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圧倒的脳筋と脳筋

何時もは練兵が行われている訓練場で、耳を割くような銅鑼の音が鳴る。

平時ならこの銅鑼の音とともに隊を動かし陣を構える訓練だったり、個人の武勇を高めるなど戦に必要な修練が始まる。だが今この練兵場では訓練など始まらない。。


何時もならば馬を駆け、馬上槍や騎射の行われる場所には天幕が張られ、偉そうなジジイやオッサン共が居り、弩や弓の訓練を行う場所には柵が張られ民衆や兵士がいる。

そして歩兵の陣形・槍術の訓練を行う場所には、ただ二人の男が武器を持ち向き合っている。

まぁ、圧倒的脳筋呂布と脳筋良だ。


武器を持った男の片方。

陳宮が集まっている人々に何かを話しているのを聞き流しながら、良は呆然としつつ思う。否、言う。


「・・・何でこうなった。」


そもそも、良が呂布の養子になる交換条件として提示したステゴロと言うのは、負けた悔しさからだ。

いくら不意を突かれたとは言えアレはどうしようもない。さらに言えば戦う中でフェイントや奇襲は当たり前のことで、そんな事は良も分かっている。

だが同時に理解しつつも、その奇襲と言うのがメッッッッチャクチャ悔しいのである。なぁんか納得できないのである。

あの奇襲が無かったとしても負けるだろう。それでも・・・いや、だからこそ悔しいのだ。

其れこそ目を覚ましてから陳宮に話を聞き、選択肢がほぼないに関わらず了承するまで時間がかかった理由の3割はその悔しさからだ。


まぁ、言ってしまえば正面からちゃんと負けて踏ん切りをつけたいのである。


ただ、良が出した条件というのはステゴロ。拳の勝負である。

互いの怪我のことを考えて提案したことだったがそれについては、髭を持ち上げハの字がLを横に倒したようにるほどのニヤけ・・・ドヤ顔で説明してきた。


「フム、ステゴロと言うと素手での勝負。しかし、せっかくですのでこの一騎打ち、少しでも利のあるものといたしましょう。」


ついついーーー


「利って何すんの?」


「ハイ、良羽殿の希望とは少し違えますが、良羽殿に名声を得ていただこうかと。

何、簡単な事。大々的に民衆・兵士を集め、武器をお使いいただき呂布殿と良羽殿の一騎打ちを行います。

あぁ、勿論デキ試合などするつもりは、ありませぬよ。」


ついーーー


名声、番長やヤンキーで言うメンツと言うものが近いだろうか。

これについて良は割と早く理解できた。

良がまだ中学に入ったばかりの頃、その風貌(細目の為睨んでる様に見えたらしい。)からよく先輩ヤンキーに絡まれていた。

だが、一度良がブチ切れて一つの勢力、約20ほどの者達を一人でタコ殴りボッコボコにしてからはそれがなくなった。

また、自称舎弟バカどもの喧嘩の仲裁においてもそれが役立った記憶がある。

まぁ、暴走族に勧誘されたりとか鬱陶しい事もあったが要は力が物を言う様な世界での有用性が高い事を良自身が知っているのだ。


そして何故、民衆などの前でかと言えばついこの前負けたとは言え呂布の武名は高い。むしろイナゴがなければ勝てたと思っている民が多く実物を見ていないためか、噂が噂を呼びこと民衆からは正しく武神のような強さを持っていると思われている。

そんな彼らの前で、呂布と戦えば評判になるだろうという陳宮の考えである。


さて、長々と良の要望と違う理由は述べた。勿論のことそれらは了承している。

なら何故、良が疑問を口にしたかと言えば、民衆・兵はわかるのだがいかにも偉そうなジジイやら、名前を聞き忘れたが一騎打ちをした兄さん。

果ては高順や成廉など兎にも角にもあからさまな富裕層っぽいのや呂布の配下っぽいのがずらぁっと並んでいるのだ。


「こう、何だろう?思ってたのと違ぇ…。」


自分の覚悟を決める目的だったのだが、それとは別の意図が混ざっている様な気がしなくもない良。


「そう言えば話まとまってから結構日を要した気がする。」


顎に手を添え首を傾げ、しばし考え込む良。


「・・・アレ?むしろコレ俺の目的サブになってねぇ?」


ようやく考えに至った様である。と言っても無論そんな事はないが。


「・・・という訳である!!

