第21話 「それ」は起こった
俺たちも床にあいた大きな穴から、地下へと降りる。
「遅せぇじゃなぇか!!」
叫ぶウルズを俺たちは完全無視。
「ウルズは暗いとこ、怖いんだよ……」
「うるせぇっ!!」
ヴェルのツッコミに、ウルズがさらに大きな声で叫んだ。
「うるせぇ、ガキ」
俺はウルズの頭をひっぱたいて黙らせると、ヴェルとイズンも加わり、二人のかざす光の玉の明かりを頼りに、地下の様子を伺った。
そこは一本の廊下となっている。
さほど長い距離ではない。
俺の右側。その突き当たりが扉になっているのは辛うじて見える。
だが左側は――この程度の明かりで判別出来ない距離にあるのか、闇に埋もれて見えない。
そして引っかかりと感じた[気配]は左側から。
「こちらへ行くぞ」
俺は左手をあげ、[気配]の感じる方へと三人に指示を出す。
「俺、こっち!!」
ここでバカウルズ。俺とは反対側へ行きたいと主張を始めた。
「私はユリウス様と同じ意見です。こちらから、なにやら[怪しい気配]を感じます」
「私も。ユリウスさんとお姉さんと一緒の意見。
ウルズ一人でこっちに行けば?」
「ああああ。みんなしてっ!!」
駄々をこねるウルズ。
もうぉ、やだ。マジでこのクソガキ、メンドくせぇ。
「……行くぞ」
これ以上話すことも嫌になり、さっさと歩き出す。
気を利かせたイズンが俺の先を歩き、明かりで廊下を照らし出している。
俺の後にはヴェルが続く。
「行けばいいんだろう!!行けばっ!!」
ウルズはあーだ、こーだと叫んでは、俺たちについてくる。
結局一人で行くのが怖いんだろうが……。
真っ直ぐな廊下なので、しばらく歩くとこの廊下の終わりに突き当たる。
そこも扉。
「開けるしかないだろうな」
「俺がやるぅ」
しゃしゃり出るバカに、俺は頭を一発殴り、イズンに尋ねた。
「イズン、この扉の呪いとかはかかって……」
「いってぇなぁっ!!」
うるせぇ、ガキ。声が聞こえねぇんだよ、黙ってろ。と、頭にもう一発。
「いってぇぇっ!!!」
「……大丈夫です。何も[呪い]はかかっていません」
「そうか」
この方面では、イズンはそれなりに使えるとは思うからな。それを俺は信じて扉のノブに手をかけた。
「簡単に人の頭を殴んなっ!!」
「……てめぇが、うるせぇんだよ。俺に武器にされたくなかったら少しは黙ってろ」
これがウルズに効くかどうかはわからんが。
と、俺が考えていた矢先。
このクソガキ。俺から二、三歩後ずさりやがった。
「こ……怖かねぇぞっ!!」
声が怯えてんぞ、ウルズ。でも、効くのか……これ。
「すごい効果ですね」
イズンが変な感心をしている。
「さっさと開けるぞ」
これで少しは静かに、仕事に集中出来るってもんだ。
「エルフにも恐れられているなんて。本当にすごいですね、ユリウス様」
にっこりと微笑む元祖バカ女に、俺は軽いめまいを覚えた。
扉を開けた途端――。
そこはさらに地下へと続く階段があるだけだった。
期待させるなっ。
「階段を降りるぞ」
「はい」
「うん」
俺の声に反応したのは二人。ウルズのバカは列の最後にいて、律儀に俺から距離を置いている。
「ウルズは気にしなくていいよ」
マイペースだが、お前はしっかりしているよヴェル。
「では……」
階段の下は闇が深くなっているように思える。
そして[気配]もこの先から強く感じている。
イズンの作り出す光の玉も、大きさと明るさが増していた。
「ユリウス様。この階段……少し違和感がありませんか?」
「違和感?[気配]はずっと強く感じるが……」
「降りるのは危険かもしれません……」
イズンが、突然俺にそんなことを言ってきた。
「ユリウスさん。私も何か感じるよ。風もこの階段の下まで届かないんだ」
「……ふぅん……」
ヴェルまでイズンと同じことを言い出しやがった。
俺はついつい口元が歪んでしまう。
「俺が焼き払ってやるよ」
ウルズ、こういう時だけ出てくるな……お前は。
「お前が俺に武器にされて、[炎の剣]になれば、さぞすごい力を発揮するんだろうなぁ。
武器にするにしても、その素材になる[もの]にも左右されるからな」
俺がぼそりと呟くと、ウルズが再び俺からすごい勢いでヴェルの後ろに隠れた。
幅の狭い階段に、今、列の先頭にいるのは俺とイズンなので、ウルズは前に出られない。
「お前に[武器]にされたら、ボロっボロにされるまで力を使い果たされるんだろうがっ!?」
「よーくわかってるじゃないか。
お前は使いがいのあるやつだと認めてやってるんだぞ?」
「嬉しかねぇよっ!!」
俺がニヤリと笑ったのが見えたかどうかわからないが、ウルズは俺から見えないように、ますますヴェルの後ろに隠れる。
「ウルズ、情けない」
「うるせぇよっ!!」
ヴェルの容赦ない言葉に、ウルズは妹の後ろから叫ぶばかりだった。
本当に情けないな、その姿。
「構わん、イズン。そのまま進むぞ」
「はい」
俺がイズンにそう告げ、イズンが前を向いて階段を降りようとした時だった。
目の前の空間が雫が水に落ちて波紋となって広がるように、空間が一瞬歪んだと思うと、そこから褐色の腕が二本。
先頭のイズンの肩を掴み、空間に引きずり込んだ。
イズンが悲鳴を上げる間もない。
その姿は俺の目の前から消えた。
「イズンっ!!」
考えることもしなかった。俺はウルズとヴェルのことも構わず、イズンを追い、その空間に飛び込んでいた。




