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第15話 面倒な事はさらに面倒になるってか

 西陽が差し込んで。眩しいな……。

 ソファに寝ていたせいで、体のあちこちが痛いし狭い……「狭い」?



「あああああっ!!?」

 背中に。どうしてお前がいるんだ、イズ――ンっ!!?



「あ……おはようございます、ユリウ……きゃぁぁぁぁっ!!」

 俺が驚いて起き上がったことで、狭いところに入り込むように俺の後ろでソファで寝ていたイズンが床に転げ落ちる。

「バカだろうっ!!てめぇはぁっ!!」

「一緒に寝たかったんですっ!!ユリウス様は重いからベッドに運べないしっ!!」

「床に頭打ち付けてもう少し利口になりやがれっ!!てめぇはぁっ!!」

 おかげで疲れが取れ……あれ?元気だ。

「どうですか。疲れが取れたでしょう?」

 忌々しい「ドヤ顔」しやがって。このバカ女はっ。

「ああ、取れた。どうもありがとう……でいいのか、この板胸女っ!!」

「なんてことをっ!!この暴言男っ!!」

 影も形もない胸を抑えながら、イズンはブチ切れた状態で俺に反論してきやがった。

「これは俺の性格なんだよっ!!城へ帰れっ!!」

「嫌ですっ!!」

 舌出して「べー」をするイズン。可愛くねぇんだよっ!!

「くそぉ。もぉっとかわぅぃくて、もぉぉぉっと胸がデカかったら、俺から頭を下げて一緒に寝たいぐらいだ。

 どうしてうまくいかないかなぁ。とぉっても残念だっ」

「私以上にかわぅぃ女の子はそうそういませんよっ!!」

 自分で言うな……妄想女。

「あああああかわぅぃねぇ、かわううぃぃぃねぇ。よかった。よかった」

「ムカつきます、その言い方っ!!」

「ムカつくように言ってやってるんだよ、バカ女」

「それはそれはまことにありがとうございます、寂しりやのユリウス様」

「いつ俺が寂しがったぁぁぁっ!!?」

「いつもですっ!!」

「ああぁ!?いつ、どこで、何時、何分っ!?」

「いつもいつもいつもですっ!!」






「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……メンドくせ」

「はぁ、はぁ、はぁ…まだ……私はいけますよ」

 バカは俺たちか……何やってんだよ。もう夜じゃないか。

「腹減った……」

 それはすくだろう。朝から何も食ってないんだから。

「そうですね。お食事もらってきましょうか?」

「そうしてくれ」

 って。何おさまってんだ、俺たちは?

「でも……ちょっと嬉しかったです」

 部屋を出ていこうとしたイズンが、俺にそんなことを言った。

「ああ?何が嬉しいんだ、てめぇは?」

 本当にこいつ。わけわかんねぇ。

「……ユリウス様。私と本気で言い合ってくださいましたから」

「……くだらねぇっ!!さっさと飯をもらって来いっ!!」

「はいっ」

 嬉しそうに部屋を出ていくイズン。

 本当に女って――メンドくせ。



◆◆◆



 飯も食い終わり……夜も更けてきた頃。

 女将マチルダが酒をもって俺の部屋を訪れた。



「ああ?領主が病気療養でこの領地から出て行ったぁ?」

 なんだ、その話はっ!?

