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人をジャイアントスイング 意味、呂布の行い

三年。凡そ人間の成長において三年という月日は大きな変化をもたらす。ともすれば世の情勢でさえゆっくりとだが確かな変化が起きる。


二十歳になった良は久々に呂布と一騎打ちを行なっていた。防戦一方な訳で余りの力強さに老いてなお益々盛んってレベルじゃねーぞとか思いながら。


何せ余りの連撃の速さに遠い昔に聞いたエレキギターを耳元で掻き鳴らされている様な心地。鉄がぶつかり削りあう衝撃波と金切り声が、良の耳を通って脳髄の奥底まで反響する。


「ハッハッハ!ハーッハッハッハァ!!」


しかし狂笑の方がエグいかも知れない。なんかもう振動で鼓膜を殺しにきてる気がするとは書簡に囲まれた良が世間話としてよく呟く言葉である。


その狂笑と同時に振り下ろされた奉天画戟。


片腕だけで繰り出されていた頭上からの連撃が態とらしく1テンポ遅れて振り下ろされた。それは天下遍く全てを断ち切らんばかりの至高にして至強の剛撃。


思うでも、感じるでも無い。唯絶対的な確信をもって逸らす事も出来ぬと断じた。


「ゥオラァァアアアア!!!」


迫る画戟の刃に気合いと共に偃月刀を両手で持ち上げ、鉄芯入りの柄で防ぐ。


唯一本の腕で振り下ろされただけの刃を押し返せない。寧ろ両腕からギチギチと筋肉が悲鳴を上げ、ミシミシと骨が悲鳴を上げた。


呂布は養子の成長にニヤリと笑うと更に力を込めて笑う。


「ハッハッハ!ハーッハッハッハァ!!

井よ!三年間も開墾を任せたばかりに鈍っている様だな!!!」


嬉しそうである。三年前ならば今の様な一撃で良は一瞬で吹っ飛ばされていた。寧ろ態々、呂布が武器を止めねば死んでしまっていただろう。しかし良は二本の足で立ち、一騎打ちは終わらない。


呂布は其の成長が嬉しくて堪らない。


力が更に入る。


良の偃月刀が悲鳴をあげてやり過ぎてる感が凄いが、良も期待に応えるかのように力を込めた。


「開墾も、結構力いるぞぉらぁあああ!」


なんとも聞き取りにくい応答であるが、それと同時に自身の支える偃月刀を潜る様にして距離を詰める。呂布愛用の画戟は随分長い為、こうして馬に乗っていない状況で近づかれると不利にならざるおえないのだ。


良は呂布に目掛けてアッパーをかます。近接には持ち込めてもこの辺りで攻撃を受け止められる所だ。実際、良の全力で突き上げられた拳は顎にあたる直前で掴まれギリギリで止まっている。


しかし良は成長期。齢二十を超えた身体は昔より背も伸びて更に大きくなり、体重も筋肉量と共に増えていた。この状況であっても反撃出来ない訳では無くなっている。


「まだまだぁ!!」


良は掴まれた腕を回して離れさせると呂布の背に逆の手を回し抱え掴む。あとは凡そ背負い投げと同じだ。


大腰っぽい技で呂布を投げ飛ばそうとした。しかし大抵の相手なら地面に叩きつけられただろうが呂布には通じない。


良の背に乗ったまま体操選手の様に軽やかに地に手をつけ勢いを殺し、体を捻って拘束を解き更に一回転。良はその捻りで手を離してしまい、バランスを崩して屈みこんでしまった。


ガバリと起き上がった目の前には画戟の穂先。歳食って技が上達どころか力までも未だ成長する呂布。


「うっそだろ」


それしか言えない。


呂布との組手は何度やっても驚かされる。動きが人外じみていて参考にするのが難しいが、このレベルの相手に慣れておけば大体は何とかなる様な気がするのも確か。


人は人外には勝てない。まして化け物となれば論外。

何が言いたいかと言えば勿論、良の降参である。


呂布の高笑いと言うか馬鹿笑いと言うか。それが終わると良は土を払って立ち上がり、呂布の居城に着いてからの疑問を口にした。


「んで、なんか相談事?」


良が此処にいる名目は、三年という月日を費やした豫州を通る沙水以西の灌漑開墾の成功によって、莫大な収穫が見込める様になった祝いである。がその報告と褒美は終わり態々サシで其れこそ成廉さえ側に控えさせずに会うと言うのは異様に感じられたのだ。


