第18話 くそ生意気なガキは嫌いだ
「お前たち……」
俺がそのガキたちに言いかける。
「ああ、この耳?俺ら[ハーフエルフ]なんだ」
……ここにも、[妄想癖]が。
でも耳が尖っている分、少なくともこいつらの話は信ぴょう性があるわな。
「ユリウス様」
俺の腕をつんつんとつついて。
イズンが自分の方を向けと合図してくる。本当にメンドくせぇ。
仕方なく俺が振り返ると、イズンは何を思ったか、自分の耳をそれぞれの手で覆い隠すように掴んで、すぅっと離した。
「……あ?あぁぁっ!?」
イズンの耳。尖ってら……。
「ですから……私も[ハーフエルフ]なんですよ」
幻か?これと今までと、どっちが幻だ?
「姉ちゃんも[ハーフエルフ]なんだぁ。
それに兄ちゃんはあの[悪辣のユリウス様]だったんだなぁ。
結構、普通のあんちゃんで驚いたぜ。
あ、俺は[ウルズ]。こっちは俺の妹で[ヴェルダンディ]。
長いからこいつは[ヴェル]でいいぜ」
「偉そうに……」
「俺はお前の兄貴だぞ。当たり前だろっ」
「……はい、はい」
なんだ。この漫才兄妹は?
「おい……ウルズとやら。
初対面の相手にいきなり[悪辣]とは何だ?」
なんでガキにこんなこと言われにゃならんのだ、俺は。
「わりぃ、わりぃ。街でそんなこと聞いたからさ。
確か[悪辣]だったよな。それとも[奸悪]だったかな?」
ただ[悪いイメージ]の言葉を並べたがっているだけじゃないのか、こいつ?
それはそれですごいとは思うけどな。
「ただの[ひとでなしのユリウス様]だっただけだよ」
妹だというヴェルダンディが、ウルズに囁いた。
「そうだっけ?わりぃ、わ……いってぇっ!!」
俺はガキ相手に容赦はしない。特に男はな。
そう思った瞬間に手が出てた。
「殴られたいのか?」
「やってから言うなっ!!」
俺にげんこつを食らわされたウルズが、頭を抑えて俺に怒鳴った。
自業自得だ、バカめ。
「[失礼なウルズくん]ですね」
イズンが俺につづく。
「マジで嫌なやつらっ!!」
最初に嫌なやつらなのはお前たちだったぞ、ウルズ。
「で。どうしてお前たちはこんなところにいるんだ?」
俺はウルズを無視して、妹のヴェルダンディことヴェルに訊いてみた。
「トロル退治。
トロルの国の[ウートガルズ]と、ここの屋敷のどっかが繋がっていて、トロルたちがこの[ミズガルズ]に出てきているという情報が入ったから。
だから[トロル退治]と、その繋がっている空間を塞ぎに来たの」
「どこから来たのですか?」
イズンが続けてヴェルに尋ねた。
「[ヴァルハラ]だよ。
少し前までは、[ヴェルキュリア]が使ってたけど、今は[ヴァン族]もいるぜ」
代わりに答えたのはウルズ。
お前たち。今、さり気なくすごいことを話したよな。
[ヴァルハラ]だの[ヴァルキュリア]とか[ヴァン族]とか。
それ、全部――神話の世界の場所だの、連中の話だろうが。実在するのか?
「はは。驚いてる、驚いてる」
笑っているウルズ。
ムカついたので、もう一発殴ってやる。
「いってぇぇっ!!!」
「殴るぞ……」
「言うのがおせぇんだっ!!」
叫ぶウルズ。当たり前だろう?わざとやっているからな。
「[アルフヘイム]があるのですから、[ヴァルハラ]があってもおかしくはないですが……。本当にあったんですね……」
イズンが驚いている。
「こいつらの嘘かもしれんぞ」
「嘘なもんかっ!!
本当に[ヴァルハラ]から来たんだぜ」
ここで俺は――我に戻った。
今はそんな[ヴァルハラ]とか、[ヴァルキュリア]とか関係はない、と。
「そんなことどうでもいいな。
トロルか。なかなか使える情報をありがとう。
で、お前たちが帰れ。
この依頼を受けたのは俺たちだ。
ようするに、お前たちは邪魔なんだよ」
「……さすがは[悪辣のユリウス様]だぜ。
単なる人にトロルが倒せると思っているのか?」
ウルズが俺に負けじと突っかかる。
「エルフかなんかはしらんが、ただのガキが何出来るんだ?
俺は[悪辣のユリウス様]なんだろう?そこら辺の一般人と一緒にするな」
「まぁな。
それは認める。あんたは嫌なやつだ。
この[ハーフエルフ]の姉ちゃんは知らんけど、あんたはどの程度なんだよ。
逆にあんたが邪魔なんだけど?」
「もう一発欲しいか?」
「うるせぇっ!!」
俺が握りこぶしを作ると、ウルズは慌てて頭を両手で押さえた。
無駄に素直だな、こいつ。
「だったら、皆でこの屋敷に入ればいいと思いますよ。
お互いの実力もわかるでしょうし……。
申し遅れました。私はイズンといいます」
イズンがこんなガキらに礼儀正しくお辞儀をする。
バカじゃねぇのか?ホント。
「イズンさんか。こっちの暴力野郎より、よっぱど話がわかるみたいだな」
「暴力野郎というより、暴言野郎ですけどね。ユリウス様は」
にこにこにこ。と話す、ウルズとイズン。
……腹たつ。非常に腹たつ。
「抑えて、ユリウスさん」
ヴェルに慰められ。俺は一体何なんだ?
「ここでバカやっている暇はねぇ。
俺はこの屋敷に入るぞ」
「はい、ユリウス様」
俺はウルズとヴェルを放っておいて、朽ちかけた鉄製の門を押し開く。
俺が軽く押しただけなのに。ガシャンと音を立てて、門扉が土埃を上げて倒れた。
「あーあ。壊しちまった」
「……うるせぇ」
ウルズは呆れたように呟いたが……知るか。そんなこと。
「行くぞ。ガキは家に帰って寝てろ」
「寝るのに飽きた。
ついていく。あんたらのフォローをしてやるから」
頭の後ろで手を組みながら、にやにやと笑うガキ、ウルズ。
このくそガキ……と俺が睨みつけようとした時だ。
「必要ありませんよ。ウルズくん」
イズンが微笑みながら、驚くウルズに話しかけた。
「だってこの方は……[ひとでなしのユリウス様]なのですから」
おい、イズン。それじゃまったくフォローになってねぇんだよ。
そう思いながら、俺は嘆息した。




