第17話 俺は俺なんだよっ
「悪いエルフ退治を、ちょいと頼みたいんだよ……」
にやりと、エミュが俺に笑ってみせた。
俺の視線がすかさず、イズンへと向かう。
「……それならこいつ倒して終わりじゃねぇか」
「押し倒す?」
「誰がっ」
イズンの野郎。すました顔して、わざとらしく間違えやがって。
「なんでイズンを押し倒すんだい?」
エミュまで……。
「違う。こいつを[倒す]んだよ。自分を[ハーフエルフ]とのたまう、とんでもねぇ妄想癖を持っているからな」
俺はエミュに力説する。
「ユリウス様っ!!」
どうして言うんだという顔をするんじゃねぇよ。
お前が[自称王女]という虚言癖は隠してやっているだろうが。
「あはははははは」
突然エミュが笑い出した。
「有り得ないだろう!!」
「だっ、ろうっ!!」
「酷いです、お二人共っ!!」
エミュと俺が同感なのが、イズンは許せないらしい。
「エルフ族ってやつは、確かに女は多いらしいが、[ボンっ、キュっ、ボンっ]っていうスタイル抜群の連中らしいよ。イズンの可愛さは合格だろうが……ねぇ」
「あっはははははははははははははははははっ!!!」
しげしげとイズンの幼女体型を見つめるエミュの姿を見て。
俺は不貞腐れているイズンに「ざまぁみろ」――とまぁ、笑いが絶えないわけで。
おっと、涙まで。こんなに大爆笑したのは久しぶりだぜ。
やっぱ、ギルドを取り仕切るやつの見る目は違うねぇ!!
「いてぇっ!!……なんだよ、てめぇっ!!」
イズン、てめぇっ!!俺の足を急に踏んづけやがってぇっ!!
って、横向いてんじゃねぇっ!!
「まぁ、まぁ。夫婦喧嘩はそのぐらいにして……」
「誰ぐぁ夫婦だぁぁっ!!」
エミュまで。変なこと言い出すんじゃねぇぇっっ!!!
自称[ハーフエルフ]のイズンは置いといて。
「で。それは[ダークエルフ]ってやつだろう?
肌が褐色で、髪は黒。エルフと他の闇の種族が交わって生まれたっていう。
ある意味そいつらも[ハーフエルフ]ってやつだろうが……」
それはこの世界に広がる一般的な[ダークエルフ]の知識だな。
「違います。それは[ディックエルフ]といいます」
「あ?だから?」
今だに不貞腐れたままのイズンに、俺は一瞥をくれ、聞き流す。
どうでもいいだろうが、そんなこと。
「ほう……私もそれは聞いたことがあるよ。
エルフ族とか、地位の高い種族は[ディックエルフ]という言い方をするらしいね」
「ふぅん。ま。同じもんだろう?」
「まぁ、そうだろうね」
エミュがイズンに関心を向けたが、そんなことを今は微塵も関係はない。
「でぇ?その[ダーク]だか[ディック]だかのエルフさんがどこに出るんだ?」
俺は腕組をして、エミュに尋ねた。
「この街外れに、没落貴族の館があってね。
もう何十年と使われてはいないんだが……。
数年前から、その館から耳の長い褐色肌のデップリとした体型のエルフ……らしい化物の目撃例が絶えないのさ。
それにそんな話を聞きつけて、腕試しとかで館に入っていくバカどもも多くてね。
中には帰ってこないやつらもいる。
近い話だと、二ヶ月前に五人ほど[魔族退治]の連中が入り込んで戻ってないね。
そのままうまく逃げててくれりゃいいんだが。そんな話も聞かないからさ……。
このまま放っておくのもどうかと、ずっと考えていたんだ。
ちょうどあんたらがいてくれたから、うまく何とかしてくれるんじゃないかとね」
また。どこでもあるな、そんな話。
でも、山とか人里離れた場所なら聞くんだが、街中じゃ珍しいかもしれんな。
「エミュさん。そのデップリという体型の魔物は、たぶんエルフじゃありません」
「じゃ、なんだい?」
「トロルの可能性が高いです。
トロルは体も強靭で、体力も並外れ。
頭は弱いようですが、人間の力で太刀打ち出来る化物ではないでしょう」
真剣な顔をして話すイズンだが、一向に俺の顔を見ない。
まだ怒ってやがる。ってか、これはいいチャンスかぁ?
「なら、太刀打ち出来るのは俺ぐらいか。
イズン。お前はここに残ってろ。俺が嫌ならそのまま出てけ。
この仕事は俺が引き受ける」
「嫌です」
こいつ。本気でバカだろう?