高笑いをピタリと止め一瞬の間を置き呂布が真面目くさった顔で頷く。良は呂布が笑わないとか違和感ヤバイなどと思っていたがそう言う空気でもないので黙っていた。


「井よ。相談したい事がある」


呂布はそう言った。呂布が相談などとは、いよいよ持って何か重大な事が起きたのだろうと良は目を見開く。


「復帰し太常(宗廟とか礼儀管轄マン)に任ぜられた楊彪からの密書だ」


呂布はそう言うと絹の反物を良に突き出した。読み進めていくと内容は皇帝の保護要請。


しかし良はこの文の何が問題なのかが分からなかった。楊彪や朱儁の勢力が弱まり洛陽が荒れててヤバいから落ち着くまで豫州か兗州に避難させて欲しい旨が記されているだけだったからだ。


三国志では曹操が喜び勇んで皇帝を手中に納めて上手く立ち回っていたイメージが有り、さっさと助けに行けばいいじゃんと言うのが感想である。


「助けたげれば良いんじゃね?」


故にこう言うしか無い。


「洛陽が荒れてんのも義親父が行けば収まるだろうし、皇帝が居れば大義名分っつーの?そう言うのも手に入んだろうし行った方が良いんじゃない?」


良が言い終わると呂布は左右に首を振った。


「董承など眼中にない、大義のことも分かる。

井よ、俺が懸念しているのは袁紹などの諸勢力だ。奴等め、俺が皇帝を手元に置けば形振り構わず攻めてくるぞ」


「あぁ、成る程」


そうまで言われれば良とて理解出来る。曹操は皇帝を手中に収めた後に袁紹と官渡で戦っているし、その時に劉備や劉表が袁紹側で戦っていた。


此の目の前に立つ戦においてはある種の予知能力の様な勘を持つ義理の親父が言うのであれば大抵そうなるのだろう。


思えば劉備は実際に会った感想として利に聡い感じがしたし、三年前に劉備が孫策を受け入れて以来、揚州名士の突き上げも有り小競り合いが続いて余り仲は良くない。又、劉表とは小競り合いが続いていた。


袁紹は未だ遼東に掛かり切りであるが一段落ついて皇帝の所在が変われば、史実や演義の様に皇帝の為と言いながら攻めて来るだろう。


即ち全面に強大な袁紹軍を迎え撃ち、側面から劉孫連合が、背後に劉表と攻め込んでくる事に対して懸念しているのだろうと良は義父の懸念を予測した。


其れを考慮して少し考える。

まぁ、ぶっちゃけ自分が考えてる事を言った所で陳宮さんとか高順さんがマズイと思えば訂正してくれるだろうと。


「うーん。まぁ、大丈夫じゃない?

なんか袁紹は未だド田舎に行ってるって言うし、劉備は兗州や豫州に入れないように防衛するだけなら郭嘉が何とかするでしょ。劉表はこの前、魏続さんがボコったし何も出来無いんじゃない?」


「俺は袁紹を盟主として立つであろう連合の三方面戦闘が面倒なのだ」


「あぁー」


確かに聞いてみれば分かる話だ。董卓が皇帝を祭り上げた結果、反董卓連合が結成されたのを間近で見た呂布が其処を懸念しないわけが無い。


特にこの数年間の間に何度か袁紹からの密使を受けたらしき劉表が揚州にちょっかいをかけて来ていたのは事実だ。


この前も黄祖とか言うのが長江を降って来たので、魏続の所にいる劉曄の要請で良自ら南陽郡の新野一帯に出兵して後方を荒らし、撤退しようとした黄祖を魏続がボコボコにして戦果を得たばかり。


その流れで行けば涼州や益州も静観してるとは思えない。


更に言えば呂布の治める土地は兗州、豫州、揚州である。これは北に袁紹、南に劉表、東に劉備、西に涼州軍閥を迎えることになり、董卓の様に長安と言う格好の逃げ場が無いのだ。


それでも勝てないとは言わずに、面倒で済ませるあたりが呂布らしいが。


「うぅん…アレだ。

更に富国強兵を推し進めつつ皇帝を迎えに洛陽に速攻で入り込んで、周辺勢力に官爵でも渡せば時間稼ぎには何じゃねぇの?」


「良し、解った!

ハッハッハ!ハーッハッハッハァ!!


兗州、豫州の我が天敵(書類仕事)は任せた。では行ってくるぞ!!!


