過程をすっ飛ばして最終対決
「しかし、城ひとつを攻略するのに1ヶ月かかるとは思わなかったな……」
「そうだね」
「まったくだ」
「疲れましたよ」
「だが、ようやくだな」
ゼツヤ、ミズハ、バスター、ミラルド、クシルの五人は、巨大な扉の前にいた。
苦労したものだ。
モンスターの難易度なんてどうにでもなった。
問題なのは、罠とかギミックとかの話である。
複雑すぎたのだ。瓦礫としか思えない岩を積んで山を作るかのような気分だった。
「さて、行くか!」
全員でドアを開けた。
広い空間だった。
かなり奥に玉座がある。
そこに、巨人が座っていた。
やや竜的な印象のあるフォルムで、しかも色が白や金なので神々しいイメージがある。
「よく来た。隣世界の冒険者よ」
物凄く重々しい声だった。
「人語を話すモンスターか。珍しいな」
「ふむ、まあよい。余の名は『シグマ』だ」
シグマねぇ。数列の和数か。
「長い間待ち続けた。楽しませてもらうぞ」
「ま、勝たせてもらうためにここに来ているからな。存分に暴れてやるよ」
ゼツヤは剣を構え直す。
「行くぞ。オラシオン」
一気に突撃する。
次の瞬間、シグマはどこから取り出したのか、杖を構える。
「『レイズゲート』」
初耳。
って召喚魔法だった。
しかも、20個の新ダンジョンのボスを一斉召喚だと?
「ふはははは!貴様たちが挑んだ新ダンジョンはナンバリングされたものだ。その全てを統括する余は、その全てのボスを復活召喚できる」
復活召喚。聞いたことないし、そもそもプレイヤーが持つには意味のない魔法だ。モンスター専用だろう。
だがしかし。
「驚異でもなんでもないわ!」
蹴飛ばして進む。
「ゼツヤ君!シグマは任せたよ!」
ミズハが叫んだ。
「ああ、任せる」
「貴様、四人に20体を任せるつもりなのか?」
「そもそも五人相手に二十体出すお前にそんなことを言われなくない!」
「それもそうだな」
また杖を構える。
「『ホープレスナイト』」
絶望騎士ね。フォルムは普通の人間だけどうなだれている感じなのかな。
と予想していた。
なんかダンボールがたくさん出現して、その中からくすんだ色の鎧をきて、もう既に空になった酒の瓶を片手にもって、もう片方の手に剣を握っている騎士が出現した。
「『ホープレス』じゃなくて『ホームレス』だろ!」
「るせぇ!貴様のようなさえない男があんなかわいい彼女なんてできる方が不自然だろうが!どうせ弱みでも握ってんだろ!」
なんか逆ギレされた。
「うるさいのはこっちの台詞だ!俺は弱味なんぞ握ってねえよ!ミズハのハートを握りしめただけだ!この人生の敗北者共!!」
「同類項だな……あ、ミズハが赤面してる」
バスターが呟くように何かいっていた。
「貴様だけは絶対に許さん!この剣の錆びにしてくれる!」
「既に油でギトギトじゃねえか!」
変にテカっているぞ。
が、向こうの団結力は上昇したようで、よくわからないがいい連携で向かってきた。
まあそれでも騎士のステータスはそう高くはないので、平均して一撃で倒し続ける。
が、いくらなんでも多い。
「ちょっと多すぎるだろ!」
「それはさっきから余が唱え続けているからな」
「ホームレス多すぎるわ!」
「ホームレスじゃねぇ。ホープレスだ!」
「てめえらはそれでいいのかよ」
「良いわけねえだろこのリア充があああぁぁぁぁぁ!」
「いや、この部屋にいるリア充俺だけじゃねえだろ!」
「そこの大剣使いは納得できるんだよ!あれくらいよければ胸がでかい女とイチャイチャしててもちょっとイラッと来るだけだ。だが貴様は違う!」
バスターは変な心境だったが、既に三体終了していた。
まあ、今思っていることを端的に表現すると、『頭いたくなってきた』なのだがな。