さぁ、一騎打ち始めぇ!!!!」


そして良が思いついた瞬間、話の終わった陳宮が、髭をピンとつまみながら試合開始の合図を宣言する。


ジャンジャンジャーーン


銅鑼が鳴る。


中途半端に考え事をしていた良は音により思考の中から引きずり戻される。


と同時に悪寒。


ガッキィィン


「アレ?アンタ結構離れてたよな。

機動力高すぎじゃね?」


気がつけば10mは離れた呂布が獰猛な顔で画戟を振り下ろしていた。

そういや最初襲われた時も、いつ馬から降りたか分かんなかった事を思い出しながら

もう一度、呂布の振り下ろした奉天画戟をすんでのところで偃月刀の刃で防ぐ。


画戟の接している偃月刀の刃の部分は刃こぼれを起こし今にも押しつぶされそうだ。


「ハッハッハ、ハーッハッハッハ。

井よ、父上様と呼べぃ。・・・む、父様も捨てがたし。」


『井って・・・あぁそう名乗ったけ。』


一瞬、井って誰だよと自分で名乗ったくせして忘れたが速攻思い出して返答する。


「いや、無理あるっーつの!!」


返答と同時に画戟を跳ね除け、一閃。

呂布は、その一撃を弾かれた勢いのまま後退し良のど真ん中に向かって突きを放つ。

半身になって避けた良に柄を握られそうになったところを突きを停止させ、そこから良の腹目掛けて薙ぎはらう。

良は、急な力の方向転換に驚いたものの先ほどの呂布の様にされど大きく後退することでそれを避けた。

呂布は追撃を行わず良の方に顔を向けたまま少し下がり、良との間に7歩ほどの距離が開く。


「ハッハッハ、ハーッハッハハ。

いい準備運動だァ!!であろう?」


「いや、勘弁しろや。今ので二、三度死ぬかと思ったわ。」


「ハッハッハ。なれば、戦いの始まる前に惚けるな。

良いな井よ。」


思いつきのクセしやがってもう、呂布は親の気満々である。

一方、良もまたそんな呂布を呆れつつも何処か憎めずにいた。

つーか、恐らくは又もや脳筋同士の意味不明な意思疎通だろう。




数秒の静寂。




ダンッ



互いの踏み込みが重なった後、訓練場には激しい金属同士の接触音が何度も響く。

良は苦しそうに、呂布は悠々と武器を振る。

だがその様は、神に祈りを捧げる武の舞の如く。


その音が、十数回ほど鳴り響いただろうか。

流れを変えんと良が偃月刀で突きを入れれば、画戟で跳ね除け切りかかる。呂布の圧倒的なそれに対し一歩踏み出しながら、除けられた偃月刀が縦になった状態で偃月刀を持っていた右手の力を抜き、重力によって石突きを地面に打ち付け足で押さえ柄同士をぶつけて防御する。

無茶な止め方に驚いたのだろう一瞬、呂布が動きを止めている。押さえに使った足を軸に、呂布の顔面に蹴りを入れる。


「・・・だから、何でそんなことできんの?」


もう賞賛と呆れを足して、いじけ気味に言う良。

自分の足を見てみれば、この前の様に顔の寸前で足首を片手で掴まれていた。

いくら無茶な止め方をし無茶な体勢からはなったとはいえこれではきつい。主に気分的に。


「ハッハッハ。この俺が、己がガキになる者に負けられるか。」


その言葉と同時に、良は軸足を払われ宙を舞うような感覚。受け身を取りながら良は思う。


『・・・瞬発力・・・高すぎ。』


受け身で幾分にか抑えられた衝撃を受け、首筋に何かが当たっていることに気づく。

呂布の画戟だ。


「こりゃぁ負けたわ。清々しいほどに。」


呂布が、ゆっくりと数歩離れて振り返り大声で言う。


「小僧!気に入った!!

我が子となれぇい!!!」


多分、此れは演技だろう。

ここにいる者全員に対して、コイツ俺のガキだから手ェ出したら殺す的な宣伝の意味をふくめて。


「んじゃ、よろしく義親父。」


ガッツリ負けて満足いったのだろう。大の字でニヤリと笑いなが言う良。


「ハッハッハ。おう、我が子よ。」


さらに同じ様な顔で腕を組みながら、ニヤリと笑う呂布。

血のつながりはないが、すでに親子っぽい二人だった。


所変わって、偉そうなジジイ共のいる席もとい呂布が世話になった礼として呼ばれた地元の名士達の歓談席。


「呂布の元に若き武・・・フーーム。

これは早々、玄徳様に。」


そう白い顎髭を擦りながら呟く男がいた。

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