ユフィを一人にしてはいけない。あとクラリス作は食べないようにしよう。
早速始まった。
ルールは簡単。あらかじめ設定されたクリスタルを時間制限いないにすべて破壊すること。
その制限というのが問題なのは間違いない。
で、とにかく出発。
ユフィが走っていこうとするのをサーガが止める。
理由?迷子確率100%だからさ。
ユフィの図形記憶能力は壊滅的だ。クラリスの料理ほどランクは凄くないけど。
フジグランにはいると迷うのである。それもはじめてだとほぼ確実に。
という訳なのでサーガがついていくことになった。
近接職と遠距離職が揃っているので問題はないだろう。
以下、視点はサーガである。
思えばこういう役になるのははじめてだな。まあいいが。
「どこから攻めていくのがいいと思いますか?」
ユフィが聞いてくる。
「攻城戦において必要なことはそう多くはない。だが、相手がリオだからな。少なくとも、クリスタルのそばにいるだろう。ただ、他のメンバーが初期位置に着いていることが前提崩しになるとは思えないからな」
現在、どういう条件でリオの勝利が確定するのかは定かではない。
サーガとしては勝っても負けても問題ないが、それを言う状況ではないので考えている。
誰に遭遇するかは分からない。しかし、いちいち調べるのも面倒だ。
「あ、なにかいい香りがしますよ」
「僕にはなにも匂わないが……」
キッチンが近いのだろうか。
しばらく歩いていると、サーガの鼻にもいい香りが漂ってくる。
魚の鍋っぽい感じだな。
「どうしますか?」
「涎がたれているぞ……」
変に食欲をそそるな……作戦のうちなのか……単純に腹が減っているのか。多分後者だろう。
「ちょっと調べておきたいことがある」
「何ですか?」
「ちょっと待っていてくれ」
サーガは先にいって、部屋を開けてちょっとなかを除き混む。
エルザが料理中だった。
戦闘中に料理するってゼツヤみたいだな。まあそれはいいが。
あ、クッキーがある。
サーガは懐からクッキーを一枚だけ取り出す。
……ちなみにサーガ作ではない。
そのクッキーを投げて、クッキーがおかれているエリアに混ぜ混んだ。
丁度千切りをしまくっていたところなので気づかれなかった。
「もしかして……」
「さっきのクッキーや姉さんが作ったものだ」
クラリスはリアルでは地獄への片道切符を作れるが、ゲーム内では今一つ分からない。
作り始めたのが最近だからだ。しかも、料理スキルそのものの熟練度は上げているらしいので、それなりに味は補正されるはずなのだが、信用不可能。実験が必要である。
「あ、エルザさんが見ましたね」
エルザがクッキーをパクパク食べ始めた。
そして三枚目。問題のクッキーである。
手に持った瞬間なにかを感じたようだが、その不信感は勝負中と言う状況下で起こるなにかと判断したようで、軽くうなずいている。
食べた。
さあ、ゲームでは味はどうなのか。
まず、思いっきり吹き出した。
その後、身体中がなにか異物を取り込んだかのように痙攣し始める。
「う……うぅ」
声に出して苦しみ始めた。
そして、糸が切れた人形にように急にバタリと前のめりに倒れた。
「「……」」
二人は絶句していた。
ゲーム内でも変わらないようだ。
もしもこれが演技なら、エルザはリアルで毒を飲んだ被害者の役を完璧に演じることが出来るだろう。そう思わせるほどの破壊力だった。
いや、むしろリアルより増している気がする。
リアルの料理が『地獄への片道切符』ならゲーム内だと『地獄への強制直送』だ。
無論だが、HPに変化はない。
状態異常も発生しておらず、アバターそのものに変化はないようだ。
変な意味で完全犯罪物質だな。
近くで見た方がいいかと思って近づこうとした瞬間。
エルザは動き出した。
いや、厳密に表現するなら、誰かに動かされるかのように重力を無視して上体が何かに引き上げられるかのように持ち上がる。起き上がると表現できるものではない。
「これは……大丈夫なのですかね」
「これを見て本当に大丈夫と思ったのならユフィの目は飾りだな」
皮肉ではないだろう。多分事実だ。
エルザはフラフラとキッチンに向かって『スライドしていった』
人間と言えるのにはあまりにもいろんなものを越えすぎている。
確かにゲームなので、意思力とでも言うか、それによって不自然な動きが全く起こらないと言うわけでもない。
しかし、ゲームのシステムをすべて蹴り飛ばしたかのような動きは……非現実過ぎる。
そして包丁を手に取り……。
寸分の狂いもなく、サーガたちの方に投げてきた。
その速度、150メガメートル。
それを手首のスナップだけで放ってきた。
もし一緒にいるのがユフィではなかったとしたら、どちらかが、あるいは両方が貫かれているだろう。
ユフィの動体視力をもってしてもギリギリの速度だった。
間一髪でユフィがダガーを使って弾く。
「……」
エルザはなにも言わない。せめてなにかいってほしかった。
サーガは弓を構えながら近付く。
「エルザが最初の相手だな」
性格ゆえなのか、ポーカーフェイスは得意である。
「ああ、そのようだね。後ろにも誰かいるようだ」
「そうか、それで……」
「ああ、ちょっと忘れたいから触れないでくれるかい?」
「そうか、すまないな。野暮な質問だった」
「問題はかなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーりあったが、まあ今はそれをいっている場合ではない。全力で相手させてもらう」
「それもそうだな」
一体、どんな味だったのだろうか。
無限分割思考の過半数が、それを考えていた。