赤兎ォォオオオオ!!!」


何処からか駆けてきた赤兎馬に飛び乗る呂布。


「えっ?おっ!?ちょっおイィ!!?」


混乱をした良に届くのは西へ進む砂埃と笑い声だった。


傍若無人的な感じで人を振り回すと言う例えが有るが、その言い方をするのならば今回の場合、良はジャイアントスイングされた感じだろうか。


「えぇ・・・」


取り敢えず城に戻った良を迎えたのは不憫な者を哀れむ魏続と王階、秦宜禄に張遼と曹性、更には一緒に褒美を貰った袁兄弟。彼ら曰く、成廉と高順と陳宮は呂布に攫われ・・・付いて行ったそうだ。


大人組に良が意見を求められた理由を敢えて言うなら験担ぎだと言われた時は乾いた笑いしか浮かばなかった。





「という事が有ったのだ!」


ドヤ顔でことの顛末を語る呂布に真っ赤な楊彪は唯「えぇ・・・」と返す事しか出来なかった。漸く呂布の突飛な思考に追い付き浮かんだのが政務の引き継ぎとかどうするん?と言う物だ。・・・やっぱ混乱してるわ。


「・・・いや、しかし助かりました」


楊彪の目の前で壁に叩きつけられ・・・ドッゴォされてる人を見てそう言う。楊彪とて混乱しているのだ。その他の者が茫然自失極まるのも仕方ない。


楊彪と言うか有能な男が何故こんなにも混乱しているかと問われれば先ずこの場で起こった事を段階的に並べるべきだろう。


先ず最初に上げるべきは楊彪の送った密書である。偶々、其れを見つけた董承は呂布が洛陽に来ることを恐れて一計を案じた。


朝議と称して楊彪のみを呼び出す。


楊彪は他の者が呼ばれていない状況から身の危険を感じたし、派閥内の者や仲のいい者は行かぬ様に忠告したが、皇帝が呼んでいると言う建前を用意されていては断れる筈もない。


案の定、董承が皇帝の横に立って言ったのである。


「楊彪は外部の者と接触し陛下を害そうとしている。よって死刑」


控えていた衛士でさえ何言ってんのコイツと董承を見る。焦っているのはわかるがこれは無い。


なんか、もう唯のバカと言わざる終えないが、李傕郭汜から逃げる際に縋り付く部下や同僚の指を切り落とした小男が用意もクソそもなく謀略(笑)を張り巡らせればこんな感じである。


だが董承からすれば今しかないと言う思いで一杯だったのも事実。朱儁が病気で出仕していない間に何度も楊彪を消し損ねたというのも此のヤラカシ具合の酷さにも繋がっていた。


自身は皇帝の親族で、相手は逆賊の関係者。そんな状態でも手を下しきれない董承を笑うべきか、その状況にあって政争を潜り抜け続けた楊彪を褒めるべきか微妙なところではあるが。


なんども言うが暴挙である。だが董承の懸念も理解出来た。

楊彪の密書に恐れ慄き連想したのだ。張譲が董承、袁紹が楊彪、董卓が呂布といった具合に。


どう考えても越権行為で法と手続きを無視しているが、しかし楊彪が絶体絶命なのは事実。

既に周囲は董承麾下の将軍とその兵に囲まれ、そのうちの一兵が剣を振り上げた。


楊彪は血の滴る感覚を受け、同時に笑い声が耳を壊す。


「ハーッハッハッハッハッハァ!!!」


バカ登場である。


間違えた、呂布登場である。


黒装の鎧に鮮烈な迄に赤い外套。2代目赤兎馬はその毛並みの朱さと巨大さを増し、奉天画戟は正に天を奉じると言うより天を断たんばかりに輝いていた。


一振り。


周囲一帯が血に塗れ、ただでさえ高い宮殿の赤色の配色比率が増した。


赤兎馬が鬣を一振りし突風の様な鼻息を一つつくと呂布は皇帝に向かって軍礼し、呂布個人以外が唖然とする中で口開いた。


「ハッハッハ、ハーッハッハッハッハ!!

陛下!御日柄も良く、御機嫌麗しゅう。急時故、馬上から失礼致します!!

陛下の危機と聞き、呂奉先が急ぎ参上致しました!!!」


宮中に帯剣どころか騎乗して入り込んだバ・・・呂布に青ざめ腰を抜かす董承。


後はもう予想通り。一応、皇帝の親族なので取り敢えずドッゴォであった。


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