ついーーーが無くなる時
頭上より日が差す訓練場に二人の男が倒れている。
いや、その片方は倒れていると言うのはおかしいだろう。
一人は無言でまさしく倒れ伏しており、がたいが良く、若い。
一人はギャーギャー喚きながら片腕を振っており、腕を伸ばして転がり回る。そして、その体躯はただただ巨大である。
その周りには馬に騎乗した軽装の兵と、異様なまでに屈強な体躯をした赤味がかった毛色の馬が白けた目で喚いている男を見ていた。
「ウーム。・・・屋敷に帰りたい。」
ついーーー
その光景を見た陳宮は頭痛がしていた。
「陳宮!!」
髭をいじくりながら何故よりによってこんな所に息抜きに来てしまったのか自問自答していた陳宮が、ゴロゴロしている方のデカイのに呼ばれる。
「何でございましょう呂布殿?」
ついーーー
*呂布 奉先(りょふ ほうせん)
飛将。
三国志演義・・・単騎戦最強、但し女に弱く部下に見限られゴリラ。
三国志史実・・・なんかほんのり項羽っぽい。
丁原の元から董卓の養子になり、そこから董卓を殺しちゃう感じの人。
その後も、献帝、袁術、袁紹、超楊など上司や同盟関係がコロコロ変わって独立勢力になるっていうヤバさ。
但し、史実の方では演義と違って部下想いな一言を残して曹操に投降している。
人中に呂布あり、馬中に赤兎ありで有名。
曹操が呂布を殺すとか呂布が貂蝉と戯れるなんて諺がある。
因みにでは有るけど、史実では丁原は人となり粗略だったり会計係にされてたり前歴不明だったり呂布の周りで意外な所がある。
「取ってくれ。」
そう言って腕を見せてくる呂布。
そこには、ある物・・・否、獣が噛み付いていた。
「グルゥルルル」
唸り声をあげながら。
「ハァ、何故こうなったのです?
否、答えずとも良いです。良殿にちょっかいでもかけましな。
否、気絶しているところを鑑みればその程度で済むかどうか。」
ついーーー
そもそも獣もとい白が噛み付いているのは遠くから見えていたのだ。そして、自分の主の子供のように調子にのる悪癖を思えば、倒れた良とともに何となく察しはつく。
馬に乗っていた兵達が、良を運んでいるのを見ながら、陳宮は言う。
「白殿、申し訳ありませんでしたな。キツく言っておきますので。」
「グゥウウ。」
陳宮自身、何故獣に話しかけたのだろうと思いつつ肉球をニキュニキュしてみれば、仕方ねーなとばかりに呂布の腕を離し良の元に行く白。
「あー痛かった。なかなか痛かった。」
呂布の腕には歯型がついている。
「さて、呂布殿。高将軍にまたお叱りを受けますぞ?」
「ぬっ・・・。」
少し血の気がなくなる呂布。遠回しに、高順にも叱って貰いましょうかと陳宮が言っているのを理解したためだ。
「ハァー。何度も申すようですが、貴方は定期的に慢心と愚行が過ぎます。
戦での不用意な突出から始まり、劉備への救援要請の時も、助けてもらう側だというのにお前は私の弟だとか劉備の本当の義兄弟に対してなんかお前嫌いだなどと仰いましたり・・・愚の骨頂。」
「ヌ、ヌゥ。」
「そしてこの伸びておる方は、例の推挙した良殿です。
武勇の才ある若人。又、人柄も中々。
戦の才も片鱗が覗けますれば。
私達は各地を転戦しておりました、次代に残すべき子供らがまだおらず。若い世代の将も少ない。
呂布様や将軍方といえど歳をとれば体は動かなくなりましょう。そしてそれは呂布軍の長所が消えたこととなります。
彼は、そのつなぎとなり得るかと。
・・・さて、推挙時に言った事は思い出しましたな。
なんとか彼を誘導し、登用か自発的に仕官させようと私が必死になっていたのですが・・・。
貴方の第一印象は最悪でしょうな。大丈夫ですかな?」
「す、すまぬ。
だが、武人として・・・スマヌ。」
陳宮、目は吊りあがり、顔は真っ赤だ。
あえて言おう目は口ほどに物を言う。
というか既に、ヒゲをいじることさえしない。
「・・・あ、良いことを思いついた。」
タジタジだった呂布だが、名案を思いついたと顔を綻ばせる。
・・・っつーか喜色満面である。
そして、その笑顔の前に陳宮は冷や汗が流れる。兗州での戦いの時にイナゴの来る前に感じた不吉な予感と全く同じ感覚であった。
「ハッハッハッハ、ハーーーハっハッハッ!!
先生驚くぞ?と言うか驚いてくれ。
私は、此奴を養子にする!!」
ドヤァ…。そんな顔で先生という言葉を強調しながら声高らかに宣言する呂布。
さらに言えば、ただのドヤ顔ではない。
名案思いついた。褒めろ・・・ドヤァである。
『あぁ呂布殿。自分が何をしたかもうお忘れか・・・。』
もちろん陳宮、褒めるわけはなくただただ無言。
まぁ、心の中で突っ込んではいたが。




