第22話 こうなると、何人怒らせても変わらんな
俺がイズンを追って突っ込んだ先――そこにはブタそっくりの耳の長い布袋体型のバケモンがイズンの両肩を掴んで立っていた。ナイスっ、ストレス解消対象っ!!
「こるぁぁぁぁぁっ!!!」
俺は嬉々としてナズをそのバケモノ目掛けて振り上げた。
こっちはガキたちとその板胸女の相手をしていて疲れてんだっ!!
てめぇの頭をかち割ってやらぁっ!!
「……っ!!!」
それと同時だった。
俺の感覚に、今までに感じた事のない強烈な殺意と、強大な力の渦が全身を駆け抜ける。
俺はほとんど反射的にイズンをバケモノから奪い取り、そのまま抱え込んでその場に伏せた。
巨大な揺れが俺たちを襲う。
ナズの力を遣い、俺は守護のフィールドを作りイズンを抱え込んだまま、瓦礫の下敷きになることのないよう、揺れが収まるのを待つ。
やがてその揺れが収まり、俺はようやく顔を上げることができた。
「……ユリウス様」
う。この女。まーた何かとんでもねぇことを言い出すんじゃなかろうな?
俺は本能と化した拒絶の想いを秘めてイズンを見る。
「……近くにすごく巨大な力を感じます」
なんだ……普通じゃねぇか。いや。状況は普通じゃないんだが……。
「ああ……そうだな」
俺は周りを見回し――言葉を失う。
俺たちの頭上は、美しいほどの青空が見えていた。
俺たちは地下にいたはず――そう。あの建物自体が綺麗に消滅していたんだ。
「……なんだ、これは」
俺の目にはあのバケモノも映る。二体いたらしいな。
と。あのバケモノたちも無事ってことか。
どうも頭を抱えて、身を低くしていたらしい。
これだけきれいさっぱり建物がなくなっていりゃ、瓦礫も落ちようがないってことか。
「透兄ちゃんっ!!」
……ウルズの声。それも嬉しそうに。
「私たちは無事だよ」
ヴェルもいる……トオル?誰だ?
俺は誤解されるのも面倒だが、イズンを抱き上げ、くぼみのような地下の残がいから地上へと飛び上がる。
そこには。
黒い鎧を全身に着込んだ男が一人。身長は俺より大きいか?体格はかなりしっかりしてやがる。
右手には、同じ真っ黒な槍を持って立っていた。
そしてその後ろには赤い髪の耳の長い女もいる。おお!胸が大きいねぇ。たぶん正真正銘の〔エルフ族〕のやつだろう。
それと――馬なみにでかい体の犬だか――狼だかがいる。
「……まさか〔エインヘリヤル〕!?」
降ろしたイズンが呆然と呟いた。
「こいつか……」
俺はナズを握りなおす。何故かって?
仕方ないだろう。こいつから殺気が駄々漏れになってるんだからな。
「透……」
赤い髪の女が俺たちを見て、そんなことを言っている。
でもトオルっていう名前――どこかで聞き覚えがあるが。ま、いいか。
「ああ。らしいな」
トオルというやつが、俺を見て女に答えていた。
何が「らしいな」だ。
こいつらの目的と殺気の意味がわからん。
「おい。お前が〔武器の魔術士ユリウス〕なのか?」
ほう。俺を知っているとは殊勝だな。
「……ああ。そうだが?」
俺がそう答えると。男の殺気が一段と強くなる。
いいねぇ。理由はわからないが、やる気マンマンじゃねぇか。
「ユリウス様……相手は間違いなく〔エインヘリヤル〕です。
ここは戦わない方が……」
「イズン、お前らしくないな。
俺もお前の〔エインヘリヤル〕なんだろう?しかも最強の。
だったら、問題はねぇんじゃねぇか?」
「……ユリウス様……申し訳ありませんでした。
私はあなたの妻として、大変失礼なことを口にしてしまいました」
いや。それは違うから。妻じゃねぇし。
弱気なイズンを叱咤し、まぁ……聞きたくないセリフも聞く羽目にはなったが。
「イズン。これが俺の本当の力だ。これを使うと、俺も数日は余裕で動けなくなる。
体力回復頼むぞ……」
「はいっ」
俺はナズを構えながら、イズンに声をかける。
もうあの弱気なイズンの声ではない、嬉しそうないつものイズンの声が俺の耳に届いた。
「いくぞ〔ナズ〕……最強の剣〔ガグンラーズ〕」
俺が「それ」を唱えると、ナズは白銀の炎を噴出した。
ごうと耳を刺激するように風が鳴る。
それはナズから発せられる、〔力〕の唸り。
微笑む俺の右手で、ナズの本当の姿が炎によって形作られていく――。
「……どうやら、数日前に騎士団を壊滅させたのは貴様の仕業らしいな……。
無関係な人を殺しやがって……そうやって貴様は殺戮を楽しむのか?」
「ああ。あの白タイツ野郎の騎士団のことか。それがお前の殺気の理由か?
