第11話 なんだ…その「ドヤ顔」
「答えよ!! 汝は何者ぞっ!! 」
大真面目な顔で、突然イズンがそんなことを叫ぶ。
いや、ドラゴンだろ。相手。
『……グゥゥ』
あれっ!? ドラゴンの動きがピタリを止む。何が起こったっ!!?
「答えよ!! 汝は何故ここにいるっ!! 」
『グァウっ……』
おい。ドラゴン苦しがってるぞっ!! イズンはそんなドラゴンから目を全く逸らさない。ちょ……お前結構すごいのか、イズンっ!?
「答えよ!! 汝の体はどこぞっ!! 」
『……ゥゥゥゥゥ』
え? ちょっと待て。イズンがそう言った途端。赤いウロコのドラゴンが――消えた?
「……ふぅ。こんなものでしょうか? 」
息を吐きだして。俺に笑顔を見せる。
俺はそんなイズンを唖然と見つめて。こいつが「ハーフエルフ」というのは本当なのか?
と、今更ながらに考えてしまう。が。
そんなことをしている暇はない。
俺はドラゴンのいた茂みに向かう。
イズンも俺の後に続いた。
「お前……これが何なのか、始めからわかっていたのか? 」
俺はイズンの顔を見た。
草をかき分け、俺が見つけたものは――俺の握りこぶし程度の大きさの白い石。
何かの「魔術」を込めたものだと、俺にもわかる。
手に触れることを憚るほど、「負」の力を感じるからな。
「はい。あのドラゴンには実態がありませんでしたので……。
私が使った「呪文」は相手の「存在」を問うものです。
生きているモノには何の効き目もありませんが、この世界に実態のないモノに関しては絶大な効果を発揮します。
この世界に「存在理由」がありませんから。そういう類の「術」です」
「存在理由」ね……。何故か耳が痛い。
「で。お前は、これは何だと見る? 」
「「魔石」……でしょう。
それでもかなり高等な魔術を施した「魔石」だと思います。
ユリウス様が触られることを拒む程ですから……」
イズンも「こういうこと」に関してはある程度使えそうだな。
「ふぅん。このような「魔石」がこの森にいくつも仕掛けられているってわけか」
「だと思います。調べてみれば見つかるはずです。
この「魔石」のすごいところは、「力のないもの」には実害のない「脅し」だけの幻覚を見せて。ユリウス様のような実力者には実害のある「攻撃能力」を持った幻覚を見せた。
それがドラゴンの「色」になって現れたのでしょう。
赤は最上の「警戒色」ですので」
イズンはにこにこと笑いながら俺に説明する。最高にムカつく「ドヤ顔」で。
「そういうことか……助かった」
嫉妬を全面に押し出しても大人気ないので。俺は全てを抑え込み――イズンに礼を言った。
「いえいえ。ユリウス様と将来を誓い合った仲ですもの」
もう「取り返しのつかない」可哀想な「病気」を発症しているのだろう、この女。
俺があのドラゴンなら――最上の「警戒色」でこいつを食い殺しているところだろう。
◆◆◆
この森はそんなに広くないとは言え。
俺とイズンだけでは結構広い。歩き回るだけで疲れちまう。
結局「浄化」の魔術を施せるイズンと行動を共にせねばならず。
こいつの妄想に心身が疲れ果てて――夕方を迎える。
魔石は全部で五ヶ所に置かれていた。
どこも人が入り込みそうな場所。
そうしてこの森に入ってくる人間を脅かしていたわけか――。
「……ユリウス様は結構魔術に関してはあまりお詳しくないのですね」
本当にこいつ、ムカつく。
「俺の能力は「武器精製」だからな。
四大元素の構成やその類のことは調べた……」
「それは「魔術」の基礎中の基礎ですよ。
「武器精製」の御力も、「魔術」の知識があればもっと攻撃能力を高めたり出来ますのに。
「最強」の御力とは言え……もったいないですね」
俺は煮えたぎる感情を抑え込み。ひたすらこいつの前では無表情に徹する。
「でも私がいれば大丈夫ですけどね」
ニッコリと腹立つ笑顔になりやがって――。
結局。それが言いたいだけだろうが、貴様は。
ああ。本当にウザい。
「でもこれで……。
エミュが言った「領主」やらの仕業の可能性が高くなっちまったな」
「そうですね。
これだけの魔術を施せる魔術師が何の意味もなく、こんな場所に「魔石」を置くはずもないですし……」
何か――急に貫禄を増しやがったなこいつ。
流暢に話しやがって。マジ、ムカつく。
「お前。お父上に頼めよ」
「嫌です」
イズンは、相変わらずそれは「否定」する。
お前が頼めば、俺は面倒なことをしないで済むんだよ。
「とにかく帰るぞ。俺は疲れた……」
「そうですね。帰って女将さんの手料理が食べたいです」
それはいい。だが俺が疲れた九割以上はお前の責任なんだよ、イズン。
気がつけ。自覚しろ。全く――。
◆◆◆
「領主の使いが来た? 」
何とか日が落ちる前に俺たちは宿屋に着くことが出来た。
そこで女将が俺たちに昼間の出来事を告げてきた。
「ああ。急にでね……私も驚いたさ。
「ユリウス殿はいるかっ」って突然乗り込んできやがった。
ドラゴンが出るっていう森に行っていると言ったら、血相変えて出て行きやがってね。
なんだったんかね、あれは? 」
「ほう……森ではそんなやつに合わなかったな」
くそ面白い展開になりやがったな。あちらから出向いてくれるとは。
「どうされますか……ユリウス様」
「そうだな……もう一度、その使いとやらが……」
俺がイズンにそこまで言いかけた時。
「失礼する」
良質な絹の衣服に身を包んだ男が、数人の連れのような連中を率いて宿屋の扉を開けた。
「「武器の魔術師ユリウス殿」がこの宿にいると聞いて参ったのだが……戻られたか? 」
そう女将に訊いた男の足。白タイツじゃねぇか。うわぁ……これ今身分の高い方々の間で流行っている衣装なんだろう?
なんだかすごくこいつがイズン以上の「バカ」に見えるのは何故だろうな?
「ああ。あんたの目の前にいる人が、お目当ての「ユリウス様」だよ」
女将が俺を指差す。
「俺に何かようか? 」
この男を直視すると笑ってしまうので、俺は男の「顔」だけを見るようにする。
下見たら――ダメだ。大爆笑する。
「丁度良かった。そなたに頼みたいことがあるのだ」
笑える男は俺にそう言った。




