第13話 そしてそこは「阿鼻叫喚」
俺とイズンは騎士団より十数歩離れたところまで歩み寄る。
「イズン。お前はここで見てろ」
「防御は必要ありませんか? 」
騎士団を見ていた俺は、イズンへと振り向いた。
「――失礼いたしました。必要ありませんね」
「そういうことだ」
イズンは俺ににっこりと笑って謝る。
こういうところは飲み込みがいいんだがなぁ。こいつは。
「さて、と」
俺は「ナズ」の柄を力強く握った。
◆◆◆
「……どうだ、「極悪人ユリウス」よ。
例え貴様とて、オルカ様の精鋭部隊である「聖々騎士団」相手では、歯が立つまい
あはははははっ!! 」
銀色の甲冑の騎士たちをバックに、あのタイツ男が仁王立ちで笑っている。
とうとう俺は「極悪人」呼ばわりまでされたか。どうでもいいけど。
しかしこのタイツ男は――「正真正銘のバカ」なんだろうなぁ。きっと。
俺は答えるのも面倒で、て早く「ナズ」の剣先を天高く掲げた。
「なんのマネだ? 」
「まぁ……見ていろ、タイツ野郎」
「た、タイツ野郎っ!!? 」
俺の言葉を聞いて、タイツ男が逆上している。
見たまんまを口にしただけじゃねぇか。
「メンドくせ。「雷っ」」
夕暮れ迫る茜色の空から。突如爆音が、響き渡る。
タイツ男が両耳を塞いでその場に座り込む。が、その周りの騎士たちが、バタバタと倒れていく。
「な……何をしたっ!? 」
膝なんか地面について。あーあ。自慢の真っ白タイツが汚れちまうぞ、タイツ男……。
「……手加減はしてやったんだから感謝しろ。
雷落として、そいつらは気絶しているだけだ。
まだ騎士団の半分は残ってるからな……俺の活躍の場を残しておかないと面白くないだろう? 」
俺が不敵な笑みを浮かべる。
本当は殺しちまっても構わないんだがな。「殺す」ところまで騎士団の連中は「俺」には悪さをしていない。
この街のことは知らん。
タイツ男は、どうするかな?
「ユリウス様……」
「なんだ? 」
イズンが俺に近づいて呼びやがる。
「その剣は……「雷」を呼ぶ能力が出せるのですか? 」
「それか。説明が面倒なんだがな。
これはなんとかという盗賊団を退治する時に、そいつらが命乞いした際の俺への貢物として差し出したもんだ。
「武器精製」じゃ俺の体力は半分消費されるが、この剣は「俺」の「言霊」をある程度具現化出来る能力を持つ。
「剣」として振るう接近戦が一番こいつが能力を発揮するがな。
ただし広範囲は無理だし、最強の力というわけでもない。だが体力の温存は出来る。
俺がこの剣を気に入っているのは、「こいつ」を媒介として「武器精製」した時が、俺の能力が最大限に発揮されるからだ。
魔術で出し入れも可能だし。まぁ……便利グッズってわけだな」
「そうなんですか。
ところでその盗賊団はどうされたんです? 」
「ん……俺をだまし討ちしようとしたんで皆殺しにしてやったが。
俺の「依頼」はその盗賊団の「退治」だったんだ。「依頼」は完了させたぞ? 」
イズンは不思議そうな顔をしている俺を見て、満面の笑みを見せる。
「なんだよ」
「ユリウス様は……やはり「ひとでなし」ですね」
「うるせぇ……」
嬉しそうに笑いやがって、この小娘はよぉ。てめぇも雷を落としとけばよかったぜ。
「ところで……ユリウス様。騎士団の方々が」
イズンが俺の後ろを指さす。
「わかってる」
萎えた気持ちを奮い立たせたのか……。
残った半分の騎士団連中が、剣を手に俺目掛けて殺到した。
「そうこなくちゃな……」
これは。俺に手を出したことになるよな。
おもしれぇ……てめぇら。俺に手を出したことを、「ヘルヘイム(死の国)」で後悔してこいや。
「「ナズ」……「雷の剣」っ」
俺の右手に握られた剣から、パチパチを音が鳴り始める。
目に見える形で。剣の姿は雷の輝きに覆われていた。
俺は大きく口元を緩め。いや。自然と笑っちまうんだがな。
「雷の剣」となった「ナズ」から、放射状に稲妻を走らせていく。
相手は金属の鎧で覆われた連中だ。雷は喜んで騎士団の連中に吸い付いていくわけだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!! 」
「う…うわぁぁぁぁっ!!」
「た、たすけぇぇぇああああっ!!」
阿鼻叫喚。
石畳の道に、黒焦げになった金属の甲冑と、炭化した人の体が転がる。
「……こんなもんかな」
俺が、何事もなかったかのように呟くと。
ただ一人残ったあのタイツ男が、失禁して――汚ねぇ。
道にペタリと座り込んでいるところへ、俺とイズンがゆっくりと歩み寄る。
「お前一人になったが。どうするよ? 」
「……ひっ」
俺が話しかけると、タイツ男が小さな悲鳴を上げた。可愛くねぇな。
「ひ……ひ……ひ」
「何笑ってんだよ。ひひひって……」
「ひぎゃぁぁぁぁぁっ!!! 」
絶叫を上げて、タイツ男は俺たちの前から全速力で逃げていった。
「なんだよ。そんなもんか? 」
俺はそう呟くが。
調子ぶっこいて「武器精製」をやっちまったもんで、本当は――体力は底を尽いていた。
「ユリウス様。宿屋に帰りましょう。
お疲れでしょうから、私がゆっくりと疲れを癒して差し上げます」
「……いい。断る」
「何故ですかっ!!? 」
てめぇの世話にはなりたくねぇよ。
「ところでイズン」
「何でしょう? 」
「お前、この状況を見て……よく冷静でいられるな」
なんでだろうな。俺は、こいつにそんなことを訊いていた。
「私は大丈夫です」
「なんで? 」
「だって「ひとでなしのユリウス様」の未来の妻ですから」
妄想は……とうとうそこまで到達したらしい。
イズンはいつもと変わらぬ笑みを浮かべて。
疲労と驚愕を隠せない俺に――笑ってみせた。




