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第12話 俺のやりたいようにやる

 この際、この男のことを「タイツ男」と呼ぼう。

 こいつは領主であるオルカの家臣らしいが。まぁ、態度がでかい。

 その上、食堂の奥の席に陣取ると椅子にどっかりと座り込んで足を組みやがる。

 それほど俺を笑わせたいらしい。



「で。話というのは? 」

「ユリウス殿を、オルカ様が所望されている」

「はぁ? 俺はそんな趣味はねぇぞっ」

 あのなぁ。キモイこと言うんじゃねぇよ!!

 タイツ男も自分の言った意味に気づいたらしい。

 頬を赤らめ「だから。ユリウス殿を雇いたいという意味だ」と言い直した。



「断る」

 俺は言い切った。

「なにゆえだ? 」

 タイツ男の表情が一気に険しさを増す。

「貴様の態度が気に入らん……」

 貴様の格好も気に入らん。笑うだろう。

「……さすがは「冷血漢のユリウス殿」か」

 タイツ男が苦笑いで呟く。どこまで俺の「二つ名」が増えるのか。この際楽しみになってきたな。これ。

「そういうことだ。あんたは俺に「武器」にされたいのか? 」

 俺の言葉に。タイツ男の腰が浮きかけただけじゃない。背後に立っていた家来たちまで逃げ腰だ。

「……そ、そんな趣味はないぞっ!! 」

 タイツ男が俺に言う。俺にもそんな趣味はないっ!!

「俺を雇いたいというなら、この領内の税収と匹敵するだけの「依頼料」と俺に武器にされてもいい覚悟を持って「依頼」に来い。

 それがなければ貴様たちの「依頼」なぞ受ける気もない」

 ニヤリと笑う俺の顔に、タイツ男と家来たちは――食堂の出入り口へと逃げる体勢を整えている。

「おい、女将っ!! 貴様はこの男に武器にされる覚悟があるのかっ!? 」

 苦し紛れなんだろう。タイツ男が女将マチルダに声を荒げた。

「……あるね」

 そう言い切って。笑う女将に、タイツ男の顔から血の気が一気に引いていく。

「こ、こここ、後悔するでないぞっ!! 」

「するか」

 俺の即答に、タイツ男たちが一斉に食堂から逃げるように去って行った。



 うわぁぁぁっ!!

 突然。食堂の客たちから歓声が上がる。



「な……なんだっ!? 」

 驚く俺に、つんつんと俺の背中をつつくイズン。

「すごくかっこよかったです。ユリウス様」

「……当たり前だろう? 今更だ」

 しれっと――装って。俺は顔色ひとつ変えずにイズンに言った。

「いいねぇ。気に入ったよ、ユリウス様。あの領主たちに靡かないなんてね」

「靡く必要性が見当たらん。それに女将のあの一言が効いているだろうからな」

 俺はそっちに感心したぞ。

「あれはあたしの本音さ。この街を守れるんだったら、あんたに武器にされても構わんさ」

「……俺の依頼主は女将だ。そんなことはしない

 しなくても、俺なら出来るだけの力があるからな……任せろ」

 俺は女将に聞こえるだけの声で――そう話した。

「期待してるよ、ユリウス様」

 女将マチルダがあの笑顔で俺に笑いかける。

 気に入らんが……イズンは俺の後ろで微笑んでいた。



「とは言え。これはあまり時間を置きたくはないな……」

 後で領主が出てきてこの街全体が巻き込まれると、余計に面倒だ。

「女将。領主のいる場所を教えてくれんか? 

 今から出かけてくる……」

「あれ? もう行くのかい? 」

「俺は意外と気が短い。

 面倒なことはさっさと片付けたいだけだ……」

 驚く女将に俺は答えた。

「じゃ、教えてやろう」

 女将が笑う。

 疲れてはいるが――まぁ仕方がない。

「イズン。お前も疲れていると思うが付き合え」

「はい。そのつもりです……ユリウス様」

 いい返事だ、イズン。

「領主の城はね……」

 女将が言いかけた――その時。



「マチルダ――っ!! 」

 食堂に血相を変えた男が一人。慌てて駆け込んできた。

「どうしたんだいナリョートっ!! 」

 あまりの勢いで飛び込んできたせいか、テーブルの角に服を引っ掛け、派手に転倒するナリョートという男。

「た……大変だっ!! この街の外に領主オルカの騎士団が盗賊の摘発だと武装して来ている……ど、どうするっ!? 」

「……強行手段というわけかい……」

 ナリョートの説明に、女将が悔しそうに言葉を吐き出した。



「そんなことか……だったら俺に任せろ。

 さっきのタイツ男はその連中と一緒に来ていたんだろう。

 俺の出方次第ですぐに行動出来るように準備していただけだろうからな。

 ちょっと片付けてくる……」

「イイのかい? 」

 驚く女将に、俺は呟いた。

「仕方ないだろう? こうなっては俺しか出来ないことだからな」

「かっこいいです、ユリウス様っ!! 」

 こういう場合は俺をもっと称えろ、イズン。こういうことなら構わん。

「とてもとても「ひとでなし」とか「ろくでなし」とか「人非人」とか「冷血漢」には見えませんっ!! 」

 イズンよ。「口は禍の元」ということわざはお前のために存在するらしいな。

「黙れ」

「せっかく褒めたのにぃ」

 ムカつく言葉は控えろって言ってんだよ。

「さて。ナリョートとか言ったな。お前は武器にはしないから、その騎士団のいるところまで案内出来るか? 」

「おお。そういうことなら任せとけっ!! 」

 こういうところは、この街の連中はノリがいい。

 だから俺のことが知れ渡った時も、その情報伝達の異常な速さと、逃げ腰の結束感はすごかったわけか。

「じゃな、女将。ご馳走作って待っててくれ」

「あいよっ。行っといでっ」

 こういうノリは――嫌いではないな。

「行ってきます、女将さん」

「あいよ。気をつけてな、早く帰っといで」

 イズンにも声をかけ、宿屋の外まで俺たちを女将は見送った。



◆◆◆



「こっちだ」

 ナリョートが俺たちを街の外へと案内していく。



「……ほう」

 街の外。というよりは、既に街中へ入り込んでいる騎士団。

 全身銀色の甲冑に身を包んだ集団――勇ましいお姿だな。数は…七、八十人というところか?

 ほとんど全部の騎士団員が来ていると見える。それだけすごいということか、俺。

「ナリョート。あんたはもういい。危ないから帰りな」

「そうはいかないさ。見届けるよ。こんな戦いなんて、滅多に見られるもんじゃない」

 血の気の多さもこの街の連中の特徴か? 全く。



「……じゃ。久しぶりにこいつを使うか……なぁ「ナズ」」

 俺が右手を自分の前に差し出すと。

 銀色の輝きに彩られた光球が出現する。

「それは? 」

 イズンが不思議そうに俺に尋ねてきた。

「俺の「奥の手」だ。

 「ナズ」。ちょっとした「名剣」でな……まぁ、見てろ」

 俺がそこまで説明すると、輝きは消え――光はひと振りの剣となり、俺の右手に収まっていた。

「さて……行くか」

「はい」

 俺たちは騎士団へと歩みだした。

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