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最終話 厄介事には厄介事で…おあとがよろしいようで

「おはよう……」

 


 俺が目を覚ましたとき。

 そう言ったのはあの小さい男。

 どうせなら、あのパツキン美女の方がはるかによかったぞ。

 


 驚いたことに、俺はマチルダの――俺の泊まっていた宿屋の部屋のベッドに寝かされていた。

 そして俺の隣には、どうしてイズンが一緒になって寝てるんだよっ!?




◆◆◆




 要点を纏めると。

 この小さい男の名は〔小春悠おはるゆう〕。

 俺たちがいる世界とは違う〔ミズガルズ(人間の住む世界)〕から、最高神オーディンによって〔エインヘリヤル〕として十二年前に、〔エルフ族〕が管轄してる世界樹〔ユグドラシル〕を護るために、召喚されてきたんだと。

 それはあの男――〔前島透まえしまとおる〕というやつも一緒らしい。



「君はぼくのこと、小さい、小さい言うけど、これでもぼくは167㎝あるからね?」

「俺より小さきゃ、小さい男だ」

「……そういうところは変わらないなぁ……」

「……ユウとか言ったな?どうしてお前は俺を知っている?」

 こいつはトオルと別れて、騎士団を壊滅させたという俺のことを調べていて、途中、エミュと出会い真相を知ったと言うことだ。

 で、あのトオルは勝手に別行動していたウルズとヴェルのガキどもを探すために、あの館に来たらしいが、途中で俺の噂を聞き、同じ館に来ているという情報からウルズとヴェルを助けるために、あんなことをしたんだと。

 ……命が幾つあっても足りなぇよな。有名人も辛いね。



 そして本題。ユウという男がなんで俺を知っているか。

 イズンは俺の隣でくぅくぅ寝ていやがる。

「その子は君の体力をそこまで回復させて、疲れ果てて寝てしまったんだよ。

 大事な相手なんでしょう?」

「……ただの連れだ」

 俺の吐き出した言葉に、ユウは苦笑いを見せる。仕方ねぇだろ。本当のことだ。

「君はぼくたちと同じ〔エインヘリヤル〕だよ。

 でも違うのは、君はもとの世界で一度死んでいる。交通事故ってやつでね。

 そのとき、ぼくたちと前世の君は、同じ学校のクラスメートだった。

 だからぼくも君の死には立ち会ってるんだ。

 そのあと、オーディンは君をこの世界に生まれ変わらせた……君のその能力は、オーディンから与えられたものだ。

 それはぼくも透も同じ。イズンは君のパートナーであることにも違いない。

 ……オーディンは本当に勝手な神でね。ぼくたちもほとほと困ってる」

「お前。そのオーディンと話せるのか?」

「まぁ……そうみたいだ。でもいきなり現れて、好き勝手なことを言ってすぐ消える。

 必要なときには会えない相手だよ」

 戸惑った様子のユウに、俺は答えることはしなかった。

 というより。どう答えていいかもわからなかった。

 俺の前世というやつが、ユウとトオルと顔見知りだった――という事実なのだろうことは、あまりショックじゃない。

 不思議なくらいに落ち着いている。

 まぁ、あの不可解な夢の原因がわかったことを良しとするぐらいか。



「なんか落ち着いてるね……ユリウス」

「俺の前世の名前はなんという?」

武原豪樹たけはらごうき。それが前世の君の名前だ」

「……ふうん」

 変な名前だ。

「それから君にひとつ話をしないといけない」

「何だ?」

「そのイズンという子のことだ」

 俺はユウの顔を見た。

「その子の母親の名はスカジ。エルフ族の世界〔アルフヘイム〕でも、指導者的な立場のエルフだ。

 スカジさんの話では、イズンの能力は死者蘇生。それが本当なら、危険極まりない能力ということになる。

 その子の能力ちからは、相手を選ばないらしい。

 スカジさんはその事実を伏せるために、イズンから離れたらしいけど、どこかでそのことを知る者たちがいたとしたら。

 イズンは狙われつづけることになる……」

「だから?」

「それを護れる存在が必要だろうということ。

 それが君だということだよ、ユリウス。ぼくも好きじゃないんだけど、君とイズン……〔エインヘリヤル〕と〔ノルン〕は、互いがいなければその力を発揮できない関係となる。

 イズンを護るには丁度いいんじゃないかってこと。

 君のその能力はずいぶん体力を必要とするみたいだし、イズンの能力があれば、その欠点を補える。という説明は、君とイズンをモノ扱いするみたいでぼくもしたくはないけど……」

「〔エインヘリヤル〕様というやつは、ずいぶんとお優しいんだな」

「……君もその〔エインヘリヤル〕なんだよ。

 そして、君はこの街を護るために、あの騎士団と戦った。

 エミュさんが褒めていたよ。街ひとつ護るという偉業に対して、君が受け取った報酬は安すぎるとね。

 騎士団の半分を殺さなければならなかったのは、自分への悪名を利用して、この街に二度と手出しをしないよう、君がその汚名を着たのだと。

 ヒール(悪役)を気取っているけど、本当は底なしのお人好しだって……。

 イズンを傍に置いているのも、その優しさからなんだろうって。彼女は言っていたよ」

「……やめろ。虫唾が走る」

 気持ちが悪い。俺は褒められることに慣れていない。

 〔人でなし〕、〔ろくでなし〕――それぐらいが丁度いい。

「話せるぐらいに体力が回復しても、まだ歩きまわれるには時間がかかる。

 右大臣の屋敷に乗り込むつもりなんだろう?

