呂布、連合ヲ凹々ス
汚い内容があるので食事時にご覧になるのはオススメできません。
又、いつにも増して内容がアレです。函谷関が秦の物と前漢の物が有るとは知らず混乱したので、アレ?と思われるかもしれませんが勘弁してください。
こんな感じですが暇潰しにでも読んでってくれたら幸いです。
打撃音が響いた。
其れも皇帝の座する洛陽大評定の間で。
勿論、数本の柱が倒れ屋根は崩れ埃にまみれているとは言え文官武官もいるその場で。
無理に擬音で表すならドッゴォという音で。
もうアレである。
盛大なドッゴォである。
さもありなん呂布や張楊などの百戦錬磨の武官達の額には血管が浮きまくり、ドッゴォの音を腹から発する羽目になった董承は5メートル吹っ飛んで地面にドッゴォである。
此の董承。元は董卓配下というか董卓の娘婿牛輔に仕えていた部曲で呂布とも知り合いである。ただしというか此の有様から分かる様にクッソ険悪だが。
そして此の董承がドッゴォされたのには其れなりの訳がある。
なんと李傕と郭汜と和睦をしたのだという。いや、其れなろむしろ献帝を守るという意味では上々というか割と思い切った良い判断であっただろう。
実際は味方に伝えもせず偽りの和睦を行い騙し討ちをし逆に張済にボッコボコにされ三人だけで逃げ帰り、ブチギレて士気高興とした張・李・郭連合と残った者たちが穀城を中心にし点在する複数の城や関、砦で一進一退の攻防が展開されている。
その状況とは弘農を主戦場として函谷関を最終防衛ラインと考えていた呂布と張楊からしてみれば八倍ほど状況が悪い。其れを此の場に来たばかり帰って来たばかりの者達に董承が保身の為さっさと言っていなかった為にドッゴォされたのだ。
大広間で吹き飛ばされ伏していた董承がガバッと起き上がり憤怒の形相で呂布に怒鳴りつける。
「おのれぇ呂布!!
昔は貴様の方が位は上だったが今では私の方が高いのだぞ!!
何よりこの儂に斯様な事をしおって、儂は陛下の親…「伝令!!」族」
「伝令!!朱驃騎将軍が帰還して参りました」
「ひいっ!?」
伝令の言が終わった瞬間、入口から董承に向かう憤懣やるせない重圧を感じる。それに絶たれ呂布と伝令に怒鳴り散らそうとした董承だが悲鳴をあげる。ぶっちゃけ既に彼の味方はいないので戦時ではなく劉協に娘を献上(権力の欲しさに隙をついて押し付けた)していなければクビがポーンであっただろう。
気がつけば屈強で頑強で老練な岩石面にフッサフサ白眉が特徴的に過ぎるバッキバキに鍛えられた正に岩石ジジイがそんな彼を細くされど強い目で睨み据えている。呂布の記憶ではどことなく張楊に似ていて優しさが滲み出ているはずの此のジジイはブチギレているせいかトゲトゲしさが9割ほど増していて記憶の面影ゼロである。
血塗れの鎧を纏って手に大きな剣を握りしめている爺さんは獲物を逃さぬ獣の様に睨んでいた視線を切り替え、ジジイ感ゼロの勢いでガチャンと鎧の音と共に跪き剣を握ったまま皇帝に拱手。
劉協は此処四半月、殿として遠くで戦っていた彼が此処にいて何より穏和で礼儀正しい将軍のその様相に驚き声をかける。
「朱儁、直言を許す。一体全体どうしたと言うのだ」
「皇帝陛下!!お許し下さい。砦尽くを落とされ、その勢いと張済に横腹を突かれたことにより防衛線は崩壊、李傕郭汜を止められず新安城が落とされもうした!!
現在、穀城と函谷関で李傕郭汜の軍を何とか堰き止めておりますが、別働隊の張済が宣陽城に押し寄せております!!」
「解った。しかし何故将軍が此処にいる?
