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第14話 寝たい時は寝るっ!!

 そういや――あのナリョートとか言うやつは、俺たちの戦いが終わる頃にはすでに姿が見えなくなっていた。

 結局は、怖くなったということなのだろう。



◆◆◆



 俺とイズンが宿屋に帰ると。



「救世主様のご帰還だ――っ!! 」

 な、な、なんだぁぁぁっ!!?

 うぉぉぉぉと、食堂から地響きのような歓声が湧き上がる。

「す、すごいですねッ!! 」

 あのイズンですら、両耳を手で押さえて驚いていた。

「お帰りっ!! 待ってたよっ!! 」

 女将が両手を広げて俺たちを歓迎した。

 あれ。エミュまでいやがるっ!!

 もしかしてナリョートというやつ。俺たちのことを知らせるために、先に帰ったということなのか?

 どれだけ暇なんだよ、この街の連中はっ!!?

「さぁさ。そんなところにつっ立ってないで。こっちにおいでよ」

 女将に手を引っ張られ、俺とイズンは歓声がくそうるさい食堂のど真ん中まで連れてこられた。

 そしてその歓声は一層うるさくなる。うぜぇぇぇぇっ!!!

「……」

 あ? イズンが何か言っている。 なんだ?

「……です」

 ああ? 歓声がうるさくて聞こえねぇ。って、あ……。丁度いいか。

 うるさいのは嫌だが、こいつの声が聞こえないのなら、我慢できる。

「わかった、わかった」

 俺は適当に返事を返すと、イズンはにっこり笑って頷いていた。

「さ。今ならユリウス様は俺たちを武器にしないってさっ!! さわれるチャンスだぞ――っ!!! 」

 一番盛り上がる歓声。

 ああぁっ!? どうしてそんな話になるんだよっ!!



◆◆◆



 あの短時間でこれだけのご馳走が並ぶのは――大したものだ。

 食堂には数十人という老若男女が入り乱れ、もう何の騒ぎかわからない状態と化していた。

 代わる代わる誰かが俺のジョッキに酒を注いでは、何やら声をかけていく。

 もうジョッキの中は、どんな酒がどのぐらいチャンポンになっているかわからない程、気持ち悪い味となっていた。

 ま。入れているやつらもべろべろに泥酔しているからわかりゃしないが。

 ここのやつらは、よほどお祭り騒ぎが好きな連中なのだろう。

 本当に変な街だよ――この「モカの街」は。

 だから女将は誰もが逃げる俺に対して、逃げることなく「この街を守るためなら、武器にされても構わない」と言えたのだろうな。

 


 俺は騒ぎ浮かれる連中の笑顔を見ながら――そんなことを考えていた。



◆◆◆



 夜通し大騒ぎして。

 朝方になって、俺たちはようやく解放された。

 ああ……疲れた。



「疲れましたね」

「……ああ」

「これからお部屋に戻ったら、ユリウス様の体力を回復させますね」

「いい。それは起きてからにしろ。俺は寝る……」

 イズンに適当に答えて、俺は自分の部屋に戻ろうとした時。

 何故かイズンに右手を掴まれた。

「なんだよ? 」

「守ってくださいね……約束」

「は? 」

 何だ? こいつは何を言ってやがる。

「約束なんてした覚えが微塵もない」

「しましたよ、ちゃんと。ここに戻ってきた時に」

 ……あ。

 何か、嫌な予感がする。

「これから寝る時は一緒に寝てくださいね。お願いしますと言ったら、「わかった、わかった」と。私はちゃんと聞いてましたからね」

「……言ってない」

「言いましたっ!! ちゃんと言いましたっ!! 「約束破りのユリウス様」なのですかっ!? 」

 何だかかんだと色々言われたが、イズンに名付けられたこの「二つ名」が一番不愉快だ。

「撤回しろ」

「嫌ですっ!! だって守ってくれなかったら、本当のことになるんですからっ!! 」

「うるせぇ。黙れ」

「黙りません」

 こいつは……本当に強かな女だよなぁ……。

「「抱いて欲しい」と言ってるんじゃありません!! 一緒に「寝てください」と言っているんです」

「お前はあの「タイツ野郎」よりバカだろうっ!? 俺は健全な男子だぞっ!! 」

「あらっ!? 板胸の女はその気が起きないのではなかったですか? 」

 あああああ。疲れきっているのに。すぐ寝たいのにっ。

 余計にストレス貯めさせるじゃねぇよっ!!!

「そういう意味じゃねぇよ。万が一、俺が何かされたら、俺が可哀想だって言ってんだよっ!! お前のことなんか知らんっ!! 」

「何ですか、それはっ!! 約束は約束ですっ!! 」

「知るかぁっ!! てめぇの部屋があるんだろうがっ!! 俺は眠いっ!! 寝るっ!! 」

「ユリウス様がそう言うなら、私はユリウス様の部屋の前で寝ますっ!! 」

「おおっ!! 勝手にそうしてろっ!! 」

 ちょ――メンドくせぇぇっ!!

 俺は部屋の扉を勢いよく開け、そのまま部屋に入り、バタンっと大きな音をたてて閉める。どうしてここまでムカついているんだ、俺は。

 あんな女のことなんか、放っておけばいいはずだ。今までもそうしてきた――はずだし。

 それにあいつも諦めるだろ。構うな。俺はそう、自分に言い聞かせた。



 

 あれから一時間程。

 俺はすでにベッドに体を横たえている。

 


 まだ扉の外には、イズンの気配がしていた。

 絶対、あのことで味をしめている。

 俺が開けてくれると思い込んでやがる。

 死ぬまでそうしてろ、全く。くそ……眠れね。



 俺はベッドから起き上がると、扉の方へとずかずか歩く。

 そしてノブを回し勢いよく引いた。

「きゃぁぁぁっ!! 」

 扉に持たれて寝ていたのだろう。

 イズンが俺の足元に転がってくる。



 俺は最高に不機嫌な状態でイズンを抱き上げると、俺の寝ていたベッドの一歩手前でこいつの体をベッドに放り投げた。

「きゃぁぁぁっ!!! 」

 イズンはドンと叩きつけられたが、ベッドの上ならそうは痛くねぇだろ。

 俺は――ソファへと向かうと、そこへ体を横たえた。

「どうしてですかぁっ!? 」

「お前なんかとベッドを共に出来るかっ!! それで我慢しろっ!!

 俺はここで寝るっ!! 」

 くそっ。どうしてこんなことになるんだっ!!

「……一緒に寝ましょうよ……」

「断るっ!! 」

 横になったら、急に睡魔に襲われた。俺の意識はどんどんと眠りへと向かっていく。

「もう話しかけるな。寝かせろ」

 話すこともメンドくせ。

「……変なユリウス様。本当に「変わり者」ですね……」

「……るせ。明日は……領主んとこ行く……寝ろ」

 てめぇに言われることが一番腹立つんだよ……。



  

 頬に何か暖かい小さな何かが触れたような気がしたが。その時の俺は、意識を手放す頃で、それが何なのか――知る気も失せていた。

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