの先、まあゼツヤで言うネクスト・レベルやオーバーライドの様なものだが、それを取得しているわけではない。しかし、弱いなどと言うこともあり得ないのだ。
だが、ライズの右手はそれらを全て防ぎ、カウンターを仕掛ける。足腰そのものをうまく使わないライズの剣速はそこまで速くはないが、それでもユフィが決定打を叩き込めないのも事実だ。ものすごい勢いで超高速戦闘が行われているが、ライズは全て弾いている。ただ、ライズはユフィを見ていない。まあリアルでも女性と関係が薄い上に、ユフィはなかなか、まあその、あるので目線に困っているのだろう。ライズから見てユフィはあんなに年下なのに、なかなか初々しい光景だ。右手の反射神経で防いでいるのかね。なかなか器用なものである。
「ザイルの予測の精度が高いな。これも厄介だ」
連射魔法は避けられるし、単発魔法は相殺されるか避けられている。なかなか面倒だ。
何かあるかな。シャリオはないものねだりはしないが、あるものは基本的に何でも使う。
まあいいか、まだ未完成だが、新しい戦闘方法でいくとしよう。