今現場を離れては取り返しのつかぬことになるのでは?」
「陛下、函谷関は二層の楼閣に三重の防壁が並んで有り左右は断崖絶壁、相応の兵さえあれば凡将が率いても万の軍勢相手に抑え込めます。其処に我が亡き戦友の子、堅と寿が防衛しておりますれば、まず破られることはありません。
しかし今、張済が董承を破った勢いそのまま数千の兵を連れ函谷関の裏の穀城や河内、ひいては此の洛陽を攻撃しようとしています。其れだけは何があっても防がねばなりませぬ。この老骨めが精兵五千で援軍に向かおうとしたのですが兵糧に乏しく此処に参りました。
陛下、どうか函谷関、穀城に籠る二万の兵と別働隊の我らの五千の兵に兵糧をお分け頂きたい!!」
「兵…糧か…」
さて、まぁ此の後漢末と言うのは大体の場所で食い物がない。特に洛陽から長安までの道は李傕郭汜のお陰で言葉にできる様な状況ではない。故に呂布の持ってきてくれた兵糧と少ししかない。色々な思いで朱儁に兵糧を渡したいがそもそも其の兵糧が無いのだ。
「なれば此の董承が兵糧を民から徴しゅ…」ドッゴォ。
見かねた上で恩を売れると思い至った呂布が笑いながら戯言をほざこうとしたアホをドッゴォしつつ声を張り注目を集める。
「ハッハッハ!!
朱驃騎将軍殿お久しぶりにございます。横からすまんが提案が有る。」
「?…!!!
おぉ、呂布か!よく来てくれた。董卓を誅滅した時の様に天下の為に画戟を振るってくれるのかの!!」
さしもの朱儁将軍も焦りと怒りで視界が狭まっていた様である。ドでかい呂布に今気づいた。
「ふむ、其れは張済殿には振るえませんな。
しかし李傕郭汜には振るおう。続よ!」
「ハハっ!」
「確か張済殿の甥の張粛とはよく酒を酌み交わしていたな」
「…まぁな」
「説得、出来るかの?」
「朱将軍。張粛の野郎は此の魏続の友だ、面倒だが説き伏せてみせる。ダメでも時間は稼げるだろう」
「ハッハッハ!ついでに俺も一筆書いておこう!!此れで張済殿とは争わずに済むぞ!!
さて、陛下。李傕郭汜の部下達の咎をお許し願いたい」
「其れはどういう事か?」
「陛下、老骨が考えますにおそらくは離間計かと。
しかし…今か?出来ぬことは無いだろうがその効果はたかが知れていると思うが?」
「いや、朱驃騎将軍殿。
張楊に現状は聞いている。張済殿がおらんとなればヤツらの仲はこじれきっているだろう、特に李傕は臆病者だからな。部下とでは無く其れを発端として李傕郭汜が争うぞ。
そして私のひと暴れの後にヤツらの部下を剛柔織り交ぜ降伏させる。
李傕郭汜の兵力の柱は涼州兵。彼らは土地柄、より強い者を慕う。此の俺が一度、騎兵を操り打って出れば半数は降伏させられる」
「…フム」
「如何だろうか朱儁?」
「陛下。此の老骨めは許可を出してもよろしいかと考えます」
「ハッハッハ、まぁ此の呂奉先にお任せください」
その言葉を最後に一礼し陽気に其れこそ散歩に行くように評定の間を抜け自軍の元へ向かう呂布だった。
夕刻、函谷関攻略の最前戦の城新安城。
此の谷間に作られた小さくボロボロな城の軍議を行う為の評定の間で喧騒が止まることを知らない。
一刻程前。未だ太陽が空をのんびりと散歩していた頃に其れは起こった。
李傕郭汜、その将兵たちが早めの夕食を楽しみ大半が気を抜いているような中で勤勉に城壁警護を行なっている衛兵の眼下に屈強な軍馬に跨る男が銅鑼にも劣らぬ声で市中に響かせこう言った。
「李傕郭汜は逆賊である。其れに付き従った者は情状酌量の余地ありとして特赦す。日が沈む前にそれぞれの首を城門に掲げるべし」
その程度で何を喚くことがあるのかと問われれば単純にして明快、何故皇帝は此処まで強気になるのかがわからないからだ。
