キッチン圧倒的な耐久力を与える必要はあるのだろうか
サーガはエルザを過小評価していたかもしれない。
いや、厳密に言うなら、サーガとユフィの二人で挑めば勝てると思っていた。
ユフィはすでに、何回もキッチンの扉を開けている。
……言い直そう。エルザの速さの前では、ユフィの実力は足りないのだ。何回も倒され、その二秒後にはキッチンの扉を開けている。最初は何かのマジックかと思った。ユフィが消滅し、エルザがサーガに対して戦闘体勢に入った瞬間、キッチンのドアが開くのだから。
「強いな……」
「ある意味、君のお姉さんが原因だね」
死後の世界を数秒間見たことによって、本来人間には出来なさそうな速度をイメージできたのだそうだ。あり得ない速度を持つ死人たちの動きを脳に焼き付けることができたらしい。
リアルでは無論不可能だろう。しかし、この世界はゲームだ。圧倒的なイメージによってアバターの限界を越えることも不可能ではないかもしれない。それができるように設定されている可能性もあるが。
しかし、死後の世界か。
サーガは基本的に現実的な思考なので、幽霊などの存在を全面的に信じることはないが、だからといって証明できないものを全否定もしない。少なくとも、死後の世界ってあるのかもしれない。
とも一瞬考えたが、すぐに思考放棄、幻覚でも見たのだろうと諦める。
まあ、死後の世界にしろ幻覚にしろ、見ることができる時点であのクッキーはただの兵器だ。
「しかし、強いな。リオがスカウトするだけのことはある」
「まあね」
サーガは弓を引きながらもエルザを狙おうと頑張っている。無限分割思考で七本の線が個別に向かうように操作できるのだが、なかなか当たらない。
すでにキッチンは多くのものが破壊されている。こういったものを担当するのはゼツヤだからあとでなにか言われそうだが、まあ今はいいだろう。
「しかし、キッチンにしては固くないか?壁」
「ああ、確かに」
調理器具にはさすがにそこまで耐久力はない。しかし、壁は凄まじいほど耐久力がある。耐久値無限のような気がしないわけでもない。
「うぅ、私さっきから空気です……」
ユフィのメンタルが相当ヤバイ感じになっている。確かに倒され過ぎたな……。
「ユフィ。そろそろ別の場所にいくといい。ここにいても分が悪いだろう」
「そうします。頑張ってくださ……」
言葉が最後まで続かなかった。
まあ、時速150メガメートルなのだ。気を抜いたら即終了である。
投げれる方もおかしいのだが、クラリスのクッキーがそれだけすごいということなのだろう。突っ込むだけ面倒だ。
「しかし、君にもなかなか近付けないな。無限分割思考。思った以上に厄介だ」
「慣れるまでは大変だがな。性能だけで言うなら姉さんの方が優れているし」
サーガはまだ意識してしか発動することができないし、行動する際に、数ある意見を纏めるための本格的な思考を用意する必要もある。クラリスは反射的に展開できるし、本格的な部分を用意しなくても不自然な部分は無いように動くこともできる。
「ひょっとして、君のお姉さんの料理がすさまじいのは、たくさんの料理の材料が一度に何種類も展開されているからなのでは?」
……可能性はあるな。
「というか、さっきのクッキー。サプリメントが入っていたよ」
「NWOにもあるんだな。サプリメント」
「毒状態になりにくくなるらしい。しかも、かなり長い時間効果が続くらしいから、毒の霧みたいな場所にいくときにかなり重宝するってリオさんが言ってた」
毒の霧に入る前にサプリメントを飲むとは流石NWOである。その価値観には脱帽できる。
あと、様々な材料を一度に投入すれば……不味くもなるだろう。調味料の量だってバラバラだろうし。
「なるほど、あの不味さの原因がわかった気がする」
「ちなみに食べたことはあるのかい?」
「そばにいた友人は『近くにAEDがあって助かった』と言っていたな」
「料理で心停止になったのかい?て言うか君。友達いるの?」
「友達くらいはいる。多いとも少ないとも言えないが」
「まあそれはいいかな。さて、再開しようか」
「ああ」
この二人がぶつかっているにしてはかなり激しい戦闘だったが、勝者はサーガであった。
奥のへやにあったクリスタルを破壊した。
残り9個。
「……多くね?」




