第3話 なんだ、この娘?
「……大丈夫ですか、ユリウス様っ!? 」
フラリとよろけた俺に――イズンがそんなことを言いやがった。
誰のせいだと思っていやがる――てめぇ。
「君がこの国の……ブリータ国の王女だという証拠は? 」
「……スィアチ王の第一王女イズン……名前だけですけど」
恥ずかしそうに微笑むイズン――そうだった。
王女は確かそんな名前だったな。迂闊だった。
それにしたって、こんなところに王女が転がっているとは思わないだろうが、普通。
「証明するものは名前だけか……だったら君を城に連れていけばわかるだろう」
俺だって、すぐにこんな乳臭い小娘が、この国の王女だということを信じているわけじゃない。
「それも良いのですが……そうなったら、困るのはユリウス様でございます」
「どうして俺が困るんだよ? 」
「……王女を連れ去った「誘拐犯」として……追われる身になってしまいます」
「……はぁぁぁぁっ!???? 」
バカだ。バカだろう、こいつ? どうしてそんな話になるんだよっ!?
「私は二日前に城から抜け出しました。
訳は……城の中では見られない人々の暮らしを見たかったから。
そして城では、今、私がいなくなったと大騒ぎをしていることでしょう。
そんなところへのこのことあなたが私を連れて戻ったとします」
「で……? 」
もう訊くことも苦痛なんだけど。とりあえず訊く。
「私が「ユリウス様に攫われたんだ」と証言したとしたら? 」
てめぇぇぇぇっ!!
笑顔でのうのうと、とんでもねぇことをぶっこいてんじゃねぇっ!!
マジ犯したろか――こいつっ!!
「俺は君を助けたんだぞ。どうして君にそう言われないといけないんだ? 」
「私が……ユリウス様を好きになってしまったのです……」
ちょ――――めんどくせぇぇぇ。
「勘弁してくれないか?
今朝だって、賊に襲われたばかりだろう? 俺といると危険な目にあうかもしれないんだぞ? 」
「そんなことありませんっ!! ユリウス様にとって私といた方が、とっても助かるんですよ? 」
なんだそりゃ?
紳士ぶるのもいい加減――疲れてきた。
「どう言う意味だ? 」
「私……ユリウス様と一緒で特殊な能力を持っているんです。
今朝私たちを襲った賊も……私を襲ったのかもしれません」
厄介に厄介の上塗りはやめてくれないか?
それ――ただの「迷惑な存在」と言うんだぞ、イズン。
「私の能力は「回復」と「蘇生」……瀕死の状態でも……私はその者を助けることが出来ます。そして魂がまだ「ヘルヘイム(黄泉の国)」に向かっていなければ……死んだ者すら生き返らせることが出来るのです」
「……それ。本気で言っているのか? 」
「はい。本気の本気です。
試してみても構いません。ただ……「蘇生」に関しては、一度使ってしまうと、私は丸一日は深い眠りにつかなければなりませんが……」
イズンは笑っちゃいるが――目は本気だ。
どうも嘘を言っているようには見えないな――この件に関してだけだが。
「ノルダルに行きたいと言ったのは? 」
「……少しでも……ユリウス様のお傍にいたかったから……」
あ―――。
こうはにかんでいるには可愛いと思うけどさ。
無性に腹立つのはなんでだろね?
「で……君はこれからどうしたい? 」
「ユリウス様のお傍にずっといたいですっ」
「……俺は困る」
「私の能力がユリウス様をお助けします!! 」
「それじゃ君の能力目当てでしか、俺が君を必要としていないことになるだろう? 」
「それでも構いませんっ!! 傍にいられるのならっ!! 」
健気もいいんだけどさぁ……。
さて、俺がどうしようか。
「失礼いたします」
頭をかいていた俺に、突然イズンが俺の首に両手を絡ませた。
「な……」
キス――された。
「少しお待ちください」
そうして俺に抱きついて――しばらくの間。
「イズン? 」
意味がわからん。
イズンがはぁ――とため息をついて俺から離れる。
「いかがですか? 」
「何が? 」
「お体です。体力は戻っていませんか? 」
「……そう言えば……」
確かに。「武器精製」で使った体力が完全に戻っている。
「これが……」
そう言って――イズンが倒れそうになるのを俺が支えてやる。
「……わかった。とにかく、今後のことは「モカ」の街に行ってから考えよう」
「……はい」
もう――勘弁してくれ。
俺は大きく息を吐き出した――。