前提に己らの兵力が皇帝の其れを倍近く圧倒している上、ほんの少し前までは皇帝とは彼等にとって唯の権威を得る為の道具でしかなかったのだ。彼等にしてみれば正に飼い犬に噛まれハラワタが煮え繰り返るといった心象とともに不信と不安を呼ぶ。
ハラワタが煮え繰り返る。此れは説明の中で理解できているだろう。だが何故に不信と不安が浮かぶかと言う説明もしなければ前提の説明は終われない。
不信と不安を抱く理由。さらに言えば李傕郭汜が献帝に逃げられた理由。
其れは郭汜がウ○コ汁を飲んだからだ。
・・・省き過ぎた。
李傕郭汜は途轍もなく仲が良く、皇帝を手中に収めてからというもの民から搾取する一方で宴を開いては酒を酌み交わしていた。
しかし李傕が郭汜の古くからの尊敬できる人物であった樊稠を謀殺し二人の仲に小さな亀裂が入り此のままではいけないと李傕が宴を主催し郭汜は招待され、李傕が食膳を馳走し郭汜がその中の丸められた薬味を食べようとした際に郭汜の妻が其れを取り上げた。最初は何をすると怒ろうとしたが泣きながら妻はこう言う。
「一つの巣に二匹の雄鳥は並べません。あなたが李将軍の事を信頼している事を常々不安に思っていました」
その時は有無を言わせず妻を叱りつけ昔のようにデロデロに酔うまで李傕と飲み明かした。
翌日、腹に激痛が走る。
のたうち回るも吐くに吐けずふと気づく。
「李傕に毒を盛られたのでは!?」
そう思うと郭汜は入り込んでしまっているであろう毒を急ぎ吐く為に糞を絞って汁を作り其れを飲んでゲロると腹痛は無くなった。いよいよ持って殺されかけたと気づき、急ぎ塞ぎ込む妻の元に戻り話を聞けば膳を運んだ従者が怪しげな行動をしていたのを見たという。
これ以来二人の中は急激に悪化しついに刃を交える事となる。そのドサクサに紛れて死にかけの老いぼれ供に謀られてしまい献帝が長安から脱出。唯一、李傕郭汜の両名に顔が立ち献帝を逃したことの意味に気づいた張済が和解とまではいかずとも何とかゴリ押しで協力させ此処まで来た。
しかし、涼州出身の騎兵主体の軍で三重防壁の函谷関を抜く事は困難な為に別働隊を動かす事になり、李傕郭汜は互いを信用できず董承をボコボコにする為一時離れていた張済が大回りで裏を取りに行く事になったのだ。
少数精鋭を選抜した張済の軍が大回りで宣陽城を落とし函谷関の背後の一帯を荒らし周り錯乱させる掎角の計。要するに挟み撃ちにする策である。
その策を達成させる為に張済が進軍し城を落とす間、定期的に函谷関にちょっかいをかけては引くと言うのを繰り返し此処で待っていたのだ。
ここまでが前提である。
で無駄に長々と語った前提の要約。
李傕郭汜はブチ殺レベルの仲違い、仲裁者は今おらず、そんな中での逆賊認定。
こんな感じである。
よく喚く部下達を見ながら李傕は考える。皇帝が急に態度をデカくした理由を。
そして此方を睨みつける郭汜に気づきストンと思い当たった。
『郭汜が俺の首をダシに降伏するからでは無いか?』
急激に自分の事を恨み出した脳筋糞馬鹿カス野郎の郭汜だが、李傕にとって郭汜の個人的な武勇はヤバイ。何せ献帝の取り合いになった際に数千の兵で足止めの為に郭汜を囲んだら精々二、三百の兵で突破されたのだ。
自分は後方指揮官向きで亡き華雄や郭汜の様な武勇特化の前線指揮官では無く又クソの呂布や胡軫の様な武に優れながらも指揮も取れる様なこともなく、樊稠、まして亡き徐栄殿の様に取り敢えず戦なら斬り込みから指揮まで何でもこなせるかと言われれば無理、無論、神である董公の様な文武万能さは持っていない。
まぁ単刀直入、武と言うものにおいて元董卓軍の中ではからっきしなのが李傕である。
『…郭汜の提案を受け屋敷を並べたが俺を殺す為だったのか!!?
そうとなれば…』
「郭汜よ。どう思う?」
「李傕よ。何がだ?」
「貧弱な皇帝がああも強気に出るのは何故か?俺には皆目見当がつかん。
張楊よりも強い援軍でも得たのだろうか?