正当防衛っての?自分の身を守っただけだぜ、〔エインヘリヤル〕様」
トオルという男の問いに、俺は変化の終わったナズ、いや。最強の剣〔カグンラーズ(勝利を決めるもの)〕を構えることで答えとする。
間違っちゃいないだろう?
俺はあいつらに警告は与えてやってたんだ。
「ユリウス様。十分にお気をつけ下さい。
力はあの男の方が上かもしれません……でも今のユリウス様の敵ではないでしょうが」
「おう……任せろ」
イズンの忠告を受けて、俺は〔カグンラーズ〕へ力を込める。
「な……何やってんだよ、透兄ちゃん。ユリウスはバカだけど、悪いやつじゃないよっ!!」
俺たちの様子を見て、ウルズが今更ながらに慌てている。
「どけ……ウルズ。少し脅かすだけだ」
「バカは余計だ、ガキ。見てろ」
俺とあの男の意見が一緒になる。嫌だけどこの際仕方ねぇな。
「透、気をつけて。あの剣の力は異常だわ」
赤い髪の女がトオルってやつに話し掛けてやがる。
「大丈夫だ、ミスト。悠たちが来る前に全てを終わらせる」
いちいち勘に触る話をしてやがるな。誰だユウって?まぁ、いいか。
ミストという女が、俺に向かって霧のような煙のような力を放つ。
「無駄ですっ!!」
これに応えたのはイズン。
右手を上げ、それを勢い良く振り下ろすと、女の放った霧状のものが消える。
「えっ!?」
驚いているのはミストという女の方だ。
「小細工はおやめなさい。
あなたも〔ノルン〕なら、夫である〔エインヘリヤル〕の戦いを見守るだけの度量をお持ちなさい。
あなたの放つ魔力など、私の力の前では全て無効化されます。
ユリウス様には指一本、水の一滴も触れさせません」
「……あなたも〔ノルン〕のつもりなの?」
気持ちはいいんだけどね。言いたい放題の暴走イズンに、さすがの俺もミストという女に少し同情した。
たぶん〔ノルン〕とかいう役目はあちらの方が長いと思うんだよ。
それも俺、お前の夫でもなんでもないし。
ミストってやつ――顔が怒ってるし。トオルとかやつは殺気が駄々漏れだし、しまいにはそのパートナーらしきやつまで怒らせるし。
まぁ……戦うの俺だけど。怒らせるのは一人も二人も一緒か。
「ぐだぐだ言っている暇はねぇぞ。殺るならとっとと殺ろうぜ……」
ミストの相手は任せるわ、イズン。
俺の相手は――あのトオルってやつだからな。
「……命が惜しくないらしいな」
「まんまあんたに返すわ。俺も暇じゃないんだ。さっさと終わらせたいんだよ。
予定が詰まってるんでな……」
「大丈夫だ。俺が暇にしてやる……」
そうこないとな。
こいつの放つ殺気が気持ちよく感じるぞ……。
どうせお互い引く気はないんだ。
俺はこれ以上のちゃちが入る前に――トオル目掛けて走り出す。
それはあいつも同じ。
俺の振り上げる〔カグンラーズ〕と、あいつの握る漆黒の槍が激突したのはその直後のことだった。




