NPCだって色々考える。
ロイド。オラシオンの住むゼツヤのサポートNPCの一人である。
外見は、執事服を着て眼鏡をかけた老人。といったものだ。
さて、ゼツヤたちがこの世界に来てオラシオンに行けるようになったとき、ロイドには仕事がひとつ増えた。
簡単に言えば、主人であるゼツヤの起床のためである。
ゼツヤはこう見えて朝が弱い。リアルでは毎朝毎朝一般人の数倍の音量の目覚ましで起きている。
だが、この世界にも目覚ましがないわけではないが、必要音量まであげることができなかった。
ミズハも朝には弱い方で、寝癖にも普段から苦労するのだ。
そこでロイドの出番である。
NPCも色々考えている。執事らしい姿をしているロイドにとってはなかなかやりがいのある仕事である。
まあ、通常の数倍の音量が必要なゼツヤなので、軽く揺すって囁くくらいでは全然起きない。朝っぱらからなかなか骨のおれる作業なのだ。ゲーム内なので関係はないが。
「さて、もうそろそろ時間ですな」
ロイドは自室(ゼツヤのサポートNPC全員に与えられている。広い)からゼツヤの寝室に向かう。
ミズハと一緒に寝ているはずだ。
だが、今日はいつもとは違っていた。
ドアを開けると……、
「マスター。服がほしいのじゃ。起きてほしいのだがの」
少女が毛布を体に巻いてゼツヤを揺すっていた。
特徴。身長は少女と呼べる最大の身長だろう。髪は長くて黒い。青っぽいゼツヤとミズハが普通ではないように感じる。
あと、精神年齢は何歳なのだろうか。明らかに少女のしゃべり方ではないのだが。
「あなたは……」
「む。おんしはロイドじゃったの。わしは『オラシオン』じゃ」
工房の名前とおなじ。いや、攻防そのものの意思と言うことはないだろう。
壁に立て掛けてあったあの黒い長剣がなくなっているところを見ると……、
「剣が擬人化したのですか?」
「そのとおりじゃ。わし以外には不可能じゃがの」
「ふむ、なるほど、まあとにかく起こしましょう」
ロイドはゼツヤに近づく。
そして、ウィンドウを開いてメガホンを取り出す。
そして耳に当てた。
「そこまでするのかの」
「ええ」
ロイドは思いっきり息を吸い込んだ。
そして、叫ぶ。
「ヴ……」
ゼツヤが目覚めた。
ボーッとした感じ辺りを見渡したあと、ロイドを見る。
「……おはよう」
「おはようございます。ゼツヤ様。オラシオン様が擬人化されたようですよ」
ゼツヤがオラシオンを見る。
「……え?」
想定外だったようだ。
「わしは服が欲しいのじゃ」
「ああ、それじゃあこれ」
ゼツヤはウィンドウを操作して黒いワンピースを渡した。
「ふむ、なかなかいい肌触りじゃな。流石、我がマスターじゃの」
「擬人化なんてあったんだな」
「うむ。まあ細かい条件が色々あるんじゃがの」
「なるほど」
ゼツヤがミズハを起こして、食堂にいく。
ミズハは一瞬驚いたようだが、ゼツヤが作った剣だからと言う理由で納得したようだ。
入った瞬間。ソウヤが近づいてきた。
「ん?お、新しい少女仲間!」
「わしはオラシオンじゃ」
「……」
ソウヤは完璧にわかっていないな。
ゼツヤが全員に説明した。
「ふふん。まあそんなことはよいわ。腹が減ったのう……」
「どこかに座っていろ」
ゼツヤが厨房にいった。
「ロイド。マスターの料理は美味しいのかの」
「それはもう」
「そういうのは料理長が作るのではないか?」
「今更ですな」
「そういうものかの……」
ロイドからすれば、ゼツヤの代わりになにかをするのはかなり無謀である。
まあ、これがもしも生産しかできないのであればまだ頼られる状況も多かったのだが、本人がデュエルカップ一位である。なにも言えない。ちょっと自重してほしいポテンシャルだった。
「できたぞー」
ゼツヤの声が聞こえると、全員が器を上に向けた。いつのまにか座っていたロイドとミズハもそうする。
オラシオンも座って器を上に向けた。
次の瞬間、料理が器に飛んできた。誤字はない。
「すごいコントロールじゃのう」
「毎日驚かされます」
「ゼツヤ君は変なところでポテンシャルが高いからね」
まあ美味しいのは事実なので文句はない。
「美味しいのう。しかも人数も多い分さらにいい雰囲気じゃな」
「楽しいしね」
「まあそうじゃの」
何故だろうか。少々元気がないように感じる。
「オラシオン様。何か悩みごとでも?」
「嫉妬じゃよ」
なんか即答された。
「マスターが新しく産み出した剣『エレメントミラージュ』は、マスターにおける最大の武器じゃ。もとが工房武器である身から見れば少々悔しい部分があっての」
なるほど、ゼツヤの最終手段である『オーバーライド』は、前提を変える。その際に感情が急激に変更される。それを利用して千差万別の剣をうみだせるのだ。切り札になってしまっても仕方がないだろう。
「それはあなた自身が、自分についてもっと知るべきだとわたしは思います」
「そうじゃの。頑張ってみようぞ」
こうして仲間が増える。
歯車は、数が減ることはないのだ。