兵糧やその他諸々を鑑みて援軍に来れるのは袁紹か?…あり得まい。今、皇帝の側には袁術の妹婿のジジイがいる。奴らの兄弟仲の悪さと来たら話にならん。
まして公孫瓚との決戦中だ。
なれば曹操か?これも又あり得ん。奴は今、憎き呂布と争っていてそれどころではあるまいよ。洛陽に軍を進ませるほどの兵糧が足らぬ。
なぁ、郭汜よ。どう思う?」
「…何が言いたいのだ李傕。
グチャグチャと戯言を述べるよりもハッキリと言え」
「あぁ、あぁ。そうだな簡潔に言おう。
この李傕の部下。または郭汜、貴様の部下そのどちらかに裏切り者がいるのでは無いか?」
響く衝撃。
郭汜の握りこぶしによって二人の間に設置されていた大きく重厚な長机にその拳を中心とした丸いヒビが入り両人の手元にあった杯が倒れ床に酒を啜らせる。
「李傕っ!いい加減にせい!!
貴様の慎重さには随分と助けられて来たが今の貴様の其れは唯の猜疑心だ!!!
樊稠殿を殺し挙句、此の俺まで毒殺しようとしおって!!!!
張済殿の言う現状を理解せよ!!!!!」
「猜疑心??!猜疑心と言ったか!!
其れは貴様こそであろうがっ!!
俺は膳に毒など入れておらんわっ!!!」
「ほざくなっ!樊稠殿を殺した貴様が…。
・・・もう良い、論ずる価値も無い。貴様が事ここに至って尚、私に疑念と殺意を抱いているのはわかった。ましてその目。
張済殿の顔を立てて軍を引く事はせんが不快だ。陣を移す」
その言葉と暗くなり出した部屋の元で眼光を最後に陣所の移動を開始する為に退出する郭汜。
李傕二万が新安城に篭り、郭汜一万が黽池城に向かい、張済の残兵七千が後詰と言う形で張済の本拠でもある陝城に入る事になる。
ーーーーーーーーーー←弘農|河南尹→ー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ー陝ーー黽池ー新安ー函谷関ー穀ーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーー洛陽
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーー河南ー
ーーーーーーーー宣陽城ーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「やはりな…。黽池城は新安から撤退する我らを殺せる位置の城だ。
・・・!もしや俺が函谷関に進めば背後より襲い、動かなければ糧を断ち強制的に引かせ黽池に引きつけ函谷関から打って出た敵に新安を取らせる気か?
ハハハッ郭汜の阿呆め!!
此のように断崖に囲まれた狭い土地で兵数に勝る俺が貴様に負けるものか…どうせ奴は先頭に立ち軍を前進させるしか脳が無いのだ。今打って出れば此方が百の兵を犠牲に打ち取れる」
「叔父上。独り言が聞くに耐えませんが我らは如何しましょうか?」
「おぉ李暹、我が甥は相変わらず毒舌だな。
そうだな張済殿が宣陽城を落とし函谷関に攻め寄せた時にこそ郭汜は我らを襲うだろう。
そうなる前に郭汜を殺す。其れも今日だ。
暹よ、お前と利には前軍を任せようと思っている。胡封は我が副将とし、子の式に此の此処新安を守らせる」
「承りました叔父上。張済殿に郭汜の動きを知らせておきますか?」
「おお!!暹は細かいところによく気付く。
知らせておけ。おそらくは仲違いしたと考えるやもしれんが軍が移動している事に気づけば張済殿も俺の言葉を信じよう」
「ハハッ。お褒めに預かり恐悦至極。
其れでは伝令の準備をして参ります」
「父上。私の食客に目耳の良いものがおりますので郭汜を見張らせようと思うのですが如何でしょう」
「式よ、心意気や注意深さは良いがやめておけ。
郭汜が我等を裏切っている事は明白。なればお前が多くの財を使って集めた食客が無為に殺されるわ。
お前が此の俺の後を継いだ時にこそ其のもの達を使うのだ。
