第16話 女は基本わがままだ
そうして翌日。
わざわざエミュの方から宿屋に来やがった。
まぁあいつから見たら、姉貴の家に来ているだけだからな。
「なるほどね……」
昨日、女将と話した内容を、イズンから俺の監修の元で、エミュに話した。
イズンに一人に任せると何言い出すかわからねぇからな。
エミュはニヤリと笑って「わかったよ」と答えた。
しかしこの姉妹。こうして見ると本当によく似ている。
「オルカを右大臣ともども止めをさすわけか……」
「まだやつらが何かをしてくると決まったわけではないがな。
イズンがこのままではすまないだろうって言うんでな。
何もしてこなかったら、こいつに責任を取らせるつもりだ」
俺が隣に座るイズンを指差して、エミュに話した。
「責任というと。私がユリウス様と責任をとって結婚すると?」
涼しい顔でとんでもねぇことを口走るバカ女。てめぇの妄想は聞き飽きてんだよ。
「いや。てめぇとは金輪際、二度と顔を合わせることのない別れをする」
「嫌です」
「それが[責任]というもんなんだよ」
「昨日一緒に寝ておきながら……」
「その手は食わん。だったらその胸を今すぐ巨乳に変えやがれ」
「出来ません。三ヶ月待つとおっしゃったではないですか。
それも[責任]ですよね?」
イズンは俺を責めるように睨みつける。
そればかりは失敗したと、激しく後悔してんだよ。俺は。
「なんだい、あんたたち。随分仲がいいんじゃないか。
そういう仲だったのかい?」
エミュが呆れ顔で俺たちに訊いてくる。
「って……冗談じゃねぇ!!」
「そうです!!そういう仲なんですっ!!」
俺は[否定]。イズンが[肯定]。
「本当にいい仲間だね、あんたたち。
でもよく似合ってるよ。このまま結婚しちまえばいいのに」
「断るっ!!」
「はいっ!!」
再び、俺とイズンの[否定]と[肯定]の声が重なる。
エミュははぁとため息をつき。
「まぁ……よくわかったから。
しばらくは様子見だね」
と呆れて笑っていた。本当にこれだから女は面倒なんだよ……。
エミュに念のため、右大臣セプラの屋敷に場所を聞いてみる。
なんでもこの[モカ]の街から、馬でも三日はかかる場所にあるんだそうだ。
良かった……行こうと考えなくて。
歩きだったら、一体何日かかるんだ。
「私はこれからクェートン様のところへ行くよ。
ここから馬で半日も走れば行かれるからね。夜にはあんたたちに返事を出来るだろう。
あんたたちの話をして、何とか協力を仰げるようにしてみるさ」
「急ぐ必要はない。それに協力は仰がなくていい。
後始末だけなんとかしてもらってくれ。こればかりは俺でも無理だ」
「あいよ……わかったよ」
エミュは苦笑いを崩すことなく俺に答えていた。
◆◆◆
エミュが出て行ってから。
部屋には俺とイズンの二人きり。
「お前、自分の部屋に戻れ」
「……嫌です」
「ああ?戻れ」
「嫌です」
「……じゃ、俺がお前の部屋に行く」
「では私も行きます」
「うぜぇんだよっ!!」
マジでうぜぇ。何なんだ、こいつはっ!?
「一緒がいいんです」
「……俺は迷惑なんだよ。わからねぇのか?」
「わかりません」
「俺は寂しがり屋でもなんでもねぇ。てめぇの妄想に付き合うのはいい加減疲れてんだ」
「妄想ではありません。運命なんです」
「いい加減にしろっ!!」
俺はこのバカ女の我が儘に、とうとう我慢出来ずに声を荒げる。
「いい加減にしませんっ!!」
って。どうしてこの女もキレるんだよっ!?
コンコン。
俺の部屋の扉をノックする音が二回。
なんだよ……こんな時に。
「お取り込み中悪いね、エミュだよ」
「あ?出かけたんじゃないのか……あんた」
俺が扉を開けて。扉の外にはエミュが立っていた。
「どうせしばらくこの街にいるんだったら、仕事でもしないかと思ってさ。
ここを出てから思い出して戻ってきたんだ…」
「なんだよ。そういうことは先に言えって……」
俺がのんびりとしたエミュの態度に呆れながら――頭をかく。
「それよりユリウスさんよ。女の子には優しくしてやんな。
胸は小さいかもしれないが、この子はいい子だと思うよ。
あんたにお似合いさ……」
「……説教だったら聞くつもりはない。
出てってくれ……」
エミュのやつ、聞いていたのか。何を急に説教じみやがって。うるせぇんだよ。
「本当に「ひねくれもののユリウス様」だね」
エミュはそう言って肩をすくめた。
「もう好きに言え。で……仕事ってなんだ?
くだらなかったら断るぞ。俺は暇じゃない」
「バリバリ暇だろう?」
う……。そう突っ込んできたエミュに対して。返す言葉が見つからない。
「まぁ。お聞きよ。悪い話じゃないと思うよ」
にやりと笑うエミュ。
こいつ……本当に人を誘うのがうまいよな……。
「わかった。聞こう……」
いじけて俺を見ているイズンの隣にもう一度座り、エミュが先ほどまで座っていた一人がけのソファに再度座る。
「実はね……」
俺とイズンはエミュの話に耳を傾けた。




