第19話 クソガキ'sと板胸と俺の記憶?
何が楽しくて、板胸女とクソガキを二人も追加して、肝試しのようなことをしなきゃならんのか。
それも三人とも[ハーフエルフ]だと。[ハーフエルフ]にはおかしいやつが多いのか?
俺たちは門から、怪奇特集を詰め込んだような朽ち果てた貴族の館へと足を向ける。
「ところでイズン。
お前、どうしてその耳を隠してた?」
なんとなくそんなことを、イズンに尋ねてみた。
どうせ、エルフとわかると都合が悪かったせいだろうけどな。
「エルフとわかると都合が悪かったせいです」
まんまじゃねぇか……[一語一句]間違えてねぇぞ、イズン。
「ところでユリウスさんと姉さんはどういう関係なの?」
ヴェルがそんなことを訊いてくる。
どうせイズンは「[エインヘリヤル]と[ノルン]の間柄です」とかなんとか言うんだぜ、きっと。
「[エインヘリヤル]と[ノルン]の間柄です」
おい。また――まったく同じじゃねぇか、イズン。
こうなってくると、恐ろしいものがあるな、俺。
「は?あんたとこの[悪辣のユリウス]さんは[ノルン]と[エインヘリヤル]だってのか?ありえねぇよっ!!」
ウルズが俺とイズンを交互に見比べて言い放った。
「たまにはいい事言うじゃねぇか[クソガキウルズ]。確かにお前の言った通りだ」
「誰が[クソガキウルズ]なんだよっ!!」
本当に無駄に素直な反応だよな、ウルズ。
「ユリウス様。ウルズくんの言ったことは間違っていますよ。
私とユリウス様は、[エインヘリヤル]とそのパートナー[ノルン]なんです」
頑なに、イズンは否定するけどな。
「それはないよ……」
ヴェルまで。案外いいやつらなのか、お前たち。
「そうだぜ。俺の父さんと母さんが[エインヘリヤル]と[ノルン]だったんだぜ。
このふたつの間柄って、そう簡単なものじゃないんだよ」
真剣な表情で語るウルズ。何を知ったかぶってんだ、マセガキがっ。
「そうか、簡単じゃないんだな。
このお姉ちゃんによーーーく説明してやってくれないか?
少しおつむが変だから、気をつけてな」
「ユリウス様ぁっ!!」
顔を真っ赤にして怒っているイズンだが、俺は本当のことしか語っていないが?
「酷い……やっぱり[ひとでなしのユリウス様]だね、お兄ちゃん……」
そう言って、ヴェルが俺のことを睨んだ。
まともな女の子なら、ここまで酷いことは俺もさすがに言わないけどな。
まともじゃない女の子だから、こうなっちゃうんだ。
と、説明したところでわかりもしないだろうけどなぁ……。
「俺も酷いと思うぜ。女の子にはもう少し優しくしてやらないとな」
いくつの[ハーフエルフ]のガキだ、ウルズ?
さっきから知ったかぶるのが好きだな、お前は。
「してないじゃん……」
「お前は別ものだろう?」
妹にツッコミを入れられ、当然のように反論している兄。
と、いつまでもガキに付き合っているわけにもいかない。
「で。お前たちの両親も[ヴァルハラ]とやらにいるのか?」
らちがあかないので、俺は話題を[エインヘリヤル]と[ノルン]だという両親に変えた。
「ああ、そうだよ。
俺たちは元々、日本にいたんだけどな。
去年、父さんたちと一緒に、この世界に来たんだ」
「ニホン……ですか?そんな国の名前……聞いたことないですよ」
イズンが言ったウルズに訊き返していた。
ニホン……日本。
何だ?何故……俺は知っている?この言葉の響きを……俺は知っている?
「どうした、ユリウスさん?」
一点を向いたまま、真剣な顔をしていた俺にウルズが声をかけてきた。
「ユリウス様?」
イズンも心配そうに俺を見ている。
「……どこだ、ウルズ。その国はどんな国だ……ウルズ?」
俺は……何かを思い出しそうになっている?
「……ミズガルズでもずっと奥にある国なんだ。
[オーディン]の爺さんがよく[エインヘリヤル]を連れてきたのも、この国のある世界らしい。
魔法は使えないけど、すごく科学が発達した世界なんだぜ。
でも今代の[エインヘリヤル]がこの世界に来てから、まだ十二年しか経ってないからな。普通は、五十年~百年以上は間が開くらしいぜ。
それにユリウスさんは、[ここの世界]の生まれだろう?
それじゃ[エインヘリヤル]の可能性はかわいそうだけど低いぜ」
知ったかぶったお前の態度が気に入らねぇんだよ、クソガキウルズ。
「……科学が発達した国……」
科学……何だ?この言葉の響きまで懐かしいと感じる自分がいる……。
「どうしたよ?」
「……なんでもない。
どんな国か訊いてだけだ。他意はない」
不思議そうにしているウルズに、俺はこれ以上の質問をすることも、されることも避けた。
ダメだ。とにかく今はこれ以上の考えは、精神に負担がかかることになる。
無駄なことには気持ちを割かない方がいい。俺はそれ以上、こいつらが来たという国のことを考えることを止めた。
「大丈夫ですか?」
「なんでもない。心配するな」
俺は話しかけてきたイズンにそう言った。
俺自身も、それ以上は言いようがないほど――曖昧な感情が気持ち悪かったんだからな。
そうしている間に、俺たちは館の前へと到着していた。
[こじんまりとした宮殿]と言ってもおかしくないほどの建物。
五階建ての建物は数十年と使われていないせいか、窓ガラスなどはほとんど形がなくなって、地面に粉々になって広がっている。
好き勝手に人の出入りを許しているのだろう。
あちこちの石塀が壊され、今にも朽ち果てん勢いでその哀れな姿を俺たちの前に晒している。
「ここは有名な心霊スポットらしいぜ」
ウルズが変な知識をひけらかす。
「この場合は意味あるの?」
ウルズ。お前、冷静な妹に突っ込まれまくっているんじゃないか。
「うるさいな。俺のことは[雑学王]と呼べって言ってるだろうが」
言うにことかいて、それこそ意味のないことを言い始めるウルズ。
何だそりゃ。
そんな王様が国を治めても、雑学ばかりで肝心の帝王学がお留守じゃ、それこそ意味はないだろうが。
このガキたちにそんなことを言っても意味はなんだろうなぁ。
「そこで一生やってろ。
俺はこの屋敷に入るぞ」
「私もお供します、ユリウス様。私はユリウス様の[ノルン]なのですから」
本当にイズンはわけがわからん。
そんなことに拘る意味があるのかと思うぞ。
俺はそんなことを考えながら、館の扉のノブに手をかける。
「開けるぞ」
「いつでもどうぞ」
俺の言葉にいちいち反応するウルズ。
マジで腹たつ、このクソガキ。
俺は扉をぐいと引っ張ると、ギィィィと音を立てて扉が開いた。
鍵がかかっていなかったんだな。
かかってたら、ぶち壊そうと考えていたんだが……。
「鍵がかかってたら、カギをぶち壊そうかと考えていたのになぁ」
まったく同じことをウルズまで言いやがる。
この同調率がすごく嫌なんだけど……。
そんなことを思いながら、俺は暗い屋敷の中へと一歩を踏み出した。