「私が空気になっているように感じるのだが……」
「まあ、会長は登場回数も少ないですからね」
クシルは弱くはない。生徒会長として今まで忙しかったのでデュエルカップに参加していなかったが、ハイエスト・レベルのちょっと手前くらいの強さを持っているのだ。
ゼツヤやバスターと同じくらいNWOをやっているし、この世界に来る前にすでに100レベルになっているので、強いと言えば強いのである。
なお、リオが定義したハイエスト・レベルの条件は、『先天的、後天的に問わず、リアルでも使用でき、さらにVR世界における戦闘で活用できる独自スキルを所有していること』である。ほとんどのメンバーが先天的なのも事実なのだが。
「死にさらせぇ!」
「こっちの台詞だあ!」
いったいどんなMPをしているのだ。シグマよ。
中級くらいならフルパーティー(七人)で一人を倒せるような感じのステータスだ。明らかに多すぎである。
「明らかに多すぎる。いや、シャリオの方がもっと多そうだからこれ以上考えない方がいいか」
NWOは、『目の前で起きていること』は『可能なこと』なのだ。いちいち突っ込んでいたら寿命が縮む。
「ふむ、そろそろ別のものを出すか。『ブレイジングソウルベル』」
なんか物凄くすごい鐘が出現した。
と思ったら、ゴーン!という良い音が響いて、騎士たちの雰囲気に活力が戻る。
まあ、後ろにいるボスたちには影響はないらしい。
「うおおおおおお!リア充撲滅!」
「活力を取り戻して第一声がそれか……て言うかそれってバスターも標的になるんじゃ……」
まあそれなりにステータスは上がっていた。
ブレイジングソウル。直訳すると『沸き上がる闘志』だったか。そのなの通りだな。
で、何体かバスターの方にいくので『通してやった』
「いっぺん死ねこの大剣使いがああああ!」
バスターは自分の腹に大剣をぶっ刺してHPを散らしたあと、あらかじめかけておいた『オートリザレクション』によって復活する。
「一回死んだけど」
古いゲームジョークだ。
騎士たちの怒りゲージ(多分あるとおもう)が急上昇した……ように見える。
「よそ見すんじゃねえ!」
「いや、気にしてはいるよ」
二撃で倒す。
「なんか疲れてきた」
「私もだ。腹筋がな」
「コントをしていたつもりはないぞ」
「それはわかっている」
ボスっぽいイメージがすでに完全崩壊しているのだかな。
「さて、そろそろ決着だな。ボスは全部片付いたみたいだし」
四人が来た。
で、ゼツヤがしゃがむと、ミリオンレインが飛んできて、騎士を全て貫いた。
「さて、あとはお前一人になったな」
「フフフ。む、少々MPが無くなってきたな。あと残り一割しかない。だが、こう言うときのためにMPを回復できるアイテムを……いれていた袋が全て貫通されている……この女……」
ミズハがどや顔をしていた。
「小娘。余のMP回復剤の場所をどうやって特定した」
まあ、ミズハならその答えは決まっている。
「勘よ」
「理不尽だ……」
深く同情させてもらおう。というか、最初から『スペルバーストフィールド』をつかっていればこんなことにはならなかったな。ボスに効くのかどうかは不明なのだが。
「まあよい。武器で戦えば良いだけのこと。『アルテミオスオーガ』……出せたのは良いがMPが尽きたな」
大丈夫なのかこいつ。
しかし、これはまたきらびやかな剣だな。真っ白の刀身に七色の線がはしっている。
「まあ、関係ないか」
武器を構え直す。
オーバーライド 『万象斬』 発動
マリオネット・ストリング 起動
クアトロアーツ 展開
ハイエスト・レベルに達している三人が切り札を投入。
戦闘は、なかった。
虐殺は、まああったと言える。