 そのときはぼくたちも手伝うから。君だけだと、暴走しそうだからね。

 君と透は良く似ている」

「もっとやめろ。首を括りたくなる……」

 あの男と似てると言われて、嬉しいわけないだろう?

「そこまで嫌わなくても。まぁ、考えといて。また来るよ」

 そうしてユウは部屋から出て行った。



 俺はため息をついたあと。無造作に髪の毛をかいた。

 面倒だ。マジでメンドくせぇ……。どいつもこいつも偽善面しやがって。



「……ユリウス様」

 イズンの声。俺は隣で寝ていたイズンの顔を見る。

「すみません。まだ起き上がれなくて……」

「……ありがとうな」

 ただ一言。俺はイズンに呟いて。イズンは大きく目をひん剥いて驚いていた。

「……何してる?」

 ごそごそと、イズンは――起き上がろうとしてるのかっ!?

 俺は仕方なく、イズンの上半身を抱き上げて。俺もだるいんだけどな。

 俺の胸を支えに、イズンは凭れかかるように上半身を起こした。

「当たり前のことをしただけです」

「俺の妻だからか?」

「……はい」

 こういうときでも、こいつの妄想の暴走は収まらないのか。

「三ヶ月の約束を覚えてるか?」

「……まだ二ヶ月強はあります。もう少しお待ちください」

 こいつの強気な性格も相変わらずか。

「作り物は認めんぞ」

「大丈夫です。ちゃんと自前で大きくしますから」

「お前の能力……蘇生じゃなくて、育成だったら良かったのになぁ……」

「……育成は能力じゃなくて、努力するものです」

 あれ。こいつ何気にいい事言ったのか?

 俺は思わず吹き出した。

「な……なんですかっ!?」

「……いいや。期待してるよ」

「え……はい」

 イズンはそう驚いたように返事をしてから、俺の胸に顔を埋める。

 仕方ない。体力を回復してもらったお礼に――もうしばらくだけ、こうしておいてやるか。



◆◆◆



 それから三日。三日も掛かったっ!!

 その間、イズンは俺の隣に居座りつづけた。

 最高に苛ついているとき。  

 能天気面で、ユウからこんな提案をされた。



「ああっ!?このガキらを俺が預かるだとぉっ!?」

「お前が預かるんじゃないっ!!俺たちが、お前を助けてやろうって言ってんだよっ!!」

 そうのたまったウルズの頭を一発殴る。

「連れて帰れっ!!足手まといだっ!!」

「だからいいんだろう?

 俺たちも、お前たちにそうそうついていてやれない。その代わりに、この足手まといたちをよろしく頼む」

 ムカつく笑顔で、トオルに言われる。余計にムカつく。何様だ、お前っ!?

「誰がついていてくれと頼んだ?

 イズンだけでも鬱陶しいのに、こんなガキはごめんだっ!!」

「なんてことっ!!私を妻と認めてくださったじゃないですかっ!!」

「ああっ!?認めてねぇっ!!」

 イラつく。ムカつく。話にならねぇ。

「僕たちも自分たちの方が落ち着いたら、様子を見に来るよ。

 君に人殺しをさせないための処置だから。

 それにウルズとヴェルにもいい社会経験になる。一石ニ鳥ってやつだよ」

 達観しやがって……ユウの野郎。

「結局は監視役ってことだろうがっ」

「まかり間違っても〔エインヘリヤル〕だから。

 人の世界じゃ君たちの存在はいやでも目立つんだ。今までの君がそうだったようにね」

「……ち」

「態度悪っ」

 ヴェルが呟く。

 こんなこと、舌打ちでもしないとやってられっかっ!!



「早くエミュから聞いた右大臣の屋敷とやらに行くぞ。

 ここから一ヶ月もかかる道のりだ。俺に従え。文句ひとつ言うんじゃないぞっ」

 どうせ話し合っても平行線だ。

 俺は板胸女とクソガキどもにそう告げると、さっさと歩き出す。

「なんだとっ!!おい、ユリウスっ!!ふざけるなっ!!!」

 一番うるせぇウルズが叫んでる。こういうのは放っておくことに限る。

 イズンとヴェルは無言で俺についてくる。いい心がけだ。




「いいのか、悠。あいつを行かせて」

「……彼には彼なりのやり方があると思う。それは僕たちと違うやり方だろうから。

 ぼくはそれを信じるよ……」

 ユウとトオルがそんな勝手な会話を俺の知らないところでしていたことを知るのは――もう少しあとのことになる。




「ユリウス様。とりあえず、次の宿はどうしますか?」

「……この先のデイダという街に行ってからだな。 

 今度はガキまでオマケでいる。先を急いでも仕方ないだろうが」

「……はい」

 不機嫌な俺の隣で、イズンは小さく笑っている。

 


 


 この先の街デイダでも、俺たちは騒動に巻き込まれることになるが――それはまた別の話ということで。

 機会があったら話してやる。

 



 あ?ずいぶん〔上から目線〕だと? 

 仕方ないだろう?俺は『人でなしのユリウス』らしいからな。


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