其れより郭汜が城を出次第すぐに後を追い郭汜を殺す。城の警邏を頼むぞ」
「ハハッ!!」
絶壁。其れ以外の表現などしようのない。左右の岩に視線を沿わせそのまま天を望めば曇天に暗やみ星さえ見えず、今にも漆黒が空より落ちてきそうだ。此の黒に紛れる為に兵達の手の篝火は消され黙々と歩を進める。
大蛇の如く長大な此の群れの頭は酷薄な笑みを浮かべ遠く遠く狭い道先の背中を幻視する。
巫女に董公にお伺いをさせ祈祷と戦勝祈願をさせた。迷う事は無い、もうそろそろだ。
「大きな背に相応の体躯。昨日のことのように覚えている。未だ牛輔が分不相応に神、董公の御令嬢を娶る前、初めて会った郭汜の重厚で貪濃な血の匂いに俺は腰を抜かした。
俺の副将として郭汜が配属されてからは奴が先陣を切って大斧を振るい俺が軍配を振るえば倒せぬ敵など無かった。
名将と呼ばれた朱儁のジジイを共にぶっ潰してからは無二の友となり、王允のクソを縊り殺してからは家族よりも大事にしていたと言うのに…」
「義兄上!」
李傕の独り言を大声で断ち切り未だ若さを感じさせる顔立ちの大男が馬の腹を蹴り駆け寄って来る。
長い戈を背負った彼は胡封という名で李傕の妹婿である。
「…声がデカイわ。バカ者」
「も、申し訳ありません」
「どうしたのだ胡封」
「何故私の部隊を先陣に加えて頂けなかったのか。其れどころか遊軍でさえなく最後尾に配置された意味をどうしても聞きたく思いまして」
「…お前は騎都尉だ。精鋭鉄騎兵で広大な戦場を駆け悠々と敵を惨殺すべき騎都尉だ。
こんな押しつぶされそうな細道で貴重な戦力たるお前達が前面に出る事など許せるものか」
「!」
「確かに貴様の鉄騎兵を前面に出せば郭汜の喉元迄は進ませれよう。しかし貴様の部隊は疲弊しきった所で郭汜の周辺に侍る最精鋭と殺し合うことになる。
迂回させ敵の背後を突かせぬのは夜半と此の道故だ。お前達が騎馬の扱いに長けているのはわかるが此の夜道を騎馬で走らせるのは阿呆か英雄かだ。
そして新安城と李式にもしもの事があったら一番に戻ってもらわねばならん。
と言うか夜襲をかけようとしているのに其の準備に時間がかかり足音のうるさい騎馬をおいそれと出せるかバカ者」
「も、申し訳ありませ・・・ん…?」
「どうしたのだ胡封、其のように剣呑な…」
「義兄上。後方が騒がしい故、様子を見て参ります」
そういって手綱を引き馬首を返そうとした胡封は肩を強く掴まれる。今、騎乗しているのは義兄と己のみ。何事かと見やれば其処には全身を強張らせ怯え震える彼の義兄。
「どう…されました?」
「…もう遅い。
気を抜くなァッ武器を持てぇい!!!」
急激に気炎を吐いて武器を握る李傕。しかし身体は震え鎧がカチャカチャと雑音を発している。
李封は理解及ばぬまま背中にゾワリとしたものを感じ長槍を従者から受け取り馬首を返す。
谷間を巡り反響する嘲笑い。
ビクリと肩を震わせ明確に感じた恐怖。遠く来た道を固唾を飲んで注視すればポツリと揺らめく篝火。
一瞬浮かぶ誰かが命令を無視したのかと有り得ない空想。
気がつけば赫灼と松明が広がり雑音を搔き消す悲鳴、悲鳴、悲鳴。
胡封の視界、黒が紅く染まる。
其れは赤かった、赤く紅く赫い巨馬。
其れは紅かった、赤く紅く赫い巨人。
其れは一騎の赫い絶望だった。
矢よりも早い巨馬。人馬を其の巨大な馬体で紙切れの様に吹き飛ばし踏み潰し轟々と駆ける。
手首のみの力で画戟を振り回す巨人。嘲笑いを血染めの顔に浮かべ呼吸をするより簡単そうに人の命を刈り取っていく。
其の暴虐、人馬一体。油を走る業火の如く迫り来る。
目の前の部下達の身体が舞い上がった。
血風。
気が付けば宙を舞う様な感覚に首は動かず視界がコロコロと変わる。
呂の一字が記された旗を見上げ、屈強な騎兵達を上から覗き、反転した世界で義理の父が両断された。