「本当も本当さ。あたしらは勝ったんだよ。全部あんたのおかげだけどね」

「……勝った……か」

 まぁ。ご自慢の騎士団を壊滅させられたっていうことが、一番響いてはいるだろうが。

 それにしてもなぁ。どうもこの話、腑に落ちん。

「女将さん。オルカはどこに病気療養に行ったのですか?」

「ああ。嫁の実家だよ。逃げ込んだんだろ、そこにさ」

 俺とイズンは顔を見合わせる。

 右大臣のセプラを頼ったということだろうな……それは。

「女将。勝ったというには少し早いかもしれないぞ」

「なんでさ。そういやエミュもそんなこと言っていたね」

 さすがは[ギルド]を取り仕切るやつだ。

 話の重大さがわかっていると見える。

「なぁ。エミュから聞いたんだが、あんたたちの親父さんと付き合いのあった大臣ってどんなやつだ?」

「急に変なこと訊いてくるね、あんた。

 元左大臣のレプカ様だよ。今はこの国の王様のご意見番をやっているがね

エミュはそのレプカ様の息子で、現左大臣のクェートン様に故意にしてもらっているよ」

「なんだ。相当偉いやつじゃないか。王様に言うことが出来ないのか?」

「できりゃ苦労はしないよ。この国は「右大臣派」と「左大臣派」に分かれているらしくてね。それが色々面倒らしいのさ」

 どうも女将はその辺の話は詳しくないらしいな。

 俺はイズンへと視線を向ける。

 イズンは俺に小さく頷いた。たぁく。どこの国の偉い奴らもバカばっかだな。

「……オルカをやっつけて「はい、終わり」ってわけじゃなさそうだな……」

「明日、エミュがクェートン様のところへ行くとは言っていたけどね」

 俺の愚痴に女将がフォローのつもりなのか、そんなことを口にした。

 が、話の流れからじゃ「焼け石に水」ってことになるだろうな。

「それだけじゃ事はすまねぇだろ……」

「……そうですね」

 元はあの森に妾の別荘を建てたいっていう、領主の我が儘が発端なんだろ?

「俺が右大臣のところへ出向けはいいわけか?」

「それだけでもすみませんよ、きっと。

 ユリウス様が国外追放やら処刑やらされても、右大臣たちが残る限り、この街もあの森も危険にさらされ続けるわけですから」

 イズンがしれっと――女将が持ってきた葡萄酒の入ったコップを口に運びながら言ってのける。

「……ああ?どうして俺が国外追放やら処刑やらを受けなきゃならんのだ?

 そんな気は微塵もねぇよ」

「でしたら、右大臣ともどもオルカをぶっ潰してはいかがですか?

 その方がユリウス様らしいですけど」

「……てめぇ……」

「後始末をエミュさんを通じて左大臣様にお願いしたら。

 喜んでやってくださいますよ、きっと」

「……厄介なやつを一掃出来るってか。 

 しかも自分の手を汚さずに……」

「はい。そういうことです……」

 こいつ……とんでもねぇあまだな。

 だが。確かに俺らしいやり方ではある……が。

「でも右大臣の屋敷はこの街から随分離れているけど……行くかい?」

「……それもメンドくせぇな」

 女将の話に、わざわざ右大臣のところへ出向くのもメンドくさくなってきた。

「でしたら右大臣たちがこちらに来るまで待っては?

 あちらもこのままには出来ないはずですし」

 イズンの考え通りにやるのも気に食わん……が仕方ないか。

「それはいいね。

 ユリウス様がこの宿屋にいるとなりゃ、この宿屋にちょっかい出す奴らもいなくなるだろうし。なによりこの街の救世主様だからね」

「いいのか?俺がいればいるほど、受け取る「報酬」の額は増えるぞ」

「それが約束だろ。あんたたちがここにいる間、食事代と宿泊費はこちら持ちだって。

 それにあんたのおかげで、あんたたちに作る食事の材料費をタダで譲ってくれるやつらも出てきて、こちらは大助かりさ」

「そういうことなら、こちらは構わんが……」

「そうそう」

 相変わらず女将のノリはいいな。

「美味しい食事もまだまだ食べられるのですね」

 笑顔で女将に話す、調子がいいイズン。

「そう言ってくれるイズは可愛いねぇ」

 イズって……もうそんなに仲がいいのか、あんたらは?



「じゃ。もう少し待ってみるか」

 出来れば右大臣様には、早々にお出まし願いたいところだが。

「女将。エミュへ左大臣様のところへ行くのは待ってもらってくれ。

 明日俺たちがエミュのところへ行くからと」

「あいよ。今から使いを出すよ」

「ああ」

 厄介なことにはなったが――それも俺らしいってことか。

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