「なぁ、ユリウスさんよ。ちょいとイズンへ可哀想すぎないか?
こんなにあんたに惚れてんだ。少しは優しくしてやりな」
「断る。相当優しくしすぎて甘えてやがる。
俺は後悔してるんだ……」
「……少しも優しくないですけどね……」
エミュの変なツッコミのおかげで、イズンのそういうところだけが元気になりやがった。
「とにかく。この話は二人で頼むよ。
私はクェートン様の屋敷に行くからさ」
「その場所だけ教えていけ」
「そうだね。ちゃんと[二人]で頼むよ」
「お前は俺たちの何なんだっ!?」
かぁぁぁっ!!面倒くせぇ気を回すんじゃねぇよっ!!
「保護者みたいなもんかね?」
「うるせぇっ!!」
そう答える笑顔のエミュに、俺は叫んでいた。
◆◆◆
「……私は[ハーフエルフ]ですからね」
エミュに教わった没落貴族の館とやらの場所に、俺たちは向かっている。
街を歩く俺たちに――街を歩く連中が、指をさしたり、手を振ったり。
何なんだ、この状況は?
最高に居心地の悪さを感じつつ、歩く俺に、ムスっとしたままの表情を維持しながら、イズンが呟いた。
ってか、これで何度目だ、お前?
「そんなに[ハーフエルフ]にこだわりたいか……お前」
俺の言葉に、驚いて俺を見るイズン。
「俺は[俺自身]が別になんだって構わん。ここにこうしているのも、俺だ。
[俺]は[俺]。それ以外なんだってんだ?
そんなこともわからないのか、お前」
俺の顔をじーっと見ているイズン。こうしてりゃ、確かに並外れた可愛らしさを持っているんだがなぁ。
あ、胸もあったらもっと最高なんだが。口を開くから、こいつの場合は最悪になる。
「……はいっ」
お、いい返事じゃないか。
そしてそのまま前を向いて。で。俺にピタリと寄り添って……って、おい。
おいおいおいおいおいっ!!
腕組むなァァっ!!!
俺が大急ぎで右腕から、イズンの両腕を引き離す。
「懐くなぁっ!!」
「寂しがらないでくださいぃっ!!」
「寂しくないっ!!」
くすくすくすくす。
街の連中が笑っていやがるっ!!
ああああああっ!!!何もかもが面倒くせぇぇっ!!
俺は早足で目的地まで向かう。
「待ってくださいっ!!」
イズンが慌てて俺を追いかけてきた。
◆◆◆
街外れ。確かに街から外れた。
ほとんど雑木林と変わらん土地に、随分とボロい石壁が続く。
まったく手入れをされていないんだろう。
ところどころで崩れてんじゃねぇか。
入り込もうとすれば簡単だな。
門を探すが、結構歩いている。
相当でかい屋敷だったということか。
「……エミュにこの屋敷にいた連中のことを聞いてくりゃよかったな……」
こんなでかい屋敷にいたとなりゃ、結構有力な貴族だったに違いないが。
「ランドル家ですね。
貴族というよりは、[魔術師]として名を馳せた一族だったと聞いています。
でもだんだんと血が薄まり、力も無くしていって……最後に残った者が狂気の研究を行ったという咎で、一族が断絶しています。
その研究とやらで、多くの人や魔族が犠牲になったとか……。
私の生まれる前のことだそうです」
イズンが流暢に俺に説明をした。
「……ほう……」
[自称王女]も役には立つか……。
こういう知識は素直に感心する。
「ユリウス様……あれ」
突然イズンが前を指差す。
ようやく門らしき場所が見えてきたところに――ふたつの人の姿が見える。
それも、子供?だな。
「なんだ、あれ?」
朽ち果てた門から、中を興味深げに覗き込んでいる。
近所のガキか?
面倒なことにならんうちに追い返すか……。
俺がそんなことを考えていると、俺たちに気がついたガキが二人、俺たちに近づいてきた。
「……あんたら、[魔物退治]に来た人たちかな?
ここは危ないから。帰ったほうがいいよ。後は俺らがやっとくからさ」
ガキの一人。たぶん男と女だな。顔がよく似ている。
しっかし……生意気なガキだ。
「あ?ガキが何言って……」
「ユリウス様……この子たち」
イズンが話の途中で、俺の腕をつついた。
「あ?」
言葉を止めてガキたちをよく見てみる。
おい。こいつら耳が尖ってる。
って、まさか。
「……エルフ族の特徴ですね」
イズンが俺に囁いた。




